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侯爵家
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翌日の夜。
夕食の席で父に「婚約解消」したことを告げられた。
「婚約、解消ですか…?」
アリストは「どうして?」と言わんばかりの不満顔だ。
朝、「まかせておけ」といって伯爵家に乗り込んていった筈の父は、夕方に戻ってきた時には酷く不機嫌だった。
婚約破棄が難航したのかと思ったのだが。
「こっちが聞きたい。どうして破棄できると思ったんだ」
息子を睨め付け、苛立ちを隠さなかった。
どうして?
浮気をしたのは向こうの筈だ。
認めずとも、あの二人は完全にデキている。
その証拠に二人は互いの色を…。
「伯爵家に乗り込んだ。意気揚々とな。『婚約破棄だ』と言えば、伯爵は呆れていた」
「娘共々ふてぶてしいですね」
「…。お前の評価を知っているのかと言われた」
「私の…?」
「今からサロンに行ってみろ、と。昨夜の話が聞けるかもしれないから、と」
婚約者への叱咤を観衆の居る場で行った。
もしかしたら、その事への叱責か。令嬢を人前で貶めるのは紳士の行動ではないと。
でも、むしろ人前で良かったと思っている。
浮気の証人は多いほうが有利なのだから。
多くの貴族がリノナリザの不貞を証言してくれるはずだった。
「お前は…嘲笑の的だった。私は恥をかいた」
「…は?え、どうして!?」
「浮気だなんだと責め立てていたそれもこれもお前自身がやっていた事だろう!?」
「は…?はい!?」
アリストには心当たりがない。
何故自身が笑われるのか。無礼にも程があると憤慨した。
「…昨夜の夜会。男を連れたリノナリザ嬢を責めたらしいな」
「それはそうでしょう!私という婚約者がありながら」
「お前は?」
「はい?」
「お前は誰を連れていた?婚約者か?違うだろう。
連れは誰だ。婚約者のリノナリザ嬢ではなく」
「それは」
テイラーと参加したくて出席した夜会だった。
リノナリザを連れていけるはずもない。
「っですが、あの女は男の色の装飾を身に着けていて!」
「お前の連れは?」
「…は?」
「お前が連れていた女の衣装は?お前の髪の色のドレスに我が家の家紋の花をあしらったもの。首飾りと耳飾りはお前の瞳の色の宝石だったと聞いた」
「…それは…。パートナーの色を纏う事は別に、マナー違反ではなかったはず、です」
「ならば、リノナリザ嬢にも問題は無いな?」
アリストは唇を噛んだ。
そう言われてしまえば、その通りだと思った。
「ですがっあの女はっ!男と密着して、『ただの幼馴染だ』なんて…!」
「それだ」
「…なんです?」
「『ただの幼馴染』『異性だろうがただの幼馴染』『つまらない嫉妬をするな』『病弱な幼馴染を支えているだけで抱き合っているわけでない』」
「昨夜の台詞ですね。あの女の」
どんっとテーブルを拳で叩く父の顔は怒りで真っ赤になっている。
「お前の台詞だっ!」
「は、なにを!それは昨夜!あの女がっ」
「これらすべてお前がテイラーを連れている時にリノナリザ嬢に放った台詞らしいなっ!お前のリノナリザに対する態度は酷いものだったのだな!貴族連の中には現場を見た者がいて、噂になっていた!私には、婚約者との関係に問題ないなどと報告していながら…」
えっ…
テイラーと一緒だった時、リノナリザに咎められた事を思い出す。
台詞の一つ一つの場面が頭の中で巡った。
夜会のリノナリザの言葉は、己の過去の発言が返ってきただけだった。
あの時の、周囲の嘲りはリノナリザではなく、自分に向けられたものだったというわけだ。
「…お前も、侯爵家も…良い笑い者だな…はは」
父は手で顔を抑え、自嘲した。
「これは…約束だったからな…」
一枚の書類をアリストに向かって投げた。
テイラーとの婚約が成立している書類だったのだが、肩を落として部屋を出る父に、感謝の言葉をかけることは出来なかった。
夕食の席で父に「婚約解消」したことを告げられた。
「婚約、解消ですか…?」
アリストは「どうして?」と言わんばかりの不満顔だ。
朝、「まかせておけ」といって伯爵家に乗り込んていった筈の父は、夕方に戻ってきた時には酷く不機嫌だった。
婚約破棄が難航したのかと思ったのだが。
「こっちが聞きたい。どうして破棄できると思ったんだ」
息子を睨め付け、苛立ちを隠さなかった。
どうして?
