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「…っ…ど、して、エリクシア様が…」

家紋の付いていない馬車は、領地に向かうための息子のために最後だからと父が用意した物。
父に深く頭を下げてそれに乗り込むと、クオーレの瞳から涙が落ちた。
そっと差し出されたハンカチに気づき、エリクシアが同乗していることに気づいた。

「貴方についていくって言ったでしょう?」

「っ…ですが…。式典で気になった方がいたと…」

「いるわよ。目の前に」

エリクシアはハンカチをクオーレの頬に当ててやる。

クオーレは驚き目を丸くして涙が止まる。

微笑む彼女の耳に揺れるのは、クオーレが選び、自身の支払いで殿下からの贈り物として渡した耳飾りが揺れている。
殿下の色味の装飾はたくさんあるからと、他の色を指定されて贈った飾り。

エリクシアの飾りに手を伸ばし、色を確認して気づいた。
思わず素が出てしまう。

「俺の、…瞳の色」
「そうよ!この色が届くまでおねだりしてたの。流行りだなんだと誘導したつもりなのに、なかなか来ないんだもの」

「それは…すみません」

エリクシアは全て知っていた。知っていて気づかぬふりをしてくれていた。
確かに優秀な彼女ならすぐに気づいただろう。
殿下の事に気を回していたから、エリクシアに気づかれていることに気付けなかった。

「殿下から、と言うことになってる貴方が私の為に選んで贈ってくれた装飾品は、全部持ってきたのよ。大事な宝物だから」

「それは…」

ここまで言われてクオーレはようやく気づいた。

「エリクシアさまの気になった方とは…俺…ですか」

「えええ!鈍すぎない!?式典のときもこの耳飾りをしてたのよ!?」

「す、すみません、」

「まぁ…貴方が鈍かったからいろいろ準備は出来ていたけど」

エリクシアはカバンから書類を数枚取り出した。

「これが新居の契約書と、貴方の職業紹介所の申込用紙ね。私はもう職場決まっているから明日にでも働きに行けるの」

てきぱきと書類の説明をするエリクシアにクオーレは戸惑うだけ。

「あと…、これは…貴方がその気になれば…」

エリクシアは半分記入済の婚姻届をクオーレにそっと差し出す。

「貴方に好いてもらえるように、頑張るから!」

クオーレの手を取ったエリクシアは、心からの笑みを想い人に向けた。
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