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『グラハザード様、どうして私の好みの花や茶葉までご存知なのですか?私のためにと用意された部屋の内装も、衣装も、何もかも私好みのものばかりで…少し怖…過保護ではありませんか?』

 祖先は妖精だったと言われる侯爵家の嫡女、フランデールは、新たに縁を結んだ第二王子の対応に困惑した。

「そんなことはない。フランには不都合なく過ごしてもらいたいと思っているから、この程度大したことではないよ」

『この程度…ですか…』

フランデールは、自分好みに整えられた部屋を見回して萎縮した。
グラハザードが用意した侍従は、侯爵家の使用人とは違う。
フランデールに対し、面倒くさそうな対応は無いし、此方の望みを汲み取って先を読んで動いている。

美味しかったお茶請けは、空になった皿にいつのまにか補充されているし、甘い茶請けのために、入れ直されたお茶は、甘さを抑えてあった。

フランデールの味覚を熟知しているかのような、侍女の振る舞いにもやや引き気味になっている。



何故、グラハザードがここ迄フランデールを甘やかすのか。

フランデールには無自覚で、虐げられていたらしい。

それもこれも、自分の声に異常がある事に起因するわけだが、彼に指摘されるまで自覚は全く無かった。

フランデールが発する声は、所謂、妖精の使う発声らしく、彼らの声を聞き取ることのできる者しか、フランデールの声を聞き取れない。

 どおりで、父と国王以外の誰に声をかけても反応がなかったり、会話が噛み合わなかったのかと、合点がいった。

幸か不幸か、無視されることも、会話にならないことも、幼い頃から慣れていたから。

 なまじ言葉が通じる相手がいたから、己の特異性に気が付かなかった。

 婚約者だったリーヴェンス殿下に、何度話しかけても反応されず、覚えのない暴言を吐かれていたのはそういう事だったのかと理解した。

理解はしても、傷ついた心は癒えはしない。

 彼は幾度となく、「お前のような女より義妹の方が愛想がある」と言い続けた。

 早く婚約解消させろと、声を荒らげられたこともあった。

 その度に涙を耐えていたのだが、そうするとどこからともなくお友達の妖精たちが現れて、フランデールの前に集まって慰めてくれた。

 殿下の視線から守るように、彼らはフランデールの盾となってくれたのだ。

 妖精たちはフランデールのおもてに幻惑を張り、表情を隠すことで守ってくれていたのだと言うことも、グラハザードから聞いた。

幻惑に惑わされないごく一部の者には、ちゃんとフランデールの表情を確認できた。
人形令嬢などではなく、よく喋り、笑うフランデールを、知っている者も居るのだ。

父である侯爵と、国王と、新たな婚約者となったグランハザード。
今は、それだけではない。

彼が見つけてくれた。
フランデールの声を、妖精の声を聞くことができる者を集め、侍従につけてもらえた。

彼はフランデールのためにどれだけ骨を折ってくれたのだろう。

『…ありがとうございます』

「愛する婚約者フランのためなら」

そっと手を取られて口付けられた。

ぶわっと赤くなる頬を、妖精達が隠そうと動く事はない。
冷やかすような小さな口笛が上がるだけ。

実家とは違うこの空間に、フランデールの敵は居ないことを彼らは知っている。
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