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「好いた男がいるそうだな」

公務のため、隣に立つサリーシアに仕入れたばかりの話を振ると、不思議そうにベアディスを見上げた。

「どうしてそんな話を?」

「ふん。リリィからだ。彼女に何かしたらただではおかない」

「あら、そうでしたか。ふふ、リリネーゼ様には心置きなく過ごせますように配慮しております」

公務向きの、どこか白々しい笑顔を顔に貼り付けたサリーシアに嫉妬の欠片は見えない。

知らなかったのだ。リリネーゼに聞くまでは。

ベアディスと出会う前から、リリネーゼとサリーシアは仲が良かったらしい。
ベアディスの好みなどの情報をサリーシアから聞いていたと、昨日告白された。
サリーシアのおかげで男爵令嬢ながら、ベアディスの寵愛を得られるようになったのだと聞いて、心底驚いたのだ。

妃と愛妾はいがみ合うものだとばかり思っていた。
家臣に問うても、二人の仲に不穏なものはないようだ。

まさか、サリーシアは…ベアディスを遠ざけるためにリリネーゼを用意したのではなかろうか。

そう考え始めると、リリネーゼへの愛もそうなるように差し向けられたもののような気がして、あまり気分は良くなかった。

「誰だ、その男は」

「あら、気になるのですか?」

「知らぬ男の種で孕まれては困る」

「ですが、王家の血筋であれば問題ないのでは?」

「…」

ベアディスは押し黙った。
今まで彼女の元に送った男の中に居たのだろうか。

できなかったと首を横に振った男と想いを遂げたのでは…。

苛々が募り、更に気分は悪くなる。

「ふふ。ご安心を。今の私の恋人はこの国の民ですから」

模範的な回答で返されれば、もうそれ以上問いただすことはできない。

サリーシアも外行きの顔で公務を遂行する。

ベアディスは、解消しきれない気持ちのまま、仕事に意識を向けた。



ーーー

「ベアディス。最近してくれないね」

「…少し疲れているからな」

性欲を解消せずにいれば、サリーシアを抱けるのではないか。
その為に、ベアディスはリリネーゼと床を共にしていない。

「他に好きな人ができたの?」

不安そうなリリネーゼにちらりと目を向け、逸した。

「私が好きなのはリリィだけだ」

「本当?」

ベアディスは、リリネーゼの唇を奪うことでその質問を終わらせにかかる。

リリネーゼの舌は、いつも彼女が好んで飲む茶の味がした。
少し果物の甘みがする悪くない味。

「…ベアディスがずっと好きでいてくれます様に」

口づけの後にリリネーゼは口癖のようにいつも呟く。

本人が言うには『恋のおまじない』らしい。

そんな行為も可愛らしく思っていたのに、今心を占めるのはサリーシアの事ばかりだった。
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