心を失った彼女は、もう婚約者を見ない

女癖の悪い王太子は呪われた。

寝台から起き上がれず、食事も身体が拒否し、原因不明な状態の心労もあり、やせ細っていった。

「こりゃあすごい」

解呪に呼ばれた魔女は、しゃがれ声で場違いにも感嘆した。

「王族に呪いなんて効かないはずなのにと思ったけれど、これほど大きい呪いは見たことがないよ。どれだけの女の恨みを買ったんだい」

王太子には思い当たる節はない。
相手が勝手に勘違いして想いを寄せられているだけなのに。

「こりゃあ対価は大きいよ?」

金ならいくらでも出すと豪語する国王と、「早く息子を助けて」と喚く王妃。

「なら、その娘の心を対価にどうだい」

魔女はぐるりと部屋を見渡し、壁際に使用人らと共に立たされている王太子の婚約者の令嬢を指差した。
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