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「さて、さてさて!」

リベローラはしずしずと壇上から降りると、嬉々とエブリシアの元に駆け寄った。

「Ⅱ度の火傷。首の裂傷。見たところ擦り傷と打撲が所々あるようだけど、どう?」

リベローラは自分の侍女に話を向けた。

「何本か骨折していますね。全治二ヶ月といった所でしょうか」
「へぇそうなの」

エブリシアは頭を伏せたまま、ぶるぶると震えている。

「そうよねぇ。普通そうなるわよね」

リベローラは身を屈めてエブリシアの顔を覗き込むと、カチカチと恐怖で震える彼女の歯が鳴る。

「あらあら、そんなに怯えて…可哀想に。
殺されかけた相手を目の前にしたら、大抵そうやって怯えるか逃げ出したくもなるわよね」

圧倒的な力の差を見せつけられても立ち向かう勇気があるのは、余程信念を持った者ぐらいだろう。

「さぁ殿下。手負いの彼女を助けなくてよろしいの?」

壇上から一歩も動けなくなっていたクリスフォード。
彼もまた、足が震えて動けなくなっていた。

「お、おまえ…」

「では、殿下。彼女の訴える悪行の末、このような結果になりましたが、彼女は一日も学園を休んでおられませんし、園内を裸で歩いていたという話も一度も上がっておりません。
どういう理由が考えられますか?」

そこでようやくクリスフォードは気づいた。
この『検証』はリベローラの反論だった。








「それは、…貴様が加減したのだろう、怪我をせぬよう、に」

他に考えようもない。

「あら。クリスフォード様は私がに手心を加えるような甘い女だと思ってらっしゃるのですか…?
心外ですわ」

やるなら徹底的に折れ。
リベローラはそのように教育された。


「敵、敵だと…?やはりお前はエブリシアに、」

「本当に敵視していたら、彼女はこの場にはおりませんわ。クリスフォード様」

しずしずとクリスフォードの元に戻ると、口元を扇で隠した。

「王太子殿下の婚約者候補は私の他に二人おられましたが覚えてらっしゃいますか…?」

「…は?急になにを、」

「殿下の幼馴染と従妹様。選定前に流行り病で亡くなられて…さぞ無念だったでしょうね」

パタパタと扇を仰ぐ。
口元には薄く笑みを浮かべて。

「まさか、お前は、あの二人を…」

「何か?」

二人の死に今まで疑問を抱くものはいなかった。
彼女たちの両親からの不審死などの訴えもなかった。

「っ…!過去の幼馴染と従妹の件は調査する!お前は…とんでもない悪女だな」

クリスフォードは膝を震わせながら、リベローラを睨みつける。

「今更ですか?まぁ…ご随意に」

扇で仰ぎ、クリスフォードを見下す姿はまさに悪女そのままだった。


「では、クリスフォード様。婚約破棄ありがとうございました。私は此処で失礼いたします」

軽く膝を曲げ周囲に挨拶をすると、リベローラは何事もなかったかのように侍女と共に会場から去っていった。
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