魅了されたのは

基本二度寝

文字の大きさ
上 下
2 / 2

しおりを挟む
「この国は状態異常に対しての防衛はザルだな」
「左様ですね…ってリューゼンベル殿下。エルシモア様がお側に居られますが」
「あぁ、大丈夫。この子はで俺にメロメロだから」

与えられた来賓室のソファに座り、リューゼンベルは先程婚約破棄されたばかりの令嬢エルシモアを腕に抱いている。
初対面での挨拶の、きりっとした勇ましい公爵令嬢の姿は微塵も感じられない。

主にされるがまま。
唇を奪われ、唾液を飲まされ、胸を揉まれても拒みもしない。

ってなんでこんなに、自分に対して無防備なのだろうねぇ?自分は魅了耐性があるとでも思っているのかなぁ」

エルシモアは、自身の婚約者だったニールデルクに魅了魔法を発動していた。
それが故意か無意識かはわからない。
稀にあるのだ。自分の能力に気づかず、相手を害してしまうことが。

しかも運が悪いことに、この国の王族が携帯する、古い状態異常回避の装飾品は欠陥品だった。
調べてみれば、魅了に対して無反応だった。

あえて魅了回避の効果を外した作り手のせいか、知って購入した買い手のせいかは今となってはわからないだろう。

ニールデルク王太子は、婚約者であったエルシモアに魅了魔法をかけられていた。

リューゼンベルの連れである伯爵令嬢は、エルシモアの魅了魔法を誰に悟られることもなく解術し、満足して微笑んだだけで、ニールデルクは舞い上がる程度には色ボケだったけれど。


しかし、リューゼンベルに甘えるエルシモアを直視して、恋心を思い出す程には、ニールデルクもエルシモアを元々好いていたのだろう。

魅了魔法など使わずとも二人は想い合っていたのに、と伯爵令嬢はエルシモアを憐れんだ。

魅了の力を発揮しなければ、リューゼンベルに目をつけられることもなかった。
この男はそういうものに鼻が利いた。

自国の王子ではあるが、リューゼンベルは性格に難ありだった。
目をつけた相手を逃がすことはない。
見た目と中身が反するエルシモアは、彼にとって興味を引く令嬢だったのだろう。
絶対エルシモアを手に入れると言わんばかりに、彼は婚約者の心変わりを慰めるふりをして、しつこいくらいに彼女に魅了魔法を重ね掛けをしていた。

そして、エルシモアの帰る場所を奪う為に、人前であのように振る舞った。

本当に性格が悪い。

ニールデルクを呼びつけて、彼の前でエルシモアを犯すくらいするだろう。
エルシモアを囲う為に。
王族の手付きになればもう、エルシモアに縁談はない。
リューゼンベルが嬉々として彼女を引き取るに違いない。

主は歪んでいる。

伯爵令嬢は自分が主の好みの範囲外でよかったと、つくづく思った。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

愛していたのは昨日まで

豆狸
恋愛
婚約破棄された侯爵令嬢は聖術師に頼んで魅了の可能性を確認したのだが── 「彼らは魅了されていませんでした」 「嘘でしょう?」 「本当です。魅了されていたのは……」 「嘘でしょう?」 なろう様でも公開中です。

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

離縁を告げに

豆狸
恋愛
「バーレト子爵、ファティマを呼び捨てにするのは止めてくれないか」 「止めるのは君のほうだろう。ファティマは私の妻だ。妻を呼び捨てにしてなにが悪い」 「……ヒカルド様? 私達は二年前に離縁していますが」 なろう様でも公開中です。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

百度目は相打ちで

豆狸
恋愛
「エスポージト公爵家のアンドレア嬢だな。……なにがあった? あんたの目は死線を潜り抜けたものだけが持つ光を放ってる。王太子殿下の婚約者ってのは、そんなに危険な生活を送ってるのか? 十年前、聖殿で会ったあんたはもっと幸せそうな顔をしていたぞ」 九十九回繰り返して、今が百度目でも今日は今日だ。 私は明日を知らない。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

処理中です...