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10月27日(7)

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今は使われていない誰もいない教室……カーテンは閉められ外の明るさがうっすらと漏れている。

授業で使われている教室と変わりない教室はほとんどの机と椅子が重ねられて教室の端っこに寄せられている。数台の机と数脚の椅子は誰か使ったのか教室の中央付近に並べられている。

1人になれる場所。
授業を受ける教室とはかなり離れていてお昼になっても人が少ない穴場。
特別教室が並ぶ1階の1番奥の教室。一年生の頃ちさきちゃんと2人で見つけた場所。

私は1人机に突っ伏していた。

午前の球技大会は終わって今はお昼休み、体育館に戻らなくても誰にも文句は言われないはず……

テーピングされ身動きできない左指。

冷やすやつもらってくればよかった。ズキズキする……でも、これは自業自得で私が隠して試合に出たから朝より指は腫れて悪化した。
試合にも勝てなくて、B組との試合も出来なくて、結局私たちのクラスは棄権。

練習に付き合ってくれたみんなに申し訳ない。
涼ちゃんと一緒にがんばろうって約束したのに申し訳ない。

私1人のせいで全部終わってしまって申し訳ない。

あとでみんなに謝らなきゃ……

でも、今は色々考えすぎて悲しくて辛くて顔も目も酷いからしばらくは1人でいたい……


机に突っ伏して涙が流れてジャージに染み込む。

長袖のジャージで良かった。

拭くものがないので袖で涙を拭う。


突っ伏したまま静かに涙を拭っていると突然扉が開く音がした。

最悪……普段誰も来ないのにこういう時に限って誰か来る。しかも鍵かけ忘れてるし、でもこの顔じゃ上を向けないから出ていくまでこのままでいるしかない。

早く出て行ってと心の中で念じているのに何故か足音が近づいてくる。

「良かった。ここにいたんだね。凪沙」


え!?この声………涼…ちゃん?


机に顔を伏せたまま驚く。こんな顔、涼ちゃんには余計見せられない……

「……何しにきたの?涼ちゃん」

顔を伏せたままくぐもった声で答える。

「何しにって酷いなぁ」
「……」

「……心配したんだよ?……怪我…したんだって?保健室に行ったら凪沙が走ってどこか行っちゃったって聞いて……」
「……なんでここがわかったの」

涼ちゃんが私の頭を優しく撫でてくる。汗をかいた後なのに指で髪を掬ように丁寧に撫でてくれてさっきまで泣いていたのが少し落ち着いた。

「えっとー……つい最近トイレ行こうと思ったらここに辿り着いちゃって?人が少ない場所だって知ったから……」
「何それ」

高校2年生にもなってトイレの場所を間違えることはまずないのに、クスクスと笑いが込み上げてきた。
優しく撫でてくれていた手が止まる。


「凪沙、顔上げて?」
「ヤダ」
「顔上げてよ」
「イヤだ」
「もぉ~顔上げて!」
「ヤダァ!!」

涼ちゃんが私の頭を掴んで上を向かせた。さっきまで優しく撫でてくれてたのにヒドイ!!

「ほら、泣いてる」
「だからいやだって……ズビ」

優しい笑顔を私に向けながら手に持っていたタオルで顔を拭われる。

「凪沙の可愛い顔が台無し」
「う~~」

クスクス笑いながら優しくタオルで拭いていく。

「……涼ちゃん……ごめんね“」
「いいよ。タオル多めに持ってきてるし」
「……違くて、私のせい…でB組との試合も出来なくなって……涼ちゃんと一緒にがんばるって約束したのに……ズズ…」

涼ちゃんがタオルで私の顔を拭く手を止めて、それこそ女神が微笑むような優しい微笑みをした。
私も人がそんな風に微笑むのを初めてみてジッと涼ちゃんから目が離せなかった。

「それこそ全然だよ。凪沙はすごく頑張ってたよ。練習も試合も……怪我してたのに無理してまで試合してたんでしょ?」
「……」

また目の前が潤む。眉が歪む。そっと涼ちゃんが目にタオルを押し付けた。
左手に何か当てられる。左手が急に冷たくなってビクッとした。

「アイスノンもらって来たから……痛いでしょ?痛み少しは治ると思う」
「ありがとう……」

左手がひんやりして痛みが鈍くなっていく。気持ちいい……
今の私が欲しかった物を適格に持ってくるなんて、気遣いが完璧でモテる理由もわかる。

「そしてこれは勝手に持ってきちゃったんだけど……」

コトッと机に何か置かれた音がした。
タオルで塞がれていた視界が開けた。

「凪沙の机に置いてあったお弁当。勝手に持ってきちゃった」

いたずらっ子のようにニコッと涼ちゃんは笑った。

気づけば確かにお腹は空いていた。どんなに辛くて落ち込んでいても朝から体を動かしていたし、自然とお腹は空いていたらしい。

「ありがとう…涼ちゃん」
「凪沙のお弁当楽しみにしてたからね」

そうだった。今は涼ちゃんの分のお弁当を作ってきてるんだから、私がお弁当を渡さないと涼ちゃんはお昼ご飯なくなってしまうんだった。

「ご、ごめんね。お腹すいたよね?」
「うん。めっちゃお腹すいたー」

私が座っている隣の席に座って涼ちゃんはぐったりと両手を伸ばして机に倒れ込んだ。
急いでお弁当を取り出そうと袋を開けようとすると、涼ちゃんが隣からお弁当袋を取り上げる。

「手、怪我してるんだから私がやるよ」
「あ、ありがとう」
「お弁当食べられる?あーんして食べさせてあげようか?」

前は涼ちゃんに私から食べさせたことはあっても、私があーんさせられることはなかったが……

「怪我してるの左手だからお弁当くらい食べられるよ!?!?」

「ちぇ、残念」

口を尖らせならが、いそいそとお弁当を取り出し蓋を開けて私の前にお弁当を置いてくれる。

私たちは「いただきます」を言ってから、お弁当を食べ始めた。

さっきまで気持ちが落ち込んで辛くて痛い気分でいたのに左手の指と同じように痛みが少し和らいだ。涼ちゃんは私の傷を少し癒してくれる人みたいだった。
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