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「リリの婚約が公式に発表されて忙しくなるから二人で新婚旅行にでも行ってこいなんて…お父様ったら」
アレスフィナは馬車で王都を出た。
隣には夫のグイスもいる。
忙しくなるならアレスフィナも父の力になるのに、グイスの新婚休暇まで王からもぎ取っていた。
「厄介払いでもしたいのかしら…?」
「違うと思う」
グイスは困ったように笑う。
義父となった公爵から厳命されている。
『アレスフィナに種を仕込め』と。
共寝は婚姻からずっとしていた。
アレスフィナの成人前に密かに婚姻していた二人は、まだ抱き合って眠るだけで、色事には及んでいない。
普通の男親は娘を婿に取られる事を嫌がるものらしいので、義父の言葉を二度聞き返してしまった。
公爵は『早く孫に会いたい』と言う。
グイスは孤児だった。
公爵家の領地の民だった。
だから、子や孫を求める親や祖父の気持ちはまだわからない。
持てばわかるというけれど。
まぁ、貴族の当主なので単純に後継の心配をしているだけなのかもしれない。
旅行の最初の地は、公爵家の領地。
グイスの育った孤児院を訪れた。
日差しの強さから、グイスは大きなフードをアレスフィナはつば広帽子を被っていたのだが、下から見上げる妻の目線に気づいた。
「どうかした?」
「…昔、見たような気がして」
アレスフィナがのぞき込んでくる顔が愛らしくて、鼻先に口付けた。
「!?」
「驚いた顔もかわいい」
グイスの肩を叩き、アレスフィナはそっぽを向いた。
「…あの人はそんなことをしなかった」
「あの人?」
幼い時まだ、王子の婚約者の話が決まる前、公爵家にやってきた黒ずくめの男。
魔術で体型も声も偽っていた人物を男と明確に呼ぶのは、小さかったアレスフィナがフードの下から顔を覗いたから。
「あの人、グイスに似てた…」
一つ思い出せば、それが呼び水となり次々と記憶が蘇る。
「占いで有名な平民の方…だったと思うのだけど。父が呼んで何かを占ってもらっていたようなのよね」
「易者…?または卜者か…」
公爵がそういった類の物に傾倒する性格ではない事を二人は知っている。
今にしてみれば妙な取り合わせだと思う。
「思えば父は、彼の面会後の態度が変わったのよね。胡散臭そうにしていた初めの対応が、面会後は旧友のような親しさに」
フードの男は暫く公爵家に滞在していた。
父が勧めていたのだ。
身元の知れない人物を囲うような人間ではなかった。
「そんなあやしい人物が公爵家にいたのか…」
「怖くはなかったわね。あんなに恐ろしい風体だったけど」
ちゃんと、話したことはない。
時々、幼いアレスフィナに魔法を見せてくれた。
手のひらに氷の花を咲かせたり、紙の蝶を羽ばたかせたり、触れる水の玉を作ったり。
楽しくてアレスフィナはその水の玉をグイスにぶつけて水浸しになった彼は…
「やだ、そうよ。グイスも会っていたじゃない。魔術の師匠だって」
「師匠…、師匠の事?やだな、師匠は女性だったよ?アレスフィナと同じ目の色をした。
だからアレスフィナの母かその親族だと思ってた」
「ええ?男でしょう?いつもフードを被ってたし」
フードの男が来て直ぐに、領地にいたグイスが公爵家に連れてこられた。
領地視察の公爵について来た娘が、はしゃいで走って転んで怪我をしたのを、グイスが治癒魔法で癒やしてみせた事が二人の出会いだった。
魔術を使う平民は珍しい。しかも孤児。
我が家で使おうと魔術学校に通わせることを公爵は目論んでいたが、領地から呼び、屋敷に滞在するフードの男にグイスの魔術の講師を頼んでいた。
「あの人、占い師じゃなくて魔術師だったのかな」
「師匠のこと?魔力交換したことあるけど、かなりの魔力の持ち主だったと思う。今会えれば、力を測れるんだけどなぁ」
グイスは魔術の基礎を師匠から学んだ。
魔術は大事な人を守るために使ってほしいと、グイスの手を握って何度も語りかけた。
はたと気づく。
師匠は女性だった。間違いなく。
でも、魔力交換で合わせた手に、『父がいたらこんな感じだったのかな』と思ったのだ。
どうしてそう思ったのか。
母ではなくて、あの時、何故、父のようだと思ったのか?
