上 下
19 / 63
第二章 「神に愛されなかった者」

#18 残った依頼と運のいい男

しおりを挟む

 俺が冒険者ギルドに入ると、外から聞こえていた喧噪が少し弱まった。
 そして、纏わりつくような視線を感じる。

「あいつが倒したらしいぜ」「いや嘘だろいくら何でも」「いやでも見た奴もそこそこいるんだぜ」「あんな弱そうなやつなのに」

 そして、所々から聞こえるその声々。
 どうやら昨日、俺が大王河童ロブスター倒したことが噂になっているらしい。

「……」

 注目されるのはどうも好きじゃない。

 ましてや、それが自分が対象だったら猶更だ。
 こんな視線を物ともなかったミヤはやはり大物なのだろうか。

 まるで見世物になったような居心地の悪さを感じながら、俺は冒険者ギルドの受付へと向かう。

「いらっしゃいませアキラさん!」

 いつも通りのその営業スマイルの後、ミリアさんは視線を俺の左右に巡らせた。

「……あれ? ミヤさんは今日はご一緒じゃないのですか?」
「ええ、ちょっと疲れてるみたいなんで今日は休みです」
「そうですか……お大事にとお伝えください」

 その後のやりとりもミリアさんはいつも通りだった。
 まあこの人は多分、ミヤの方が大王河童ロブスターを倒したと思っているからいつも通りの反応なんだろうけど。

「それで今日はどうしますか?」
「そうですね、Fランクの依頼を受けたいんですが……」

 少々お待ちくださいとミリアさんは台帳のようなそれを捲り始める。
 その作業の途中、後ろで聞こえた声に変化があった。

「Fランク?」「あいつFランクなのか」「FランクがBランク倒せるのか?」「そもそもあいつって誰だ」「噂の出所が確かパールドだろ」「嘘っぽいな」

 俺に対しての噂話に懐疑の声が上がっているようだった。
 まあこのまま何事もなかったかのように無くなってくれるのが一番だが。
 
 そんなことを考えていると、

「お待たせしました」

 とミリアさんの声が上がる。

「現在Fランクが受けられる依頼はこちらになります」

 机に上がった紙は一枚。
 それは見たことのある依頼だった。

【依頼No】81
【依頼名】リンリンゴ討伐チームの募集
【報 酬】出来高制
【内 容】レアモンスターリンリンゴを倒し、ドロップ品の黄金リンゴを手に入れるための討伐メンバーの募集。腕に自信のある冒険者募集。

「一つだけですか?」
「そうですね、今日は今のところ他にFランクが受けられる依頼はありませんね……」
「うーん」

 今日はどちらかというと冒険者ランクのポイントを稼ぎたかったし、
 よい依頼があったら受けようと思ったけど……この依頼は前から残っているしどうなんだろう?

「この依頼は前からずっとあるんですか?」

 ミリアさんは頬を書きながら、苦笑した。

「そうですね、かれこれ1週間ずっと依頼がありますね。リンリンゴが全然見つからなようないそうで」
「そんなレアモンスターなんですか?」
「滅多には見つからないとはいえ、ここまで見つからないのは珍しいですね~」

 そう言いながら、ミリアさんは台帳よりその依頼内容がより詳細に書かれた紙を取り出した。
 どうやら興味を持ったと思われたらしい。

「全然見つからないので、報酬がかなり上がっています。黄金リンゴを手に入れることが出来ましたら、今なら金貨10枚ですね」
「金貨10枚!?」

 驚きで声をあげる俺だが、冷静になってもそれは間違いなく大金だ。

 1ヶ月は何もしなくても困らない生活を送れるだろうその報酬。
 すっかりその気になった俺はミリアさんに色々と依頼内容を聞くが、以下のことが分かった。

・依頼内容が達成できなくても1日に一定の報酬とポイントは保証されている
・リンリンゴ自体が弱く、生息している場所のモンスターもFランク冒険者でも十分倒せるくらいなので比較的安全な依頼だということ

