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「僕を殺すなら、メリアを連れて行く」

ただの平民の戯言。
けれど、王太子は苛立った。

王太子の婚約者である公爵令嬢メリアンテが側に置いていたのは平民だった。

「メリアンテをメリアと呼ぶな」

王太子は、婚約者の愛称を呼ぶ許可は貰えていない。

メリアンテが、愛称を呼ぶことを許すほどに男に恩を感じていることは聞いている。

昔、少女だったメリアをいろんな場所に連れ回した時、王太子は浮かれて泉に落ちた。
王太子を必死で引っ張り上げたのはメリアンテだったが、その彼女が王太子と入れ替わるように泉に転落した。
水を吸うドレスの重みで沈み掛けていたメリアンテを助けたのが、この平民だった。

それ以来、メリアンテはこの平民を自分のそばに置きたがっていた。
公爵を説得し、認められていた。

男をそばに置きたがるほど、メリアンテの気持ちが平民に向き始めているのかもしれない。

焦った王太子は、公爵令嬢へつきまとい行為を行ったとして平民を捕えさせた。

メリアンテに近づくなと警告し、去るなら多少の怪我だけで済ませようと思っていた気持ちは、男の挑発的な言葉で取りやめた。

「城で囲われ守られているメリアンテを連れ出せるものか」

王太子は平民の胸を剣で突いた。
崩れ落ちた男はメリアンテの名を呟いて息絶えた。

メリアンテには、男の死を伝えるつもりはなかった。

何も知らぬまま、王太子に嫁いでくればいい。
時間とともに男のことも忘れるだろうと思っていた。

その後すぐ、メリアンテが亡くなったと知らせを聞くまでは。
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