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1章 機士の章
第4話 脅威のバイオクレスタ―・地球氷河期計画④
しおりを挟む「さて、これでうるさいのが居なくなったが早速行くか?どの道やる事は一つしかないからな?」
「ホットスパ―、カローニン、実はあの図像獣は空飛ぶ船が変化した物なのだ。つまり中に人質がいる。内何人かは主の学友だ。そのまま爆砕とはいう訳にはいかん」
「だが、あの巨大さはいわば要塞。要塞や城が内側からの攻撃に弱い事は古今の戦いが証明している。無論向こうもそれを承知の上で迎撃してくるだろうがな」
機械騎士らの議論を聞きながら、星川勇騎と金雀枝杏樹は色以外に殆ど区別のない彼らにも個性というものがあるのだと実感する。
「ではホットスパー、君が先陣を切ってくれ。まだあのコートオブアームズは持っているだろう?」
「勿論だ。俺の開いた血路を通って突入するつもりだろうが、こちらが一番槍を付けても構わんな?」
「それで構わない。たった3騎だ。他を気にしている余裕は無い。突入後は主とユウキ、お二人にマスルガを任せます。それで中の人質を一ヶ所に集めて頂きたい。その守りはカローニン、頼めるか?」
「良いだろう。この中で守りが固いのは私だからな。敵の掃討は任せるぞ」
そう言うとカローニンは神社の鳥居のミニチュアの様な物をヴィダリオンへ渡す。
「流石気が利くな」
「フィッツガルト監督官も言っていたが迂闊だぞ。完全装備していくものだ」
「肝に銘じよう」
「ヴィダリオン、それは何?」
「新兵器コートオブアームズです」
ヴィダリオンは鳥居のミニチュアを建てに重ねると鳥居は盾に吸収され盾上部の模様となった。
「先に行くぞ!!」
ホットスパーことパールウェイカーは騎乗した機動鋼馬ベオタスの翼を開き飛翔する。
「アレ、ペガサスかよ!?」
「希少種です。普通の機士には手が出ない値ですよ」
「でも私達はどうやって?」
「それはこうします。コートオブアームズ・チェンジマートレット!」
カローニンのアイロン型の盾上部の鳥の絵が輝くと同時に巨大化し彼の体を包む。カローニンは一瞬の内に機械の燕となってふわりとホバリングすると両爪で勇騎と杏樹を背にヴィダリオンを乗せてホットスパーの後を追う。
「あれ、全然風を感じない?」
「私の羽の下は一定の環境が保たれる保護空間です。代わりに戦闘力は2人には及びませんが」
「謙遜だな。主、カローニンは士官学校を首席で卒業している優秀な男です。剣の冴えは私やホットスパ―の比ではありません」
「道場剣術だよ。実戦は君達の方が経験している。だから我々の安全を確保してくれ」
「さっそく始まったな」
ヴィダリオンが見上げた先にはいくつもの戦いを告げる赤い花が咲き乱れている。ファルコンクレスターの羽毛から分離変化したファルコンクレスターベビーの群れがホットスパ―とベオタスに殺到する。
「フン!ベオタス、奴らに本当の武器としての羽の使い方を教えてやれ!ブレイドフェザー発射!!」
主に負けず劣らずベオタスは居丈高にいななくと両翼から鋭い小刀状の羽を放出し周りのベビー達を瞬時に切り刻む。
それに怯んだベビー達の動きが止まったのをヴィダリオンは見逃さなかった。
「よし今だ!コートオブアームズ・ブースターレイブル!!」
ヴィダリオンのアイロン状の盾上部の鳥居状の模様が実体化して二つ折りになると、背部のマントを覆うようにして合体し大型の推進器となる。
「では行ってまいります、主。中で会いましょう」
そう言うとブースターを吹かし周りのベビー共には目もくれずファルコンクレスター目掛けて一直線に飛び出した。
「すげー!もう見えなくなっちまった」
「まあ、加速と減速は凄いのですがね。旋回力が死んでいるので何があろうとこの場合突っ込む以外に道はないのですが」
「見て!敵の動きが!?」
「ム?対応が早いな。いや早すぎると言うべきか?」
カローニンの言う通りだった。このベビー達の背後には指揮官たる邪神官が存在していた。
彼らの創造主邪神官プレハはベビー達に渦を描くような編隊を命じると5~6羽ほどのベビーが空のあちこちで命ぜられた編隊を組む。その動きは竜巻状のドリルとなって四方からヴィダリオンとホットスパ―を襲う。
「そのバカスピードを落とせ、ヴィダリオン」
「何?」
「竜巻には竜巻だ。コートオブアームズ・スターシールド!」
ホットスパ―の左肩の大型のシールド上部に描かれた星が実体化、左手に星形の盾として備わる。
「スターシールド、ランスモード!ベオタスよ、竜巻に突っ込め!」
星の頂点が内側に閉じて円錐状になると同時に回転を始め、ホットスパ―は竜巻の一つに真っ向から突撃しベビーらのフォーメーションを崩すと同時に彼らをバラバラに引き裂いていく。
「やはりな。急激な軌道変化はまだ出来ないらしいな。これならば」
空を縦横に駆け仲間を襲う竜巻の群れを1つまた1つと文字通り吹き飛ばしていく。
(ホットスパ―め。冷静な判断力も身につけたのか。勇者ヴィダリオンは一体どんな指導をしたんだ?)
