32 / 45
第三十二話 協力者
しおりを挟む清歌は悶々としていた。
お祈り地蔵との再開から時間が経過し、お盆を越えて8月の下旬を迎えていた。
悶々としている理由は明確で、お祈り地蔵に大見えきったはいいが、肝心の行動が伴っていないのだ。
簡単に言えば方法が見つかっていない。
代わりの人間を差し出す以外の方法が見つからない。
しかしそれは当然のことだ。
相手は神なのだから。
しかし悶々としているところに一通のメールが届いた。
メールの差出人は義人だった。
文面を見るに、明日の花火大会に参加しないかというお誘いだった。
「めずらしいな」
今月の上旬に行われた練習試合から、義人は部活に正式に復帰していた。
あんなに頑なだったのに、人間とはわからないものだ。
そんなこんなで、義人は部活に忙しくあれ以来ほとんど遊んでいない。
だからこそ花火大会のお誘いは不思議に思えた。
「誰が参加するんだ?」
参加者をメールで尋ねると、すぐさま返信が来た。
メールを開いてそこに書かれた名前に一瞬息が詰まった。
案の定というべきか、そこには加藤霧子の文字が……。
彼女の告白を受けた日、彼女の告白を断ったあの日から、一度も顔を合わせていない。
特に用事がないのもあるが、彼女の家の前を歩かないようにしていたりと意図的に出くわさないように動いていたのもある。
告白の結果に関しては双方合意というか、今までの関係を壊したくないという想いは共通で、そこは守られるはずだった。
しかしそんな双方の思いとは裏腹に、二人の関係は確実に変化していた。
壊れたとまではいわないが、壊れる一歩手前。
そんな彼女と、彼女のことが好きな義人に自分が混ざった花火大会。
気まずいなんてもんじゃない。
「なんで僕を誘った?」
普通に考えれば僕を誘うべきではない。
恋敵だとは知らないのかもしれないが、夏休み中の花火大会なんてデートにもってこいのイベントだ。
絶対に二人で行くべきだろう。
そう思い、メールを下にスクロールすると、義人が清歌を誘った理由が書かれていた。
ようするに、いきなり二人っきりが不安だからついてきてほしいということだった。
普段の強気な姿勢はどこへやら、初々しいったらない。
理由はわかったし、義人の応援という意味でも花火大会に参加すること自体は問題ない。
だが圧倒的に気まずいのだ。
霧子とはあれ以降、顔をあわせていない。
霧子からも接触がないところをみるに、霧子側も清歌とどう接すればいいのかわからないのだろう。
一体どうしたものだろうか?
義人に霧子から告白されて断ったことを告げるべきだろうか?
それとも黙って参加する?
清歌の頭の中でいくつものプランが交錯する。
それにどのプランを選ぶにしても、霧子と口裏をあわせなくてはならない。
どうしたものか?
もうそろそろお昼という頃合いで、一階から清歌を呼ぶ声が聞こえた。
「清歌! 霧子ちゃんが遊びに来たよ」
おばあちゃんの声で発せられた霧子の名前。
清歌は一瞬ビクッとして固まってしまった。
「わ、わかった! 今降りる!」
とりあえず怪しまれないように返事を返し、清歌は立ち上がった。
「遅かったわね」
軽く着替えて階段を下りて玄関に向かうと、そこには霧子が腕組をして立っていた。
「これでも急いだほうなんだけどな」
清歌は照れくさそうに頭をかきながら言い訳をする。
霧子の顔を久しぶりに見た清歌は、少しだけホッとした。
いつもと変わらない霧子だ。
世間一般ではじゅうぶん美少女に分類される整った容姿、清歌を見る時に浮かべる優しい表情。
いつもと変わらない霧子がそこに立っていた。
「私をふっておいて、着替える必要もないでしょう?」
霧子からその話題に触れてきた。
てっきり触れないまま用件だけ済まして帰ると思っていた清歌は驚く。
「大きな声で言うなよ」
清歌はおばあちゃんに聞かれないかと肝を冷やしながら指摘する。
こんな話を聞かれでもしたら、おばあちゃんに死ぬまで突っつかれるに決まっているし、なんなら霧子の告白を断ったことについてまでとやかく言われるかもしれないのだ。
おばあちゃんの中で霧子の評価は異様に高い。
それは清歌が孤独だった時にかまってくれたという点も加味されているが、そうでなくても容姿端麗、料理ができて気遣いもできる霧子の評価が低いわけがなかった。
「大丈夫でしょ。それより部屋に上がっても良い?」
霧子は澄ました顔でたずねた。
部屋に上がってもいいか?
告白の件があったから余計に首を傾げる清歌だが、別に普段からも部屋に上がっていたわけではない。
霧子も一応異性としての一線はきっちり引いていたのだ。
「一体どういうつもりだ?」
清歌は小声でささやく。
まったくもって理解できない。
霧子の用件が想像できなかった。
普通、告白して断られた相手の部屋にあがろうとするか?
