上 下
6 / 6
第1章 転生、変身、械傑フール!!

05:不穏な予感

しおりを挟む


 『何だ、気付かなかったのか?』

 どこからか声が響く。

 辺りを見回しても、声の主の姿は見当たらない。

 だけど聞き覚えがある分、誰のものなのかはすぐに見当が付いた。

 「隠れていないで出てきなさい、フール!」

 『ふぅむ……仕方ない、今は少し気分が良いから出て来てやろう』

 そう言うと、私の身体から砂色の靄みたいなものが浮かび上がってきて。

 やがて段々と声の主、もといフールが姿を現した。

 『やぁ、さっきぶり』

 「“さっきぶり”、じゃないわよっ! どういうことなのコレ……て、あっ!」

 フールに抗議している最中、その隙にデンデラが背を向けて逃げ出した。

 『ほらほら。おしゃべりするのは構わないが、せっかく弱ってるというに敵を逃してしまうぞ?』

 「わかってるわよ!」

 もちろん後を追うつもりだけど、その前にと。

 父さんの方を振り返って、

 「私はヤツを追うから、身を隠せるところに隠れてて。出来る範囲で良いから」

 「あ、あぁ……分かったっ!」

 ここにいる戦闘員は全員倒しただろうから、救援が来ない限りは唐突に父さんを襲うことはまずあり得ないだろう。

 あとは早急にデンデラさえ倒せれば完璧、ミッションコンプリートだ。

 お互いに頷き合ってから、再びデンデラを追うべく駆け出す。

 いろいろ思うところも、今すぐにでもフールに問い詰めたいこともたくさんあるけれど……

 今は目の前の問題を解決するために、迷っているヒマはない!

 追いかけながら前世の記憶をフル回転させていくと――

 確かに械傑マーリンが主に使っていたのは“風を生み出し活用する”白銀の剣であったけど、話数を追うごとに武器も元素属性も変わっていったことを思い出す。

 初期の頃によく使われていた白銀の剣は“風”、次に登場した鎖鎌は“水”、その次に登場した鉤爪は“土”。

 そして最後に登場したのが、火を自在に操れる杖だ。

 何の手違いか分からないけど、どうやら今私が持っているのはその杖みたいだ。

 形云々はちょっと違うけど、色的にも棍棒という意味でも多分間違いない。

 本来ならこの杖を手にするのは、物語の終盤頃のはずなんだけど……

 いや、ぐだぐた考えるのは後回しだ。

 今使えるものは何でも使わなきゃ。

 そうこう考えている内に、デンデラの背後に追い付けた。

 ここで一気にカタを付けよう。

 得物自体が違うから、完璧に械傑マーリンみたいにはいかないかもしれないけど……

 やらないよりはマシ!!

