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第1章 転生、変身、械傑フール!!
05:不穏な予感
しおりを挟む『何だ、気付かなかったのか?』
どこからか声が響く。
辺りを見回しても、声の主の姿は見当たらない。
だけど聞き覚えがある分、誰のものなのかはすぐに見当が付いた。
「隠れていないで出てきなさい、フール!」
『ふぅむ……仕方ない、今は少し気分が良いから出て来てやろう』
そう言うと、私の身体から砂色の靄みたいなものが浮かび上がってきて。
やがて段々と声の主、もといフールが姿を現した。
『やぁ、さっきぶり』
「“さっきぶり”、じゃないわよっ! どういうことなのコレ……て、あっ!」
フールに抗議している最中、その隙にデンデラが背を向けて逃げ出した。
『ほらほら。おしゃべりするのは構わないが、せっかく弱ってるというに敵を逃してしまうぞ?』
「わかってるわよ!」
もちろん後を追うつもりだけど、その前にと。
父さんの方を振り返って、
「私はヤツを追うから、身を隠せるところに隠れてて。出来る範囲で良いから」
「あ、あぁ……分かったっ!」
ここにいる戦闘員は全員倒しただろうから、救援が来ない限りは唐突に父さんを襲うことはまずあり得ないだろう。
あとは早急にデンデラさえ倒せれば完璧、ミッションコンプリートだ。
お互いに頷き合ってから、再びデンデラを追うべく駆け出す。
いろいろ思うところも、今すぐにでもフールに問い詰めたいこともたくさんあるけれど……
今は目の前の問題を解決するために、迷っているヒマはない!
追いかけながら前世の記憶をフル回転させていくと――
確かに械傑マーリンが主に使っていたのは“風を生み出し活用する”白銀の剣であったけど、話数を追うごとに武器も元素属性も変わっていったことを思い出す。
初期の頃によく使われていた白銀の剣は“風”、次に登場した鎖鎌は“水”、その次に登場した鉤爪は“土”。
そして最後に登場したのが、火を自在に操れる杖だ。
何の手違いか分からないけど、どうやら今私が持っているのはその杖みたいだ。
形云々はちょっと違うけど、色的にも棍棒という意味でも多分間違いない。
本来ならこの杖を手にするのは、物語の終盤頃のはずなんだけど……
いや、ぐだぐた考えるのは後回しだ。
今使えるものは何でも使わなきゃ。
そうこう考えている内に、デンデラの背後に追い付けた。
ここで一気にカタを付けよう。
得物自体が違うから、完璧に械傑マーリンみたいにはいかないかもしれないけど……
やらないよりはマシ!!
棍棒を構えながら、械傑マーリンがどうやって一撃必殺の技を出していたのかを思い出す。
確か……見た限りだと構えた得物に気を溜めていくようにして、フルチャージしたタイミングで駆け出して敵に一撃を与えていた。
どんな得物に変わっても、このやり方は変わらなかった。
ならばと。
意識を棍棒に、自分の血流に集中させた。
――ビンゴ。
デンデラに喰らわせた、血流が炎に変わっていく感覚。
それを棍棒に流し込んでいけば段々と熱を持っていき、火の粉がチラチラと舞い上がり始めて。
フルチャージになった。
そのタイミングで駆け出せば、応じるかのように棍棒も陽炎のように揺らめき炎がほとばしるようになった。
「!」
よっぽど逃げることに意識がいっていたのか、デンデラはようやくこちらに気付いて振り向くけど。
時すでに遅し。
「コレで」
終わりだと叩き込もうとした、瞬間。
『はい、ストップ~』
緊迫した空気に似合わない、間の抜けた声。
感覚を研ぎ澄ませていたのが逆に仇となり意識が逸れたせいで、
「ぐっ!!」
棍棒はたちまち熱を失い、ただの紅い鉄棍棒になったそれはデンデラのこめかみを強打したものの。
地面にふっ飛ばしただけで、撃破までには至れなかった。
こんな時にフザけたことをするのは、1人しかいない。
「何のつもりよっ、フール!」
『ふぅ……黙って見ていたらこのザマ。“力を振るうなら見定めた後にしろ”と言ったばかりだというのに』
「あとちょっとでヤツを仕留められたのに、邪魔したのはアンタの方でしょ!?」
「やれやれ……家族を救うためとはいえ、その手段をいざ実行するとなるとせっかちかつ激情家になるのはお前の良くないクセだなぁ。まぁ良い、今回は特別に教えてやろう」
“もう一度、周りをよく観てみろ”
フールに苛立ちを覚えながら、渋々辺りを見渡す。
「――あ」
『ようやく気付いたか』
皆までは言わなかったけど、フールが言わんとしていたことが解った気がした。
ここはまだ、中庭だった。
あのまま必殺技を出して、仮にデンデラを倒せたとしても。
草木の多い中庭だと必殺技の名残で火の手が移り、たちまち燃え広がって家まで被害が及んでいたかもしれない。
最悪、今どこかに隠れている父さんにまで危害が及んでいたかもしれない。
『必殺技で一撃喰らわせ絶命させるだけが手段ではない、状況に応じて倒せ』
悔しいけど、確かにフールの言う通りだった。
でも、ごめんなさいは言わなかった。
コイツ相手に言いたくないのもあるけど。
今は言葉で示すよりもまず、行動で示す。
「う、うぅ……」
意識を取り戻し、よろめきながらゆっくりと起き上がるデンデラに向かって。
棍棒を再び構える。
今度は、必殺技を出すためのエネルギーは放出しないで。
すると、電子音が響き渡った。
何事かと思っていると、
「何だ、どうした! 私は今……何だとっ!?」
どこから取り出したのか、デンデラが通信機器を耳に当てて会話をし始めた。
切羽詰まった様子から、やがてにんまりとした様子になっていき。
通話を終えたと同時に、
「小娘っ! この勝負、一度預かる。次こそは貴様を殺すっ!!」
待てと咄嗟に伸ばした手は虚しく空を掴んで、瞬く間にヤツは姿を消し去ってしまった。
一体ヤツは、どうして姿を消し去ったんだろう。
それに、あのニンマリとした笑み……
完全に倒し切れなかったせいもあるのか、どうにもモヤついて。
言い知れない不穏な予感が、胸の中でザワついた。
あれこれ考えている内に変身が解けたようで、我に返った時には元のセーラー服に戻っていた。
「……とりあえず、」
家に引き返そっか。
父さんの手当て、しなきゃいけないし。
何より、父さんに聞きたいことあるし。
今ここにはいない定介兄さんたちの安否がふと不安に過ぎったけど、気のせいだと無理矢理払った。
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