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婚約破棄と国外追放。
公衆の面前で、婚約者だった伯爵令嬢に向けて吐き捨てた。
王太子とは、次期国王でもある。
国の代表となる者が、全く美しくもない、品もない、不健康そうな女を妃とせねばならぬ理由とはなんだ。
父と母が決めた令嬢。
息子が訴えても、認められなかった。
せめて側妃に出来ないかと交渉をしたが、我が国では側妃を取るには、正妃と婚姻し最短でも一年経たねば側妃は持てない。
新たな婚約者を選び、妃教育を今から施し、更に婚姻一年後となればもう、伯爵令嬢は行き遅れと呼ばれる年齢になってしまう。
年齢的にも側妃につくには難しい。
どうしてそこまで伯爵令嬢に拘るのか理解できない。
両親が伯爵令嬢を可愛がっている風もない。
伯爵当主と王家に縁があるのかと調べたがそれもない。
この世界には聖女と呼ばれる特殊能力を持つ女がいると言われているが、彼女が聖女なのかと枢機卿に確認したが鼻で笑われた。
王太子は彼女を妃に選ぶ理由はないように思えた。
だから、両親が他国の宴に参加したそのタイミングを狙って婚約者に婚約者破棄を言い渡した。
「は、…今、なんと」
間抜けな顔で伯爵令嬢は告げた。
一度で聞き取れないとは、無礼にもほど後がある。
「貴様とは婚約破棄だ。とっととこの国から出て行けと言った」
伯爵令嬢はぼろぼろと涙をこぼした。
(煩わしい)
人前で涙を見せるとは。
同情を誘うつもりか。
伯爵令嬢は静かに膝を折って礼をする。
「かしこまりました」
その声は震えていたが、間違いなく婚約破棄を受け入れた返事だった。
それと同時に、手首が光った。
ぱぁんと何かが弾ける音がして、光はそのうち収まった。
周りがざわりと騒ぎ始めた。
王太子も何が起こったのかわからず、背後の側近を振り返るが、彼らも不思議そうな顔をしていた。
「レイシア様っ!」
伯爵令嬢の名を呼ぶ男の声が響き、伯爵令嬢の護衛騎士が令嬢に駆け寄る。
「すぐに国を出ます!」
護衛騎士が伯爵令嬢の手を引いて走り出す。
思わず警備の騎士が止めに入ろうとするが、「殿下の命令通り、彼女を国外追放します」と言われれば、騎士も二人を通すしかなかった。
一度、伯爵令嬢は王太子を振り返り少し笑った後、護衛騎士と共に走り去って行った。
覇気のない顔しか見たことがなかった彼女が、なぜ最後に笑ったのか。
王太子がその意味を考える間もなく、後に残った貴族が娘を新たな婚約者にと押し合いへし合いが始まり、王太子は側近にこの場を任せて逃げ出した。
「貴方は…なんてことを」
その場にいなかった宰相が婚約破棄を知ったのは翌日のことだった。
王太子は普段から口煩い宰相を酔い潰しておいた。
それでも、翌日には婚約破棄の件が耳に入り、真っ青になっていた。
「なんの問題がある」
「問題しかありません!貴方はそこまでして死にたがったのですか」
宰相の言葉に王太子は片眉を上げた。
「どういう意味だ」
宰相は意味がわからないという顔をしている王太子を前にへたり込んだ。
「…あれほど進言したにもかかわらず…陛下も王妃も貴方に告げていなかったのですか…?まさか…」
呆然とする宰相は、侍従の手を借りてよろよろと立ち上がる。
「…レイシア嬢は国境を超えたそうです。一晩の内に…」
「ほう。それはそれは、うちの騎士団は有能だな」
「そうですね…そのおかげで、」
宰相は王太子を物言いたげに見つめ、静かに部屋を出ていった。
公衆の面前で、婚約者だった伯爵令嬢に向けて吐き捨てた。
王太子とは、次期国王でもある。
国の代表となる者が、全く美しくもない、品もない、不健康そうな女を妃とせねばならぬ理由とはなんだ。
父と母が決めた令嬢。
息子が訴えても、認められなかった。
せめて側妃に出来ないかと交渉をしたが、我が国では側妃を取るには、正妃と婚姻し最短でも一年経たねば側妃は持てない。
新たな婚約者を選び、妃教育を今から施し、更に婚姻一年後となればもう、伯爵令嬢は行き遅れと呼ばれる年齢になってしまう。
年齢的にも側妃につくには難しい。
どうしてそこまで伯爵令嬢に拘るのか理解できない。
両親が伯爵令嬢を可愛がっている風もない。
伯爵当主と王家に縁があるのかと調べたがそれもない。
この世界には聖女と呼ばれる特殊能力を持つ女がいると言われているが、彼女が聖女なのかと枢機卿に確認したが鼻で笑われた。
王太子は彼女を妃に選ぶ理由はないように思えた。
だから、両親が他国の宴に参加したそのタイミングを狙って婚約者に婚約者破棄を言い渡した。
「は、…今、なんと」
間抜けな顔で伯爵令嬢は告げた。
一度で聞き取れないとは、無礼にもほど後がある。
「貴様とは婚約破棄だ。とっととこの国から出て行けと言った」
伯爵令嬢はぼろぼろと涙をこぼした。
(煩わしい)
人前で涙を見せるとは。
同情を誘うつもりか。
伯爵令嬢は静かに膝を折って礼をする。
「かしこまりました」
その声は震えていたが、間違いなく婚約破棄を受け入れた返事だった。
それと同時に、手首が光った。
ぱぁんと何かが弾ける音がして、光はそのうち収まった。
周りがざわりと騒ぎ始めた。
王太子も何が起こったのかわからず、背後の側近を振り返るが、彼らも不思議そうな顔をしていた。
「レイシア様っ!」
伯爵令嬢の名を呼ぶ男の声が響き、伯爵令嬢の護衛騎士が令嬢に駆け寄る。
「すぐに国を出ます!」
護衛騎士が伯爵令嬢の手を引いて走り出す。
思わず警備の騎士が止めに入ろうとするが、「殿下の命令通り、彼女を国外追放します」と言われれば、騎士も二人を通すしかなかった。
一度、伯爵令嬢は王太子を振り返り少し笑った後、護衛騎士と共に走り去って行った。
覇気のない顔しか見たことがなかった彼女が、なぜ最後に笑ったのか。
王太子がその意味を考える間もなく、後に残った貴族が娘を新たな婚約者にと押し合いへし合いが始まり、王太子は側近にこの場を任せて逃げ出した。
「貴方は…なんてことを」
その場にいなかった宰相が婚約破棄を知ったのは翌日のことだった。
王太子は普段から口煩い宰相を酔い潰しておいた。
それでも、翌日には婚約破棄の件が耳に入り、真っ青になっていた。
「なんの問題がある」
「問題しかありません!貴方はそこまでして死にたがったのですか」
宰相の言葉に王太子は片眉を上げた。
「どういう意味だ」
宰相は意味がわからないという顔をしている王太子を前にへたり込んだ。
「…あれほど進言したにもかかわらず…陛下も王妃も貴方に告げていなかったのですか…?まさか…」
呆然とする宰相は、侍従の手を借りてよろよろと立ち上がる。
「…レイシア嬢は国境を超えたそうです。一晩の内に…」
「ほう。それはそれは、うちの騎士団は有能だな」
「そうですね…そのおかげで、」
宰相は王太子を物言いたげに見つめ、静かに部屋を出ていった。
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