浮気をしたのは向こうの筈だ。
認めずとも、あの二人は完全にデキている。
その証拠に二人は互いの色を…。
「伯爵家に乗り込んだ。意気揚々とな。『婚約破棄だ』と言えば、伯爵は呆れていた」
「娘共々ふてぶてしいですね」
「…。お前の評価を知っているのかと言われた」
「私の…?」
「今からサロンに行ってみろ、と。昨夜の話が聞けるかもしれないから、と」
婚約者への叱咤を観衆の居る場で行った。
もしかしたら、その事への叱責か。令嬢を人前で貶めるのは紳士の行動ではないと。
でも、むしろ人前で良かったと思っている。
浮気の証人は多いほうが有利なのだから。
多くの貴族がリノナリザの不貞を証言してくれるはずだった。
「お前は…嘲笑の的だった。私は恥をかいた」
「…は?え、どうして!?」
「浮気だなんだと責め立てていたそれもこれもお前自身がやっていた事だろう!?」
「は…?はい!?」
アリストには心当たりがない。
何故自身が笑われるのか。無礼にも程があると憤慨した。
「…昨夜の夜会。男を連れたリノナリザ嬢を責めたらしいな」
「それはそうでしょう!私という婚約者がありながら」
「お前は?」
「はい?」
「お前は誰を連れていた?婚約者か?違うだろう。
連れは誰だ。婚約者のリノナリザ嬢ではなく」
「それは」
テイラーと参加したくて出席した夜会だった。
リノナリザを連れていけるはずもない。
「っですが、あの女は男の色の装飾を身に着けていて!」
「お前の連れは?」
「…は?」
「お前が連れていた女の衣装は?お前の髪の色のドレスに我が家の家紋の花をあしらったもの。首飾りと耳飾りはお前の瞳の色の宝石だったと聞いた」
「…それは…。パートナーの色を纏う事は別に、マナー違反ではなかったはず、です」
「ならば、リノナリザ嬢にも問題は無いな?」
アリストは唇を噛んだ。
そう言われてしまえば、その通りだと思った。
「ですがっあの女はっ!男と密着して、『ただの幼馴染だ』なんて…!」
「それだ」
「…なんです?」
「『ただの幼馴染』『異性だろうがただの幼馴染』『つまらない嫉妬をするな』『病弱な幼馴染を支えているだけで抱き合っているわけでない』」
「昨夜の台詞ですね。あの女の」
どんっとテーブルを拳で叩く父の顔は怒りで真っ赤になっている。
「お前の台詞だっ!」
「は、なにを!それは昨夜!あの女がっ」
「これらすべてお前がテイラーを連れている時にリノナリザ嬢に放った台詞らしいなっ!お前のリノナリザに対する態度は酷いものだったのだな!貴族連の中には現場を見た者がいて、噂になっていた!私には、婚約者との関係に問題ないなどと報告していながら…」
えっ…
テイラーと一緒だった時、リノナリザに咎められた事を思い出す。
台詞の一つ一つの場面が頭の中で巡った。
夜会のリノナリザの言葉は、己の過去の発言が返ってきただけだった。
あの時の、周囲の嘲りはリノナリザではなく、自分に向けられたものだったというわけだ。
「…お前も、侯爵家も…良い笑い者だな…はは」
父は手で顔を抑え、自嘲した。
「これは…約束だったからな…」
一枚の書類をアリストに向かって投げた。
テイラーとの婚約が成立している書類だったのだが、肩を落として部屋を出る父に、感謝の言葉をかけることは出来なかった。
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