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十
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ルデはこんな形で、実父と対面するとは思ってもなかった。
生きているうちに会えるとも思っていなかった。
今は先王と対峙する形でソファに座っていた。
サリーシアが連れ出された扉の方を見つめていると、先王の笑う声がした。
「…まるで捨てられた犬のようだな」
「サリーシア様は、どうなりますか」
「あれだけのことをしたのだから建前でも罰を与えないわけにはいかないからな」
先王への暴言も、剣を向けたことも、ルデの為だとわかっている。
「あれは、私の為です。ですので罰は私に」
先王は首を横に振る。
「まだ、サリーシアが王妃だから軽度の罰にできる。平民のバルディス、お前ならそうはいかない。
そこら辺も見越して、彼女は先に剣を手にしたのだろう。
それに、…捕らえられることも見越して、お前と二人きりで話す機会をも作ってくれた」
ルデは扉から目を離し、実父に目を向けた。
「サリーシアを脅してお前を此処に連れてくるように仕向けた。悪かったな。…脅してでも、会いたかったのだ」
視線を落として、サリーシアを一瞬でも疑ったことを恥じた。
これまで、サリーシアと短くない時間を過ごしてきたのに、と。
「お願いが、あります」
「なんだ。今まで何もしてやれなかった。望みがあればなんでも言え」
視線を上げて、自分と同じ色の目とぶつかる。
「サリーシア様の望みを、叶えてください。彼女の助けを、望みます」
それは遠回しに、先王が整えた婚姻契約の破棄を手伝えと言っているようなものだった。
きっと先王も、サリーシアが白い結婚を目指していることに気づいているはずだ。
先王は、少し考える間をとってから、「あいわかった」と了承した。
「いいの、ですか?」
「かまわん。
…サリーシアには、儂が間抜けでなかったら、自分の夫はお前だったかもしれないのにと、散々恨み言を言われたのだ。
確かに、そんな未来もあったかもしれないと…思った」
いつか、図書館でも彼女は同じことを言っていた。
平民と王妃のという身分差はどうしても埋まらない。
あり得ないと切り捨てたが。
そうか、と。
母がもっと地盤を固めていたら、王妃の策に嵌まらず城から追い出されずにいれば。
サリーシアの隣には自分が立っていたのかもしれなかったのだなと想像して、
…自分との子を抱くサリーシアを想像して。
ルデは赤くなる顔を両手で覆った。
「…ー、大丈夫です?どうかされました?」
腕を引かれて、ようやくルデは意識を取り戻した。
目にはナイトドレスにガウンを羽織ったサリーシアが映る。
「お疲れですか?随分ぼおっとなさっていましたよ?」
「あ、あぁ大丈夫です」
心配そうに下からのぞき込まれ、仰け反った。
先程の不埒な想像がそうさせた。
「さきほど、私との子供がどうの、と呟いておりましたが」
「っは?っえ、?」
「子供。作りますか?」
「な、何を言ってるんですか!神殿から白い結婚を受理されるまではっ」
いや、自分が何を言っているんだ。
混乱しすぎて願望が少し口から漏れた。
サリーシアは、あぁと思い出したようにガウンの内側を探って、一枚の紙を取り出した。
「…?これは」
「実はもう、白い結婚の証明は受理されてるんです。離縁も含めて」
「…、……、…はぁあ!?」
静かな夜に、素っ頓興な声が響いた。
生きているうちに会えるとも思っていなかった。
今は先王と対峙する形でソファに座っていた。
サリーシアが連れ出された扉の方を見つめていると、先王の笑う声がした。
「…まるで捨てられた犬のようだな」
「サリーシア様は、どうなりますか」
「あれだけのことをしたのだから建前でも罰を与えないわけにはいかないからな」
先王への暴言も、剣を向けたことも、ルデの為だとわかっている。
「あれは、私の為です。ですので罰は私に」
先王は首を横に振る。
「まだ、サリーシアが王妃だから軽度の罰にできる。平民のバルディス、お前ならそうはいかない。
そこら辺も見越して、彼女は先に剣を手にしたのだろう。
それに、…捕らえられることも見越して、お前と二人きりで話す機会をも作ってくれた」
ルデは扉から目を離し、実父に目を向けた。
「サリーシアを脅してお前を此処に連れてくるように仕向けた。悪かったな。…脅してでも、会いたかったのだ」
視線を落として、サリーシアを一瞬でも疑ったことを恥じた。
これまで、サリーシアと短くない時間を過ごしてきたのに、と。
「お願いが、あります」
「なんだ。今まで何もしてやれなかった。望みがあればなんでも言え」
視線を上げて、自分と同じ色の目とぶつかる。
「サリーシア様の望みを、叶えてください。彼女の助けを、望みます」
それは遠回しに、先王が整えた婚姻契約の破棄を手伝えと言っているようなものだった。
きっと先王も、サリーシアが白い結婚を目指していることに気づいているはずだ。
先王は、少し考える間をとってから、「あいわかった」と了承した。
「いいの、ですか?」
「かまわん。
…サリーシアには、儂が間抜けでなかったら、自分の夫はお前だったかもしれないのにと、散々恨み言を言われたのだ。
確かに、そんな未来もあったかもしれないと…思った」
いつか、図書館でも彼女は同じことを言っていた。
平民と王妃のという身分差はどうしても埋まらない。
あり得ないと切り捨てたが。
そうか、と。
母がもっと地盤を固めていたら、王妃の策に嵌まらず城から追い出されずにいれば。
サリーシアの隣には自分が立っていたのかもしれなかったのだなと想像して、
…自分との子を抱くサリーシアを想像して。
ルデは赤くなる顔を両手で覆った。
「…ー、大丈夫です?どうかされました?」
腕を引かれて、ようやくルデは意識を取り戻した。
目にはナイトドレスにガウンを羽織ったサリーシアが映る。
「お疲れですか?随分ぼおっとなさっていましたよ?」
「あ、あぁ大丈夫です」
心配そうに下からのぞき込まれ、仰け反った。
先程の不埒な想像がそうさせた。
「さきほど、私との子供がどうの、と呟いておりましたが」
「っは?っえ、?」
「子供。作りますか?」
「な、何を言ってるんですか!神殿から白い結婚を受理されるまではっ」
いや、自分が何を言っているんだ。
混乱しすぎて願望が少し口から漏れた。
サリーシアは、あぁと思い出したようにガウンの内側を探って、一枚の紙を取り出した。
「…?これは」
「実はもう、白い結婚の証明は受理されてるんです。離縁も含めて」
「…、……、…はぁあ!?」
静かな夜に、素っ頓興な声が響いた。
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