ヴィダリオンらの知るホットスパ―は勝算などお構いなしに押しまくるだけの男だった。そして仲間の事などお構いなしに機会と見れば敵の大将首目掛けて突っ込んでいくのだった。
「ホットスパ―、同時に同じ部分に突っ込むぞ!」
「心得た!」
紋章剣を構えて最大速度のブースターレイブルでの突撃にファルコンクレスターは身をよじる。すかさず後ろから場所を違わずスターシールド・ランスが突き刺さり、ファルコンクレスターの腹に亀裂が走る。そこに2人の機士が体をぶつけながら鋼鉄の肉体に穴を開けて転げる様に侵入した。傷口が塞がる直前慌てることなく優雅にカローニンが中に入りふわりと着地する。
「さて、どこに人質がいるかだが・・・・」
「多分、前の方だ。ここは丁度真ん中あたりだから。もちろん動いていなければだけど」
「これだけ大きいとなると移動にも一苦労のはず。よほどのことが無いと動かしたりはしないでしょう。むしろ邪神官共に気を付けねば」
変身を解いたカローニンは自身の機動鋼馬ヴァレルを召喚し、跨る。この馬は胴回りを鞍部分にアームを付けた装甲版で覆っており高い防御力を誇る。
「ウム。では俺はまた外に出て連中の目を引き付ける。主、お気を付けて。ユウキ、マスルガを頼んだぞ」
ヴィダリオンはマスルガを召喚する紋章へ戻りとホットスパ―は再び外へと飛び出していった。
「任せろ。そうだカローニン、物は相談なんだけど・・・・」
「・・・・やってみましょう」
「ああ、皆さん今日でこのブンゲンチャンネルは最期になるかもしれません。皆さんどうかお達者で。そしてチャンネル登録を忘れずに」
「意外と余裕だな、お前。外があんななのに動画見てる奴なんかいねえっての」
分限広人や新井陸らが人質となってからそろそろ半日が経とうとしていた。相変わらず外との連絡は取れず、外の様子は目の前にある巨大なスクリーンに映し出される、どこもかしこも凍り付いた地上の惨状だった。
だが周辺がにわかに騒がしくなり、爆発音が響く。
「もしかして自衛隊が助けに来たのかな?」
「かもな。だけどあいつらがそんな簡単に俺達を逃がすと思うか?」
陸は中空を見据えるテロリスト(三神官の事)共がブツブツ呟きながら何事かを相談しているのを見て何かが起こった事を悟るが楽観はしていなかった。
「機士共め、内部に突入したか。内部部品では流石にベビー共は造れん。ガルウ、後ろの扉を見張れ。そこしか侵入口はないからな」
「ころしていいか?」
「勿論だとも」
へへへと舌なめずりしながらガルウは影のように素早く数十キロはあるかと思われる廊下を走る。だが背後から馬に乗ったカローニンが飛び出すと素早くターンして爪を振るう。
「まさか大型の荷物を置く場所がこの下にあったとはな。そこを警備していないのはうかつだったな!我が名は聖械騎士団従機士カローニン。いざ!」
「貴様、ころすころす!」
一杯食ったと知ったガルウは怒りに任せて闇雲に両腕を振るう。カローニンはその斬撃を盾から実体化させた幅広の短剣で受け流しつつ扉から遠ざかっていく。
「よし今だ」
2人が十分に遠ざかったのを確認した勇騎はマスルガを突入させる。
「しまった!」
「行かせるか!」
マスルガを止めようとするガルウを馬を降りて巧みに剣と体術で床に引き倒すカローニン。
「ガアッツ!!」
バック転の要領で蹴りを放つガルウ。カローニンはそれをのけ反りつつ躱しながらマントを翻す。
「退場頂こう!ディバインウェイブ!」
