結婚するので姉様は出ていってもらえますか?

基本二度寝

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すやすやと眠るジュリアの頭を抱いて、エルクは振動する魔具を手早く取り上げた。
振動音でジュリアが起きていないことを確認するとエルクは片手でそれを操作した。

『事業部長、今よろしいですか?』

異国のあまり知られていない言語を使用するという事は、そばにいる人間に聞かれては不味い内容なのだろう。

『よくないけど。せっかくジュリアと仲良く寝てたのに』
『申し訳ありません。時差がよくわからないので』

そんな無能な人間など雇っていない。
つまり緊急なんだろう。
彼はジュリアの母国にいるエルクの部下だ。

『スタンピードが発生しました』
『はっ』

笑い出しかけて、口を抑えた。
ジュリアが起きたら大変だ。

『聖女様はどうした』
『あんなハリボテではどうしょうもないでしょう』
『力も何もないただの我儘王女だもんねぇ』

エルクは部下に適当な段階で国を出るように指示をし、魔具を置いた。

「聖女にされてたら、絶対手が届かなかった」

王女のわがままがなければ今の生活はない。
その点は感謝している。
騙して聖女の役割を押し付けようとしたことは許せないけれど、エルクが手を下すまでもなかった。

ジュリアの妹と父親は教会で下働きをさせられているらしい。
当然、王子との結婚もなくなった。

なんでそんな仕打ちを受けているのか本人たちはわからないままだろう。
表向きは、城の維持費の使い込みということらしいのだが。

「まぁどうでも良いか」

エルクはジュリアの首筋に頭を埋めて眠りについた。
ジュリアと同じ夢が見れるように。





ジュリアの母国で誕生したとされる聖女は国王の末娘だと公表された。

公表して一年ほどは、国内にあったダンジョンからの魔物の発生が無くなった。
聖女様の力だと、国民は聖女を持て囃した。
魔物の被害は国としても頭を痛める問題だった。

しかし一年が経った頃、再び魔物が発生し始めた。

国民は聖女に救いを求めたが、聖女は城から顔を出すこともなく引き篭もった。

なんのことはない。
王女は聖女ではない。
教会から聖女は底辺男爵家の子女だと報告されていた。

しかし、教会を抱き込んで末娘を聖女と公表した。
聖女になりたいと末娘の我儘を国王が聞き入れたのは、底辺の男爵家の娘を聖女と崇める事を嫌った。それだけだった。

では何故、一時的に一年間魔物の発生が無くなっていたのか。

その期間はジュリアが与えられた城に住んでいた時期だった。

王は神殿を改装したと偽って、住居として提供したが結局、神殿の機能は残したままだった。

聖女が神殿に入る。
そうすることで、土地から魔の力を抑え込んでいた。

王子を婿入りさせ、神殿から出さぬように図ったが、まさか当主が一方の娘を追い出すとは思わなかった。

国王は二人いる娘の内どちらが聖女かまではわかっていなかった。
ジュリアがそうだと知ったのは、彼女が他国へ渡ってからのことだった。

王は早急に足取りを追わせたが、追跡できなかった。

ジュリアの出国記録は残っていた。
国の東西南北にある国境の検問所全てから。

同日、同時刻に出国したという記録のせいで上層部は混乱した。
しかもその後の足取りも、どの国からも出てきた。

その段階になって、王はようやく組織的な聖女の誘拐に気づいた。
気づいた所で手立てはなかった。

娘を聖女と公表したため、聖女の奪還の協力要請を他国に求めることはできない。

ジュリアの痕跡はその後も増え続け、膨大な情報が舞い込んだが、情報を精査している間にも新たな情報が届き処理は一向に進まなかった。

魔物の討伐とジュリアの捜索どちらも人員が不足し始めた為、捜索を一旦打ち切り、魔物討伐へ人員を投入した。

なんとか数年は均衡を保っていたが、今回のスタンピードで国は大きく傾いてしまった。
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