 棍棒を構えながら、械傑マーリンがどうやって一撃必殺の技を出していたのかを思い出す。

 確か……見た限りだと構えた得物に気を溜めていくようにして、フルチャージしたタイミングで駆け出して敵に一撃を与えていた。

 どんな得物に変わっても、このやり方は変わらなかった。

 ならばと。

 意識を棍棒に、自分の血流に集中させた。


 ――ビンゴ。

 デンデラに喰らわせた、血流が炎に変わっていく感覚。

 それを棍棒に流し込んでいけば段々と熱を持っていき、火の粉がチラチラと舞い上がり始めて。

 フルチャージになった。

 そのタイミングで駆け出せば、応じるかのように棍棒も陽炎のように揺らめき炎がほとばしるようになった。

 「!」

 よっぽど逃げることに意識がいっていたのか、デンデラはようやくこちらに気付いて振り向くけど。

 時すでに遅し。

 「コレで」

 終わりだと叩き込もうとした、瞬間。

 『はい、ストップ~』

 緊迫した空気に似合わない、間の抜けた声。

 感覚を研ぎ澄ませていたのが逆に仇となり意識が逸れたせいで、

 「ぐっ!!」

 棍棒はたちまち熱を失い、ただの紅い鉄棍棒になったそれはデンデラのこめかみを強打したものの。

 地面にふっ飛ばしただけで、撃破までには至れなかった。

 こんな時にフザけたことをするのは、1人しかいない。

 「何のつもりよっ、フール!」

 『ふぅ……黙って見ていたらこのザマ。“力を振るうなら見定めた後にしろ”と言ったばかりだというのに』

 「あとちょっとでヤツを仕留められたのに、邪魔したのはアンタの方でしょ!?」

 「やれやれ……家族を救うためとはいえ、その手段をいざ実行するとなるとせっかちかつ激情家になるのはお前の良くないクセだなぁ。まぁ良い、今回は特別に教えてやろう」

 “もう一度、周りをよく観てみろ”

 フールに苛立ちを覚えながら、渋々辺りを見渡す。

 「――あ」

 『ようやく気付いたか』

 皆までは言わなかったけど、フールが言わんとしていたことが解った気がした。

 ここはまだ、中庭だった。

 あのまま必殺技を出して、仮にデンデラを倒せたとしても。

 草木の多い中庭だと必殺技の名残で火の手が移り、たちまち燃え広がって家まで被害が及んでいたかもしれない。

 最悪、今どこかに隠れている父さんにまで危害が及んでいたかもしれない。

 『必殺技で一撃喰らわせ絶命させるだけが手段ではない、状況に応じて倒せ』

 悔しいけど、確かにフールの言う通りだった。

 でも、ごめんなさいは言わなかった。

 コイツ相手に言いたくないのもあるけど。

 今は言葉で示すよりもまず、行動で示す。

 「う、うぅ……」

 意識を取り戻し、よろめきながらゆっくりと起き上がるデンデラに向かって。

 棍棒を再び構える。

 今度は、必殺技を出すためのエネルギーは放出しないで。

 すると、電子音が響き渡った。

 何事かと思っていると、

 「何だ、どうした! 私は今……何だとっ!?」

 どこから取り出したのか、デンデラが通信機器を耳に当てて会話をし始めた。

 切羽詰まった様子から、やがてにんまりとした様子になっていき。

 通話を終えたと同時に、

「小娘っ! この勝負、一度預かる。次こそは貴様を殺すっ!!」

 待てと咄嗟に伸ばした手は虚しく空を掴んで、瞬く間にヤツは姿を消し去ってしまった。

 一体ヤツは、どうして姿を消し去ったんだろう。

 それに、あのニンマリとした笑み……

 完全に倒し切れなかったせいもあるのか、どうにもモヤついて。

 言い知れない不穏な予感が、胸の中でザワついた。

 あれこれ考えている内に変身が解けたようで、我に返った時には元のセーラー服に戻っていた。

 「……とりあえず、」

 家に引き返そっか。

 父さんの手当て、しなきゃいけないし。

 何より、父さんに聞きたいことあるし。

 今ここにはいない定介兄さんたちの安否がふと不安に過ぎったけど、気のせいだと無理矢理払った。



しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

月夜
2023.03.02 月夜

カケルさん、男の子だと思ってしまいました汗
一体お父様は何を知っているのか、先が気になりますね。

解除

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

鏡の女王は腹黒王子に愛される。

国樹田 樹
恋愛
昔々のお話です。 ある世界に、とても気の毒な女性が一人おりました。 けれどその女性は、その世界ではとても不幸な境遇にありました。 決められた人生を何度も歩み、何度も辛い時間を繰り返していたのです。 何千、何億もの時を過ごし、心の痛みを受け続ける気の毒な彼女。 けれどある日『誰か』は言いました。 「彼女を救いたい。彼女を解き放ち、そして僕の手で幸せにしたい」 この世界の片隅で口にされた切なる願い。 『彼』と『彼女』の行く末は―――

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。