常夏の宇宙人に俺は攫われる

さち

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第一話

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「はぁ……」


 夏休み。
 高校三年生になった颯人はやとには憂鬱なものでしかなかった。
 平日よりも増えた勉強量。
 机には、教科書やら参考書やらが、山脈を作っていた。


「あの大学、俺には絶対無理だよなぁ」


 目の前に掲げてある目標が書かれた紙を見て、モチベーションを上げるどころかため息をつく。
 だが、それもそのはずだ。
 颯人は別に大学行きたいわけではない。
 いけなくはないのだ。しっかりと勉強すれば受かる、その程度。

 でも、颯人には夢がなかった。
 周りの友人らは一足先にとばかり、将来を見据えて現状就きたい職業体験などを勤しんでいる。
 進学を選んだ奴らは、それぞれ何を学びたいか―――そんなことを夢見ながら今日も切磋琢磨手を動かしていることだろう。

 今まで生きて、何か夢中になるものはなかったかと聞かれれば、「まぁあったかな」とあいまいな返事をする颯人には、周りがまぶしく見えていた。


「颯人、勉強は進んでるかい?」

「ばあちゃん、うん、まぁぼちぼちかな」

「そうかい、颯人は頭がいいからねぇ、いい大学入って勉強して、立派な大人になっとくれよ」

「うん……」


 颯人の様子を見に来た祖母は、氷が入った麦茶をついでにとテーブルに置く。
 

「ありがとう、ばあちゃん」

「いいんだよ、颯人が勉強するのなら、協力させとくれ」

「うん」


 申し訳ない気持ちで、颯人は、麦茶に口をつける。
 冷たい麦茶は、先ほどまで感じていた焦燥感をうっすらと和らげてくれた。
 だが、それもつかの間。 勉強を始めると、キラキラと輝いた同級生たちの顔が颯人の脳裏に浮かぶ。


「じゃあ、おばあちゃんは畑に行っとるから、用事があった呼んでおくれ」

「うん、わかった」


 夕方になり、涼しさが増し始めたこの時間帯、颯人の祖母は、畑で一仕事を始める。
 小さいころは、颯人も一緒になって畑しごとを手伝っていた。


「農家―――か」


 口に出したものの、農家のなり方なんてわからないし、両親が猛烈に反対することを想像して、頭を振る。


「―――俺には無理かぁ」

 
 認めたくないが、颯人はその言葉を飲み込むしかほかなかった。
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