「あの人、グイスのお父様だったんじゃない?」
アレスフィナの発言と自分の思考が重なった。
性別を偽る魔術、或いは姿を変える魔術。
この国随一の魔術師グイスの師ならその程度造作も無い。
アレスフィナの語るフードの男とグイスの師匠の像は重ならない。
唯一、一致したのは、母の赤と父の青を混ぜた瞳の色を持つアレスフィナと同じ薄い紫の目の色だけだった。
アレスフィナは馬車で王都を出た。
隣には夫のグイスもいる。
忙しくなるならアレスフィナも父の力になるのに、グイスの新婚休暇まで王からもぎ取っていた。
「厄介払いでもしたいのかしら…?」
「違うと思う」
グイスは困ったように笑う。
義父となった公爵から厳命されている。
『アレスフィナに種を仕込め』と。
共寝は婚姻からずっとしていた。
アレスフィナの成人前に密かに婚姻していた二人は、まだ抱き合って眠るだけで、色事には及んでいない。
普通の男親は娘を婿に取られる事を嫌がるものらしいので、義父の言葉を二度聞き返してしまった。
公爵は『早く孫に会いたい』と言う。
グイスは孤児だった。
公爵家の領地の民だった。
だから、子や孫を求める親や祖父の気持ちはまだわからない。
持てばわかるというけれど。
まぁ、貴族の当主なので単純に後継の心配をしているだけなのかもしれない。
旅行の最初の地は、公爵家の領地。
グイスの育った孤児院を訪れた。
日差しの強さから、グイスは大きなフードをアレスフィナはつば広帽子を被っていたのだが、下から見上げる妻の目線に気づいた。
「どうかした?」
「…昔、見たような気がして」
アレスフィナがのぞき込んでくる顔が愛らしくて、鼻先に口付けた。
「!?」
「驚いた顔もかわいい」
グイスの肩を叩き、アレスフィナはそっぽを向いた。
「…あの人はそんなことをしなかった」
「あの人?」
幼い時まだ、王子の婚約者の話が決まる前、公爵家にやってきた黒ずくめの男。
魔術で体型も声も偽っていた人物を男と明確に呼ぶのは、小さかったアレスフィナがフードの下から顔を覗いたから。
「あの人、グイスに似てた…」
一つ思い出せば、それが呼び水となり次々と記憶が蘇る。
「占いで有名な平民の方…だったと思うのだけど。父が呼んで何かを占ってもらっていたようなのよね」
「易者…?または卜者か…」
公爵がそういった類の物に傾倒する性格ではない事を二人は知っている。
今にしてみれば妙な取り合わせだと思う。
「思えば父は、彼の面会後の態度が変わったのよね。胡散臭そうにしていた初めの対応が、面会後は旧友のような親しさに」
フードの男は暫く公爵家に滞在していた。
父が勧めていたのだ。
身元の知れない人物を囲うような人間ではなかった。
「そんなあやしい人物が公爵家にいたのか…」
「怖くはなかったわね。あんなに恐ろしい風体だったけど」
ちゃんと、話したことはない。
時々、幼いアレスフィナに魔法を見せてくれた。
手のひらに氷の花を咲かせたり、紙の蝶を羽ばたかせたり、触れる水の玉を作ったり。
楽しくてアレスフィナはその水の玉をグイスにぶつけて水浸しになった彼は…
「やだ、そうよ。グイスも会っていたじゃない。魔術の師匠だって」
「師匠…、師匠の事?やだな、師匠は女性だったよ?アレスフィナと同じ目の色をした。
だからアレスフィナの母かその親族だと思ってた」
「ええ?男でしょう?いつもフードを被ってたし」
フードの男が来て直ぐに、領地にいたグイスが公爵家に連れてこられた。
領地視察の公爵について来た娘が、はしゃいで走って転んで怪我をしたのを、グイスが治癒魔法で癒やしてみせた事が二人の出会いだった。
魔術を使う平民は珍しい。しかも孤児。
我が家で使おうと魔術学校に通わせることを公爵は目論んでいたが、領地から呼び、屋敷に滞在するフードの男にグイスの魔術の講師を頼んでいた。
「あの人、占い師じゃなくて魔術師だったのかな」
「師匠のこと?魔力交換したことあるけど、かなりの魔力の持ち主だったと思う。今会えれば、力を測れるんだけどなぁ」
グイスは魔術の基礎を師匠から学んだ。
魔術は大事な人を守るために使ってほしいと、グイスの手を握って何度も語りかけた。
はたと気づく。
師匠は女性だった。間違いなく。
でも、魔力交換で合わせた手に、『父がいたらこんな感じだったのかな』と思ったのだ。
どうしてそう思ったのか。
母ではなくて、あの時、何故、父のようだと思ったのか?
「あの人、グイスのお父様だったんじゃない?」
アレスフィナの発言と自分の思考が重なった。
性別を偽る魔術、或いは姿を変える魔術。
この国随一の魔術師グイスの師ならその程度造作も無い。
アレスフィナの語るフードの男とグイスの師匠の像は重ならない。
唯一、一致したのは、母の赤と父の青を混ぜた瞳の色を持つアレスフィナと同じ薄い紫の目の色だけだった。
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