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「伯爵令嬢ミファセス!お前との婚約は破棄する!」

貴族学園の人の行き交う廊下にて。
侯爵子息のシュラブは自身の婚約者の目の前に立ち、指を突きつけた。

他の令息と仲良さげに話をしていたのを目撃したという。
男の手を借りて馬車に乗り込む姿も見た!
密室に男女二人きりなど、婚約者への裏切り行為だ!
それは浮気以外の何物でもない!


シュラブが一通り叫び捲し立て終わるのを待ち、ミファセスは「かしこまりました」と静かに了解した。

「そうやって泣いて縋って謝っても婚約破棄は覆らな」

ミファセスに向かって人差し指を差したまま、シュラブは突然固まった。

「…今何といった」

「?かしこまりました、と」

ミファセスはもう一度繰り返した。

「こ、婚約破棄だぞ!私達は婚約者ではなくなるのだぞ!」

何故かシュラブが慌て、何度も確認する。
一度聞けば理解できる内容を、何度も何度も。

「ええ…といいますか…」

「なんだ!やはり婚約破棄は許してほしいのか!」

ふんっと急に態度を変えてふんぞり返るシュラブに、ミファセスは事実を告げる。

「侯爵子息様との婚約はすでに破棄されているものと存じております。私には、新たな婚約者も定められておりますので」

ミファセスの瞳にはシュラブが映っている。

しかし、以前のような恋をしている瞳ではない。

友人よりもまだ遠い。

全くの初対面の者を相手をしている時の瞳によく似ていた。


シュラブは口を開けたまま、その場に立ちすくんだ。

急に黙ったシュラブの背に、ミファセスは知り合いを見つけ、軽く膝を曲げカーテシーを残してそちらに向かっていった。

「…嘘だ!嘘だ!」

ミファセスの姿を目で追い、背が見えなくなってからシュラブは叫んだ。

ひそひそと囁く周囲など気にする余裕もなかった。

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