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第一章 「魔物使いとアナグラム遊び」

#9 初陣。トラッキー無双

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 昼飯を終えた後、俺たちはヘルラルラ平原へと来ていた。

 青い空の下、眼下に広がる緑豊かなその平原。
 心地よい風が若草のいい香りを運ぶ。

「気持ちのいい場所やね」
「そうだな」

 俺たちはさっそくスライムの探索を始めた。

 ほどなくして、それは見つかる。
 プルプルとゼリーのように揺れながら動くそのモンスター。

「――おお!」

 俺は感嘆の声を上げた。

 RPGの世界では看板モンスターとも言っていいその存在に、謎の感動を覚える。
 振り向けばミヤもまた、違うスライムを見つけており、トラッキーと共に戦闘準備に入っているようだった。

 だったらこいつが俺の獲物になるわけか。
 俺は再び、そのスライムと対面する。
 
 冒険者ギルドで支給されたこん棒(魔法使いだが魔法スキルが一つも無かった為、全職種装備可能な最弱武器らしい)を右手に持ちながら、じわじわと距離をつめる。

 ――よし、戦闘開始だ。
 俺がこん棒を振りかぶった瞬間、プルルンとスライムがはねた。

「なっ!?」

 一直線に俺の腹部へと向かってきたその攻撃を、無警戒だった俺は避けることができない。
 ボンっという鈍い衝撃に、身体が揺れる。

「――くっ」

 冒険者ギルドから支給された防具のおかげで痛みという点では大したことはなかったが、何発も食らえばヤバいと直感で分かる。

「スライムだからと思って甘く見てたな」

 俺はふぅと小さく息を吐き、気合を入れなおす。
 こんぼうを先ほどよりも短く持ち、俺は間合いを詰めた。

「おら!!」

 直撃するこんぼうとスライム。ぼよんとした感触が手に広がる。
 スライムは一瞬後退し、プルプルと震えた。
 
 がすぐに、こちらにジャンプしながら間合いを詰めてくる。
 俺の攻撃もまた、スライムにはあまり効いていないようだった。

 長期戦になりそうだった。

「おりゃ!」

 ぽかぽかぽかと、俺はこん棒でスライムを殴ると。
 怒ったスライムの、攻撃が俺へと向かう。

 ……ボスッ、という衝撃。
 その攻撃をまともに受けてしまう。

 また、ぽかぽかぽかと、俺がこん棒で殴ると。
 怒ったスライムがまた俺へと飛びかかる。
 
 ……ふん!
 と、俺は何とかそれを避けた。

 そんなこんなを繰り返すこと、30分。
 ボスッという鈍い衝撃をこん棒が受け取ると、ぷしゅーという謎の音を発しながらスライムは解けるように消えていく。

「……やった、倒した」

 ふぅーと大きく息を吐く俺。
 すると、スライムが倒れた場所からポンッと飛び出るようにそれは現れた。
 
 手のひらサイズの丸い玉のような形状。
 手に取ると、太陽の光を反射し、それは光る。
 まるでスーパーボールのような色形のそれは、スライム玉というらしい。

 スライム玉。
 スライムを倒した際のドロップ品らしい。これを冒険者ギルドに持っていくことでモンスターを倒した証にもなるし、俺らにとってはお金にも代えられる貴重な品だ。用途としては、主に装飾品に使われるらしい。

「大事に取っておかなきゃな」

 そう思い、これまた冒険者ギルドから支給された鞄に大事に大事にしまおうとするが、それは見えてしまう。

「トラッキー! ホーリーフレイムや!」

 神々しい光の炎が、トラッキーの口から吐き出された。
 辺り一面のスライムが灰と化し、所々からスライム玉がポンポンと湧き出た。

「……えぇ」

「大漁やねぇ~♪」

 ご機嫌のミヤはスライム玉を投げ回し、遊んでいた。
 まるでお手玉のように。

 俺は手元にある、スライム玉にもう一度視線を落とす。
 きらきらと宝物のように見えたそれが、安っぽいおもちゃのように見えてくる。

「……不思議だ」

 何とも格差を感じる瞬間だった。
 俺はその行き場のない感情を、近くのスライムへと発散した。

 それがオレンジ色に染まる、夕暮れ時。
 俺たちは頃合いだと悟り、狩りを終えた。

 結局、俺はスライムを2匹討伐。
 ミヤとトラッキーは151匹討伐し、ヘルラルラ平原の初陣は終わった。
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