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十二

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「はぁ、はぁ、アルシオーネ…やっと、会えた」
「っ!」

アルシオーネの悲鳴に護衛の騎士が反応した。
出掛ける為に邸から出た所で、待ち伏せていたトルクトが姿を見せた。

「メイドを味方につけるのに時間がかかってしまって、半年も閉じ込められていたんだ。酷いと思わないか?」

虚ろな顔でアルシオーネに近づく男の前に護衛騎士が彼女を背に庇った。

「誰…?貴方は一体…」

「そう、その目。他人を見る目。違うだろ?アルシオーネ…君はもっと、情熱的に俺を見つめていた。邸に押しかけた日もまだ優しさが残ってた…それが、翌日きれいさっぱり無くなっていた。以前のままなら気づかなかったけど、その何も色を映していない瞳を見て気づいたんだ。
俺は君に愛されていた。そうだろう?
それが、どうして他人のように振る舞う?あの男に…何かされたのか?そうか、魔法の類で記憶を操作された…?」

ぶつぶつと一人で捲し立てる知らない男にアルシオーネは恐怖を感じた。

『何気ない優しさを好意と勘違いされて付き纏われる事案があるんだ。護衛を増やして良い?』

心配症な婚約者の提案を笑って却下した。
自分に付き纏うような人物がいるなんて考えてもいなかった。

レオネルは今、辺境での小競り合いに駆り出されていて王都にいない。
その隙を狙われたのか偶然か。
アルシオーネは恐怖に囚われていた。



「まったくさー。立場的に私のほうが上司のはずなんだけど?どんな教育を受けたらさぁ、上司をパシらせるって発想になるわけ?親の顔が見てみたいと思わない?」

場にそぐわないのんきな声の主は、こちらに向かって歩きながら、連れに話しかけていた。
隣りに居た男はサッと鏡を差し出す。

「おや、色男。…ってなにさせんの」
「どスベリしてますね」
「うん。…後で記憶食べとこ」
「なんです?」
「いや何でもない」

「…おじ様」

やって来た二人組の片方は知った顔だった。
アルシオーネは恐怖で潤んだ目で、婚約者の父親を見つめた。

「大丈夫?もう平気だからね。うんうん、やっぱ人質なら女の子が良いね」
「統括、のんきなことを言ってないで早く奴を確保してくださいよ」
「え?無理だよ。私は内勤だよ?ほら、君が行って」
「僕だってただの尋問官ですけど!?」
「じゃなんでついてきたの」
「ふぁ!?統括が連れ出したんですよね!?」

アルシオーネは二人のやり取りをキョトンと見ていた。

この人たち、…何しに来たんだろう。

「うん。もう終わったよ」
「え?」
「え?」

アルシオーネと尋問官がトルクトに目を向けると、護衛騎士が制圧して地面に押さえつけていた。

「!なるほど!こちらに注意を引いてその間に…!さすが、統括」
「良い連携だったねぇ!偶然だけど!」

楽しそうなサッシュにアルシオーネは抱きついた。

「よしよし。良い子。怖かったのに頑張ったね。うーん、役得。娘最高」
「統括。心の声漏れてます」



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