「いいでしょ別に。それともここであの日の再現でもしたほうがいいの?」
霧子はいたずらっぽい笑みを浮かべていたため、これが本気ではないことは明白だが、それでも清歌を慌てさせるにはじゅうぶんだった。
「わかった上がっていいよ。だから絶対喋るなよ」
「喋らないってば」
霧子はそう言ってサンダルを脱ぐ。
清歌は心のなかで深い溜め息をついて階段を登り始める。
「おばちゃんお邪魔しまーす!」
「ゆっくりしていきな」
霧子のあいさつにおばあちゃんは気の良い言葉を返す。
孫が彼女を連れてきたかのような感覚だ。
清歌は頭を抱えながら、霧子を自室に通した。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
〖完結〗インディアン・サマー -spring-
月波結
青春
大学生ハルの恋人は、一卵性双生児の母親同士から生まれた従兄弟のアキ、高校3年生。
ハルは悩み事があるけれど、大事な時期であり、年下でもあるアキに悩み事を相談できずにいる。
そんなある日、ハルは家を出て、街でカウンセラーのキョウジという男に助けられる。キョウジは神社の息子だが子供の頃の夢を叶えて今はカウンセラーをしている。
問題解決まで、彼の小さくて古いアパートにいてもいいというキョウジ。
信じてもいいのかな、と思いつつ、素直になれないハル。
放任主義を装うハルの母。
ハルの両親は離婚して、ハルは母親に引き取られた。なんだか馴染まない新しいマンションにいた日々。
心の中のもやもやが溜まる一方だったのだが、キョウジと過ごすうちに⋯⋯。
姉妹編に『インディアン・サマー -autumn-』があります。時系列的にはそちらが先ですが、spring単体でも楽しめると思います。よろしくお願いします。
鮫島さんは否定形で全肯定。
河津田 眞紀
青春
鮫島雷華(さめじまらいか)は、学年一の美少女だ。
しかし、男子生徒から距離を置かれている。
何故なら彼女は、「異性からの言葉を問答無用で否定してしまう呪い」にかかっているから。
高校一年の春、早くも同級生から距離を置かれる雷華と唯一会話できる男子生徒が一人。
他者からの言葉を全て肯定で返してしまう究極のイエスマン・温森海斗(ぬくもりかいと)であった。
海斗と雷華は、とある活動行事で同じグループになる。
雷華の親友・未空(みく)や、不登校気味な女子生徒・翠(すい)と共に発表に向けた準備を進める中で、海斗と雷華は肯定と否定を繰り返しながら徐々に距離を縮めていく。
そして、海斗は知る。雷華の呪いに隠された、驚愕の真実を――
全否定ヒロインと超絶イエスマン主人公が織りなす、不器用で切ない青春ラブストーリー。
はじまりのうた
岡智 みみか
青春
「大丈夫よ。私たちは永遠に、繰り返し再生するクローンなんだもの」
全てがシステム化され、AIによって管理されている社会。スクールと呼ばれる施設に通い、『成人』認定されるため、ヘラルドは仲間たちと共に、高い自律能力と倫理観、協調性を学ぶことを要求されていた。そこへ、地球への隕石衝突からの人類滅亡を逃れるため、252年前に作りだされた生命維持装置の残骸が流れ着く。入っていたのは、ルーシーと名付けられた少女だった。
人類が知能の高いスタンダード、人体再生能力の高いリジェネレイティブ、身体能力の優れたアスリート種の3種に進化した新しい世界の物語
イラスト部(仮)の雨宮さんはペンが持てない!~スキンシップ多めの美少女幽霊と部活を立ち上げる話~
川上とむ
青春
内川護は高校の空き教室で、元気な幽霊の少女と出会う。
その幽霊少女は雨宮と名乗り、自分の代わりにイラスト部を復活させてほしいと頼み込んでくる。
彼女の押しに負けた護は部員の勧誘をはじめるが、入部してくるのは霊感持ちのクラス委員長や、ゆるふわな先輩といった一風変わった女生徒たち。
その一方で、雨宮はことあるごとに護と行動をともにするようになり、二人の距離は自然と近づいていく。
――スキンシップ過多の幽霊さんとスクールライフ、ここに開幕!
氷の蝶は死神の花の夢をみる
河津田 眞紀
青春
刈磨汰一(かるまたいち)は、生まれながらの不運体質だ。
幼い頃から数々の不運に見舞われ、二週間前にも交通事故に遭ったばかり。
久しぶりに高校へ登校するも、野球ボールが顔面に直撃し昏倒。生死の境を彷徨う。
そんな彼の前に「神」を名乗る怪しいチャラ男が現れ、命を助ける条件としてこんな依頼を突きつけてきた。
「その"厄"を引き寄せる体質を使って、神さまのたまごである"彩岐蝶梨"を護ってくれないか?」
彩岐蝶梨(さいきちより)。
それは、汰一が密かに想いを寄せる少女の名だった。
不運で目立たない汰一と、クール美少女で人気者な蝶梨。
まるで接点のない二人だったが、保健室でのやり取りを機に関係を持ち始める。
一緒に花壇の手入れをしたり、漫画を読んだり、勉強をしたり……
放課後の逢瀬を重ねる度に見えてくる、蝶梨の隙だらけな素顔。
その可愛さに悶えながら、汰一は想いをさらに強めるが……彼はまだ知らない。
完璧美少女な蝶梨に、本人も無自覚な"危険すぎる願望"があることを……
蝶梨に迫る、この世ならざる敵との戦い。
そして、次第に暴走し始める彼女の変態性。
その可愛すぎる変態フェイスを独占するため、汰一は神の力を駆使し、今日も闇を狩る。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる