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それから一月ひとつき

ようやく時期が来た。
本当はもっと早く解決すべきだと思っていたが、騎士団側から待ったがかかった。
確実な現場を抑えたい、と言うので承諾した。

王太子の側に魔法師団長子息がいたことがネックだった。
魔防壁で外部遮断。
妙に慎重だった彼らの気が緩むまで4週間かかった。

ーーー

ここを訪れるのも最後になるだろうと王城のある部屋の前に立った。
先触れもなしに訪れるのは不敬だが、陛下からの許可があるので問題はない。

扉を開ければ、むわっとする情交の匂いに思わず鼻を覆った。

「失礼致します。王太子殿下」

ごろんと寝台から落ちてきた殿下は驚愕に目を開く。

「な、な、ななんだ急に、先触れもなしに無礼だろう!」
「陛下の許可は得ています」

あえて部屋には入らず、身体を横にずらすと扉の陰から国王陛下が姿を見せた。

「ち、父上っこれはその」

慌てて脱ぎ散らかした服をかき集める姿はあまりに滑稽。

「そのままでよい。貴様は廃嫡だ。次の王太子には甥を新たに立たせる」
「は?何故!急にそのような…!」
「肉欲と薬に溺れる貴様に国を担う資格などないわ」
「…それはっ」
「妙な薬を使って、令嬢を手篭めにしようとしていた計画も把握している。
その件は騎士団預かりの案件としているのでしっかり罪は償えよ。そこに隠れている、馬鹿共もな?」

見つからないと思っていたのか他の者たちの体を震わせる姿も目にした。
寝台に備えつけられてある天幕には四つの影がしっかり映っている。

護衛騎士らが部屋に入ると天幕を開けば、男爵令嬢を押さえつけた愚かな子息たちの姿があらわれた。

「わ、私達はっ関係な」

慌てたように魔法師団長の子息が無関係を叫ぶ。
素っ裸で一人の令嬢に群がっていて無関係とはどういった了見なのだろうか。

青い顔をした彼ら、騎士団長子息、宰相子息、魔法師団長子息。
彼らの婚約も解消されることになっている。
犯罪として立件されれば、婚約の解消は免れない。

彼らは二男、三男だった為、婿入り先はなくなった。
あとは自力で頑張るしかないだろう。

愕然とする男たちの手が緩んだのか、押さえつけられていたミリルが助けを求めた。

「おねがいっ!たすけて!私、こんなこと、望んでなかったの!
あの日、生徒会室でお話してただけなのにっ、薬を盛られて、こいつらに代わる代わる…っ!」
「私は忠告しましたわよね?近づくなと」
「ただの嫉妬だとおもったのっ!」
「殿下が不審な薬を入手したと情報があったので、近づかないほうが良いと忠告したのです。
学園内のご令嬢全てに警告しました。」

真意は伝えずとも彼女たちは私の忠告を守り、処世術で上手く殿下達を躱していた。

「そんなの、ちゃんと言ってくれないと、わかんない」
「不敬になるような発言を迂闊にできません。
ですのでやや強引に引き離した時もありましたよね?それでも彼らに近づき続けたのは貴方の意思です」

彼らは何日も授業を受けず、生徒会室に篭りミリルを犯していた。
それは学園に通う貴族全員が知るところだ。

残念だが今後ミリルにまともな縁談は望めないだろう。

仕方がない。
本人の行動の結果なのだ。

一度犯されてしまえば、あとはそれをネタに脅され続ける。
逃げようにも殿下たちは律儀に毎朝毎夕、ミリルを家まで送り迎えしていた。


ー仲間に入れてあげようか?ー

おそらく、うまく他の令嬢を誘い込むことができたのなら解放してやるとでも言われたのだろう。
だが、あの時ミリルは自分がどんな顔をしていたのか自覚がなかったにちがいない。

いつもは楽しそうに笑っていたのに、殿下達に手を握られ拘束された状態で始終怯えた表情だった。

なにかあったと誰でもすぐにわかった。
彼女が彼らの手に落ちたのだと誰もが気づいた。
気づいたが、どうしようもなかった。

まともな令息達は自分の婚約者を守るため、できる限り一緒にいる光景を見かけた。
私にとっては全く羨ましい婚約者同士の姿だった。


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