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第一王子の側近だったクオーレは、学園最終日自身の最後の役目、王子の婚約者だったエリクシアを卒業の式典会場から自宅へ送り届け、その任を終えた。
彼女から礼とこれまでの労いを頂き、実家へ帰った。
クオーレは両親と弟に最後の挨拶だけして、領地に戻るつもりだったが、母親に望まれ生家で家族との最後の日を過ごした。
クオーレは父親から、弟に家督を譲る事を告げられた時素直にそれに応じた。
クオーレは王子の側近になっていた間、家の金を使い込んでいた。
王子が個人の予算を使い込み、その補填の為に家の金に手をつけた。
上手く誤魔化していたがやはり父親には気づかれて、問いただされても金の流れについては口を割っていない。
それでも知られていたのだろう、何度も第一王子の側近など辞めてしまえと言われるようになっていた。
それからは横領は出来なくなった代わりに、父親に頭を下げて借金を重ねた。
何も聞かずに金を渡してくれた父親には頭が上がらない。
家督は弟に、そう言われて当然だと思っている。
第一王子から離れなかったのも、借金も、クオーレの我儘だから。
生家を去る朝。
借金を踏み倒すつもりはないことを宣言したが、父親は首を振った。
「借金は、必ず返します」
「…お前に小遣いを渡しただけだ。気にするな」
「いえ…それには額があまりにも」
「必要ない」
「そういうわけには」
「大丈夫よ。必要な費用として侯爵家から渡していたから」
昨日、自宅に送り届けた筈の令嬢の声がクオーレの後ろから聞こえた。
クオーレが振り返れば、ドレス姿の彼女ではなく、動きやすそうな格好でそこに居た。
両耳には、何時か王子からの贈り物と称して渡した装飾が揺れている。
「エリクシア様、何故ここに…?」
「うん?クオーレについていくつもりだったからだけど?聞いてないの?」
ばっと父親に目線を戻せば、ため息を吐く姿があった。
「お前に渡していた金はエリクシア様から渡されたものだ。馬鹿な第一王子が婚約者へ使うべき予算を他所の女に使い込んでいた補填だったのだろう?
最初はお前が自腹切ってエリクシア様の誕生日に贈り物をしていたと聞いた。
…第一王子ごときのためにそこまでしなくてもよかったのだ」
この国では婚約者に贈り物をするのは常識だった。
下働きに全部任せて贈らせることも珍しくはなかった。
第一王子の側近として、エリクシア様の対応担当だったクオーレはその予算が無いことに頭を抱え、自腹を切ったのが始まりだった。
「だが、そう続くわけもない。一介の仕官の給料などしれている。だから家の金に手を付けたのだろう?」
夜会に出席する度に、贈り物をせねばならない。
毎回、装飾品を贈り続けていた。
そうなれば、予算の都合で装飾の質もだんだん下がっていく。
「エリクシア様はそれに気づかれ、調べ、我が家に報告にこられたのだ…『私の婚約者が息子に迷惑をかけているようだ』と。…気づいてやれなくてすまなかった」
父は親の顔をして、クオーレの肩を叩く。
いつでも顔を見せなさい。と。
彼女から礼とこれまでの労いを頂き、実家へ帰った。
クオーレは両親と弟に最後の挨拶だけして、領地に戻るつもりだったが、母親に望まれ生家で家族との最後の日を過ごした。
クオーレは父親から、弟に家督を譲る事を告げられた時素直にそれに応じた。
クオーレは王子の側近になっていた間、家の金を使い込んでいた。
王子が個人の予算を使い込み、その補填の為に家の金に手をつけた。
上手く誤魔化していたがやはり父親には気づかれて、問いただされても金の流れについては口を割っていない。
それでも知られていたのだろう、何度も第一王子の側近など辞めてしまえと言われるようになっていた。
それからは横領は出来なくなった代わりに、父親に頭を下げて借金を重ねた。
何も聞かずに金を渡してくれた父親には頭が上がらない。
家督は弟に、そう言われて当然だと思っている。
第一王子から離れなかったのも、借金も、クオーレの我儘だから。
生家を去る朝。
借金を踏み倒すつもりはないことを宣言したが、父親は首を振った。
「借金は、必ず返します」
「…お前に小遣いを渡しただけだ。気にするな」
「いえ…それには額があまりにも」
「必要ない」
「そういうわけには」
「大丈夫よ。必要な費用として侯爵家から渡していたから」
昨日、自宅に送り届けた筈の令嬢の声がクオーレの後ろから聞こえた。
クオーレが振り返れば、ドレス姿の彼女ではなく、動きやすそうな格好でそこに居た。
両耳には、何時か王子からの贈り物と称して渡した装飾が揺れている。
「エリクシア様、何故ここに…?」
「うん?クオーレについていくつもりだったからだけど?聞いてないの?」
ばっと父親に目線を戻せば、ため息を吐く姿があった。
「お前に渡していた金はエリクシア様から渡されたものだ。馬鹿な第一王子が婚約者へ使うべき予算を他所の女に使い込んでいた補填だったのだろう?
最初はお前が自腹切ってエリクシア様の誕生日に贈り物をしていたと聞いた。
…第一王子ごときのためにそこまでしなくてもよかったのだ」
この国では婚約者に贈り物をするのは常識だった。
下働きに全部任せて贈らせることも珍しくはなかった。
第一王子の側近として、エリクシア様の対応担当だったクオーレはその予算が無いことに頭を抱え、自腹を切ったのが始まりだった。
「だが、そう続くわけもない。一介の仕官の給料などしれている。だから家の金に手を付けたのだろう?」
夜会に出席する度に、贈り物をせねばならない。
毎回、装飾品を贈り続けていた。
そうなれば、予算の都合で装飾の質もだんだん下がっていく。
「エリクシア様はそれに気づかれ、調べ、我が家に報告にこられたのだ…『私の婚約者が息子に迷惑をかけているようだ』と。…気づいてやれなくてすまなかった」
父は親の顔をして、クオーレの肩を叩く。
いつでも顔を見せなさい。と。
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