「ただ他のランクの方も結構参加されているので、リンリンゴの競合率は若干上がっていますが……」

 聞けば十数人の冒険者が参加しているらしく、最高でCランク冒険者がいるらしい。

「ただそれを含めても良い依頼かと思います」

 そうミリアさんは締めくくる。

 確かに悪くはないな。
 仲間が欲しいと思っていた俺にとって、
 幾らか交流がありそうな依頼は好都合だし、何より報酬が凄まじいし。

 そう思った俺は、この依頼を受けることにした。
 依頼を受理するとミリアさんはにっこりと笑みを浮かべながら、ある物を机に置いた。

「では、ここが依頼集合場所になります。詳しくはそこにいる依頼主のクラードさんの指示に従ってください。いけば分かると思いますよ」

 お気をつけてと言うミリアさんの言葉に軽く会釈で返した後、
 俺は渡された地図を手に冒険者ギルドを後にした。


 * * * 

 地図に描かれた集合場所は、ナルバッツ平原という場所の入り口らしい。
 俺は地図をもとにその場所へと向かう。

「……しかし、レアモンスターか」

 リンリンゴというそのモンスターを妄想で頭で思い浮かべながら、俺は思う。

「1週間も見つからないんだからかなり見つけにくいんだろうけど……金貨10枚は欲しいよなぁ」

 とはいえ、現実世界の俺は特別運が良かったは試しはない。
 こういうのは期待しないくらいがちょうどいい……いや待てよ。

「とどのつまり、運だよな」

 うん、運だ。

 だとすれば……。
 俺は人に見つからないように路地裏に入り、ステータスと心の中で唱えた。


【 名 前 】 アキラ
【 職 種 】 魔法使い
【 レベル 】 17
【 経験値 】 6000(次のレベルまで1499)
【 H P 】 960/960
【 M P 】 10/10
【 攻撃力 】 2523
【 防御力 】 640
【 俊敏性 】 113
【  運  】 113
【 スキル 】 なし
【特殊スキル】 アナグラム……【アナグラムで遊べる】


「……運だよな」

 俺はある部分を弄り始め、ステータスを変更する。

「とりあえずは特化でいこう」

 やりすぎないようにそこのステータスを整える。

「……にしてもステータスを弄れるなんて不思議だな」

 なんかいろいろできそうだし、
 今日の依頼が終わったら、もう少し調べた方が良さそうだな。
 
 そんな決意を抱きながら、
 俺は路地裏から抜け出し、集合場所へと駆け出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~

ままるり
ファンタジー
女子高生、美咲瑠璃(みさきるり)は、気がつくと泉の前にたたずんでいた。 あれ? 朝学校に行こうって玄関を出たはずなのに……。 現れた女神は言う。 「あなたは、異世界に飛んできました」 ……え? 帰してください。私、勇者とか聖女とか興味ないですから……。 帰還の方法がないことを知り、女神に願う。 ……分かりました。私はこの世界で生きていきます。 でも、戦いたくないからチカラとかいらない。 『どうせなら便利に楽させて!』 実はチートな自称普通の少女が、周りを幸せに、いや、巻き込みながら成長していく冒険ストーリー。 便利に生きるためなら自重しない。 令嬢の想いも、王女のわがままも、剣と魔法と、現代知識で無自覚に解決!! 「あなたのお役に立てましたか?」 「そうですわね。……でも、あなたやり過ぎですわ……」 ※R15は保険です。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

転生先が森って神様そりゃないよ~チート使ってほのぼの生活目指します~

紫紺
ファンタジー
前世社畜のOLは死後いきなり現れた神様に異世界に飛ばされる。ここでへこたれないのが社畜OL!森の中でも何のそのチートと知識で乗り越えます! 「っていうか、体小さくね?」 あらあら~頑張れ~ ちょっ!仕事してください!! やるぶんはしっかりやってるわよ~ そういうことじゃないっ!! 「騒がしいなもう。って、誰だよっ」 そのチート幼女はのんびりライフをおくることはできるのか 無理じゃない? 無理だと思う。 無理でしょw あーもう!締まらないなあ この幼女のは無自覚に無双する!! 周りを巻き込み、困難も何のその!!かなりのお人よしで自覚なし!!ドタバタファンタジーをお楽しみくださいな♪

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

処理中です...