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第1章 転生、変身、械傑フール!!
01:かけるの秘密
しおりを挟む――本当に、この世界にヒーローがいてくれたらなぁ……
そう思いながら死んでいったのを、今でもハッキリと覚えている。
悲しきかな、前世の私は齢8歳で人生の幕を閉じざるを得なかった。
命絶つの、若すぎないかって?
前世の私の親……いや親とすら呼びたくもないが、敢えて言わせて貰おう。
借金・暴力・酒乱の三拍子を重ねに重ねた父親のせいで、呆気なく死にました。はい。
母親はというと、私を生んで間もない頃に蒸発。
父親の暴力に耐え兼ねたのか、あるいは生んでみて子供を育てるのがやっぱり嫌になったのか。いや知らんけど。
まぁ何はともあれ、置いてけぼりを食らわされた私は逃げた母親の代わりとも言わんばかりに愛ではなく拳の雨に打たれ続け育った。
愛の拳だったら良かったんですけどね(笑)
むしろよく8歳まで生きて来られたなと、自分の生命力と運の良さを褒めたいくらいだ。
更に言うなら、あんな家庭環境だったのによくここまで通報されなかったというか捕まらなかったな前世での遺伝子上の父親。
まぁネチネチとした暗い話は、そこまでにしといて。
ここからが本題。
前世での父親による過激な虐待のせいで幼くして死んでしまった私だけど。
驚くことなかれ、所謂“転生”を果たしてしまったらしい。
次目覚めた時には、喋れていた言葉はリセットされていて。
身体まで赤ちゃんにリセットされていたと気付くまで、ちょっと時間がかかった。
だけど、前世の私としてリセット――つまり時が逆行したわけじゃなかった。いやされても困るし、またあの猛毒家庭環境の日々を過ごさなきゃいけないなんてゴメン被りたい。
何かが変。
しかも赤ちゃんとなった私をあやしている人物は、前世の父親ではないけど……でも何処かで見覚えがあるようなと。
なかなか思い出せずにいると、男の子が1人ひょっこり顔を出した。
「ほら定介、今日からお前の妹になる子だ。抱っこしてみろ」
じょーすけ……じょうすけ……定介!?
その瞬間。失くしかけていた記憶がたちまちによみがえって、衝撃の余り心身共々赤ちゃんだった私は泣き出してしまった。
何も知らない2人は、定介の抱き方が下手だとゴネて泣き喚いたんじゃないかと慌てふためいたみたいだけど……実は違うんです、ゴメンなさい。
よみがえった記憶――それは私が生前、すごく熱中して観ていたアニメの記憶だった。
〘悪の秘密結社・BLACK COSMOによって父と共に殺された荒貝 定介は、瀕死の父の手によって改造手術を施され“械傑マーリン”となった。BLACK COSMOの悪逆非道な企みを防ぐべく、械傑マーリンは正義の魔法を以て立ち向かっていくのである!〙
――とまぁ、コレが観ていたアニメのテンプレあらすじ。
今時こんな紹介の仕方するアニメなんてないだろとか、そこツッコまないで。
何せ私が観たのはあくまで再放送。
実際に放送されていたのは、私が生まれる20年以上も前。
つまりは親世代のヒーローアニメなのだ。
あの遺伝子上の両親たちの世代だと考えると、いろいろ複雑どころかムカつくけど……それを飛び越えるほど、あのアニメは幼かった私の心を熱く揺さぶり突き刺した。
父を殺され、気が付いたら改造人間になっていて悪を倒さざるを得なくなった主人公。
更に降りかかる、愛する人の裏切りと死別。
孤独と哀しみを乗り越え、戦いを重ね強くなっていった主人公は、やがて宿敵の組織を束ねる総統との最終決戦を迎え――
最期、爆破した基地と共に消えた。
その主人公の名前こそ、械傑マーリンこと荒貝 定介。
赤ちゃんとしての私をあたふたと一生懸命あやしている男の子は、年相応に可愛らしくふくふくしているけど、確かにあの荒貝 定介の面影があった。
なら隣にいる男の人は――間違いなく、定介の父親にして彼を械傑マーリンにした張本人・荒貝博士こと荒貝 神太郎だった。
ただテレビで観た時よりも、白髪もシワも少なかった。
息子の定介同様、幾分か若く見える。
そこでようやく自分が転生した先が、まさかの『械傑マーリン』というアニメの世界(しかも本編開始から10年以上ほど前くらい)だということに気付き呆然とした。
いや、とっても嬉しいよ?
前世のことを思えば、大好きなヒーローの一家の家族入りなんて。
もう少し大きく成長してたら、多分大はしゃぎで飛び回っていただろう。
確かに荒貝博士はちょっと性格に難があって、男手1つで厳しく育てられた定介とも衝突が絶えなかったけど。
それでもお互い、親子の愛情はそれとなく伝わっていたようで。何やかんや心配したり尊敬したりしていた。
私からしてみたら、充分に羨ましい親子関係だった。
そんな2人の家族の一員になれるなんて。
舞い上がりかけたけど、1つ疑問が残った。
とりあえず、今世での私の情報。
“時尾 かける”という名前で、両親は既に他界。
今世での実父・時尾博士が荒貝博士の数少ない親友だったらしく、その縁で忘れ形見である私を引き取った――
らしいんだけど、はてアニメ本編で“時尾 かける”という登場人物なんていただろうか。
そもそも両親である時尾博士夫妻なんて、確かいなかったハズなんだけど……
最早『械傑マーリン』(予定)の世界にいる今、アニメ本編を観直す術はない。
私が“時尾 かける”として生を受けたのであれば、もう仕方ない。
生まれてしまったんだから。
だったら、やることは1つ。
きっとこれから起きるのは、恐らく『械傑マーリン』とさして変わらない未来。
つまり家族や愛する人を失い、孤独な闘いの末迎える道連れ爆発エンド。
それを回避することだ。
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