「うおおおお!?」
たなびくマントの裾から細く青い光が放たれ、ガルウのみを包み込み異空間へと追いやる。
「さて、ヴィダリオンを追うか」
愛馬ヴァレルに跨るとカローニンは前方へと進む。
「おい、皆無事か!?」
「よかった!皆いたわ」
「勇騎、金雀枝も!?何でここに?」
だだっ広い通路からようやく人間を見つけた勇騎と杏樹はそれが新井陸らクラスメイトだと知ってホッとする。見た所ケガもないようだった。
「え、馬?」
「いいから話は後だ。皆を一ヶ所に集めるから協力してくれ」
「こんなに広いのにかい?」
「いいぜ、やってやる。おい、分限手伝え」
「ええ~」
「させると思うかね?」
突如杏樹の周りに黒い霧が立ち込めるとそれは邪神官ザパトに変わり、杏樹の首を締め上げた。
「コイツ杏樹を放せ!うわっ」
「フ・・・・もう一人いたのさ。残念だったな」
勇騎の背後に現れた邪神官プレハが彼の右腕をねじり上げた
「ウ・・・・アコレードヴィダリオン・・・・!」
「何っ!」
杏樹はもがきながら片手で制服の上着のボタンを外し、校章をザパトへ向けるとヴィダリオン召喚の合図を叫ぶ。
校章から光と共に現れたヴィダリオンはザパトを体当たりで吹き飛ばし、そしてプレハに渾身のフックを見舞う。
「そうか・・・少女の方と契約していたのか」
「ザパト、ガルウが消えた。我々も」
「そうだな。これだけの混乱をおこせば主の怒りも収まろう」
「よし、ファルコンクレスターよ、真っ逆さまに地上に落下せよ。それが最後の使命だ」
そう言うと邪神官らは光線で窓を割るとそこから霧となって去っていった。それを合図に猛烈な勢いでファルコンクレスターが傾き始める。
「うわーもうダメだ!」
分限は割れた窓から投げ出されたが、間一髪通りがかったホットスパ―が彼をキャッチし、機内へと入る。
「もう時間がない。ホットスパ―、カローニン、3人の力を合わせてディバインウェイブを放つぞ!イメージは俺のをトレースしろ」
「「おう!」」
3騎の最大出力のディバインウェイブが機内を満たし、中の人間達は異空間を経由して剣王神社へと送られていった。
「こいつが落ちたら大変な騒ぎになるぞ」
「最後まで力を合わせよう。チャージ・スラストならば内部から細かく砕けるはずだ」
「カローニン・・・よし、各員位置へ」
「ヴィダリオン、お前に前衛と号令を譲ってやる」
「かたじけない、ホットスパー」
各自愛馬に跨る。起動鋼馬はその足裏に万能マグネットが仕込まれており垂直の壁を登る事が出来る。それを利用し、3騎は丁度三角形の陣形をとった。
「チャージ・スラスト、ゴー!!」
「「ゴー!!」」
チャージ・スラストは機士と起動鋼馬のエネルギーを纏った騎馬突撃である。その威力は数に比例して大きくなる。三角形の破壊エネルギーは内部を貫通し怪物の皮膚を突き破る。外から見ればファルコンクレスターにもう一対の光の翼が生えたように見えただろう。3騎は陣形を維持したままファルコンクレスターの内部から引き裂きながら下へ下へと進む。
「「「うおおおおおおおヴォ―セアン!!!」」」
口から飛び出した3騎の鬨の声と同時にファルコンクレスターは大爆発、破片が地表に降り注ぐ。その爆光の照り返しを浴びながら3人の機士達は一糸乱れず陣形を組んだまま地上へと着地したのだった。
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