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12月23日 Side涼1

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「うん……うん………わかった………じゃあまた」

父親との通話を切り携帯の画面を見る。
何件かの不在着信の名前を心の中だけで呟いた。

未読のメッセージも溜まっている。でも、開けられずにいる。
開けてしまったら揺らぎそうな決意。未読のメッセージが溜まれば溜まるほど申し訳なさが募っていく。

みんなには何も言わずに学校に行かなくなった。

色々聞かれるのが面倒だったっていうのもあるし、別れが辛くなるっていうのもある。それに他の人に伝えてしまったら、凪沙にも伝わってしまうだろうから……

遠くから見ていた存在が、こんなに近い存在になれただけでも良かったじゃないか……良い思い出ができたと割り切ればいい……



高坂から凪沙が彼氏と別れて喫茶みづきでバイトをすると聞いて、何かのきっかけで“また“話すタイミングができると思った。

母親に頼まれて店番という名目ができた時、休憩室で凪沙と会えた。
そこから学校で話す機会もできて、自然な流れで凪沙を家まで送るという2人だけの時間も作れた。

凪沙は男の子と付き合うタイプの子だから、ただの友達になれるだけで良かった。

――頑張るだけ無駄だなんて私は思ってほしくない

凪沙からそんな言葉を聞いて、昔の苦い過去を思い出した私は少し困らせてやろうという気持ちから、お互いを恋に落とそうと提案した。

実際困った様子をしていたけど、凪沙は拒否をしてこなかった。凪沙にもう少し近づけるチャンスだと思った。

私の我儘に付き合ってくれて、お弁当まで作ってくれるようになって、凪沙のことを知っていくほど思いは強くなった。

少し天然だった。かなりの人タラシだった。優しかった。人一倍頑張り屋だった。あの瞳に見つめられるとドキドキした。冷え性な指先だった。頭を撫でると嬉しそうだった。抱きしめると凪沙の髪から良い匂いがした。笑うと可愛かった。

可能性がない相手を遠くから見ているだけだったのが、いつの間にか恋という気高い山から落ちていった。

私に振り向いて欲しかった。私を意識して欲しくなってしまった。

もしかしたら嫌われるかもしれないという不安もあったけど、強引に凪沙の唇を奪った。

ちょっと暴走してしまったところはあるけど、嫌われなかった、気持ちよかったと言われた時、もしかしたらと希望が生まれた。

誰にも凪沙を渡したくはなかった。だから全力で守ると龍皇子さんに誓ったのに……


私の過去が邪魔をする。


母さんにも私は幸せになってほしいと願っている。




片付けられた部屋を見る。元々荷物の少なかった部屋は更に殺風景になっている。
明後日は大きめのバック一つで出ていくつもりだ。

壁にはもう袖を通さない制服がかけられている。
あと一年と少し着る予定だった制服はまだ綺麗なままだ。

冬休みに入る前に父親と共にアメリカにいくことになった。日本での仕事が片付いたらしい。

自分の部屋から出る。

家には私の他に誰もいない。

『疲れたのよ。もう……最近さらに忙しくなってきちゃったし、ここまで大きくなるまで育てたんだから十分じゃない。私も好きに遊びたいわよ。でも、あなたがいると頑張って働かないといけないじゃない?ずっとやってきたんだからもう私も休もうと思うのよ子育て。解放されたいのよ』

何度も母さんの言葉を思い出す。

もう私のことは邪魔みたいだった。

胸が苦しくなる。辛い気持ちでぎゅっと心臓を掴まれた感覚だ。

足早に廊下に出て、玄関で靴を履く。
玄関の扉を乱暴に開けて外に出た。12月の冷たい風が今の私にはちょうど良く感じる。

ポケットに携帯と小銭だけ。

適当にぶらつこうかと軽装の格好だ。家に1人でいるのは辛かった。

マンションのフロアに出ると見たことのある人物が立っていた。


「りゅ、龍皇子さん………」
「お久しぶりです。悠木さん」

ゆっくりとお辞儀をしてくる龍皇子さんは顔は笑っているが、何か周りにドス黒いオーラがチラチラと見えていて、多分、私、死んじゃう

恐怖に全身に鳥肌が立つ。

「大丈夫ですよ?悠木さん」
「え?」

「すこーしお説教……いえ、お話しするだけですので」
「い、今、お説教って……」

「お話しするだけですよ?」

にこりと微笑んでいるが、全く目元が笑ってない。

そりゃそう。凪沙を守るって誓ったやつの誓いが裏切られた。

龍皇子さんが大切にしている幼馴染。慕っている幼馴染。の事だから私はただでは済まされないだろう。


何をされるのか恐怖を感じながら龍皇子さんに近づいていく。

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