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四
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「好いた男がいるそうだな」
公務のため、隣に立つサリーシアに仕入れたばかりの話を振ると、不思議そうにベアディスを見上げた。
「どうしてそんな話を?」
「ふん。リリィからだ。彼女に何かしたらただではおかない」
「あら、そうでしたか。ふふ、リリネーゼ様には心置きなく過ごせますように配慮しております」
公務向きの、どこか白々しい笑顔を顔に貼り付けたサリーシアに嫉妬の欠片は見えない。
知らなかったのだ。リリネーゼに聞くまでは。
ベアディスと出会う前から、リリネーゼとサリーシアは仲が良かったらしい。
ベアディスの好みなどの情報をサリーシアから聞いていたと、昨日告白された。
サリーシアのおかげで男爵令嬢ながら、ベアディスの寵愛を得られるようになったのだと聞いて、心底驚いたのだ。
妃と愛妾はいがみ合うものだとばかり思っていた。
家臣に問うても、二人の仲に不穏なものはないようだ。
まさか、サリーシアは…ベアディスを遠ざけるためにリリネーゼを用意したのではなかろうか。
そう考え始めると、リリネーゼへの愛もそうなるように差し向けられたもののような気がして、あまり気分は良くなかった。
「誰だ、その男は」
「あら、気になるのですか?」
「知らぬ男の種で孕まれては困る」
「ですが、王家の血筋であれば問題ないのでは?」
「…」
ベアディスは押し黙った。
今まで彼女の元に送った男の中に居たのだろうか。
できなかったと首を横に振った男と想いを遂げたのでは…。
苛々が募り、更に気分は悪くなる。
「ふふ。ご安心を。今の私の恋人はこの国の民ですから」
模範的な回答で返されれば、もうそれ以上問いただすことはできない。
サリーシアも外行きの顔で公務を遂行する。
ベアディスは、解消しきれない気持ちのまま、仕事に意識を向けた。
ーーー
「ベアディス。最近してくれないね」
「…少し疲れているからな」
性欲を解消せずにいれば、サリーシアを抱けるのではないか。
その為に、ベアディスはリリネーゼと床を共にしていない。
「他に好きな人ができたの?」
不安そうなリリネーゼにちらりと目を向け、逸した。
「私が好きなのはリリィだけだ」
「本当?」
ベアディスは、リリネーゼの唇を奪うことでその質問を終わらせにかかる。
リリネーゼの舌は、いつも彼女が好んで飲む茶の味がした。
少し果物の甘みがする悪くない味。
「…ベアディスがずっと好きでいてくれます様に」
口づけの後にリリネーゼは口癖のようにいつも呟く。
本人が言うには『恋のおまじない』らしい。
そんな行為も可愛らしく思っていたのに、今心を占めるのはサリーシアの事ばかりだった。
公務のため、隣に立つサリーシアに仕入れたばかりの話を振ると、不思議そうにベアディスを見上げた。
「どうしてそんな話を?」
「ふん。リリィからだ。彼女に何かしたらただではおかない」
「あら、そうでしたか。ふふ、リリネーゼ様には心置きなく過ごせますように配慮しております」
公務向きの、どこか白々しい笑顔を顔に貼り付けたサリーシアに嫉妬の欠片は見えない。
知らなかったのだ。リリネーゼに聞くまでは。
ベアディスと出会う前から、リリネーゼとサリーシアは仲が良かったらしい。
ベアディスの好みなどの情報をサリーシアから聞いていたと、昨日告白された。
サリーシアのおかげで男爵令嬢ながら、ベアディスの寵愛を得られるようになったのだと聞いて、心底驚いたのだ。
妃と愛妾はいがみ合うものだとばかり思っていた。
家臣に問うても、二人の仲に不穏なものはないようだ。
まさか、サリーシアは…ベアディスを遠ざけるためにリリネーゼを用意したのではなかろうか。
そう考え始めると、リリネーゼへの愛もそうなるように差し向けられたもののような気がして、あまり気分は良くなかった。
「誰だ、その男は」
「あら、気になるのですか?」
「知らぬ男の種で孕まれては困る」
「ですが、王家の血筋であれば問題ないのでは?」
「…」
ベアディスは押し黙った。
今まで彼女の元に送った男の中に居たのだろうか。
できなかったと首を横に振った男と想いを遂げたのでは…。
苛々が募り、更に気分は悪くなる。
「ふふ。ご安心を。今の私の恋人はこの国の民ですから」
模範的な回答で返されれば、もうそれ以上問いただすことはできない。
サリーシアも外行きの顔で公務を遂行する。
ベアディスは、解消しきれない気持ちのまま、仕事に意識を向けた。
ーーー
「ベアディス。最近してくれないね」
「…少し疲れているからな」
性欲を解消せずにいれば、サリーシアを抱けるのではないか。
その為に、ベアディスはリリネーゼと床を共にしていない。
「他に好きな人ができたの?」
不安そうなリリネーゼにちらりと目を向け、逸した。
「私が好きなのはリリィだけだ」
「本当?」
ベアディスは、リリネーゼの唇を奪うことでその質問を終わらせにかかる。
リリネーゼの舌は、いつも彼女が好んで飲む茶の味がした。
少し果物の甘みがする悪くない味。
「…ベアディスがずっと好きでいてくれます様に」
口づけの後にリリネーゼは口癖のようにいつも呟く。
本人が言うには『恋のおまじない』らしい。
そんな行為も可愛らしく思っていたのに、今心を占めるのはサリーシアの事ばかりだった。
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