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ドMの魂百まで

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 そう言って指を指されたリリスは、目を見開いた。
 
「何を言ってるんですか? 罪人は、エリザベート様ですよね? だって、シュナイパー様はリリのために護衛もつけてくれたし、奪われちゃったけどドレスだって用意してくれてた。何より、リリを一人占めしようとしてたじゃないですか!」
 
 悲鳴のような声で叫ぶリリスをシュナイパーは捕らえさせた。
 
「何を勘違いしている? 護衛ではなく、執行猶予中の見張りだろ? それに、このドレスははじめからエリザベートのために作らせた。お前なんかのためじゃない。何より、嫌悪しか感じない相手を一人占めしたいなんてやつがどこにいるんだ? 私が愛しているのはエリザベートだけだ」
 
 嘘だ! と叫ぶリリスをシュナイパーはそのまま連行させた。リリスは間違いなく裁かれるだろう。それも、自身が求めたシュナイパーの手で。
 

「エリザベート、手当てに行こう」
 
 リリスがいなくなるや否や、シュナイパーは私をエスコートした。
 いや、これはエスコートという名の連行だ。ビックリするほど、体の主導権を握られている。歩こうとしてないのに次々と歩を進めてしまうとか、どうなっているの?
 
 休憩用の個室で、何故かシュナイパーが手当てをしてくれる。王子なのに、手際がいい。
 
「守るとか言って、守れなかった。すまない」
「いいえ。悪いのはすべてリリス様ですから。シュナイパー様は謝らないでください」
 
 あぁ、この前もこんなやりとりをしたな。リリスが関わると本当にろくなことにならない。
 
「いや。こんな私なんて、エリザベートに見放されても当然だ。言ったことも守れないなんて最低でしかない」
「見放すだなんて。きちんと守ってくれたじゃないですか」
「なら、このまま私と共に生きてくれるか?」
「……え?」
「やはり、私なんか頭にうじがわいてるゴミ糞以下の存在なんだ」
「そんなことないですよ! シュナイパー様は素敵です!!」
「本当に?」
「本当に!」
 
 あれ? なんか、誘導されてる?
 なんて、気が付いた時には既に手遅れで──。
 
「良かった。私と共に生きてくれるんだな」
 
 というシュナイパーの満面の笑みがあった。
 ……もう乙女ゲームも終わる。いい加減、覚悟を決めよう。
 
「よし、これでいい。傷にならないと良いのだが……」
「大丈夫ですよ。万が一、傷になっても嫁の貰い手は決まってますから。まさか、腕に傷があるから婚約破棄なんてことは──」
「するわけないだろ!」

 慌てるシュナイパーがおかしくて笑ってしまう。

 こんなやり取りをする日々も悪くないと思っている自分に気付き、何かがストンと心のなかに落ちた。
 シュナイパーとの結婚も悪くない。素直にそう思える。

「さぁ、パーティーに戻ろう。サプライズがあるんだ」

 このサプライズが『私の卒業と共にシュナイパーと私が結婚すること』を発表することだと知らない私は、サプライズに胸を踊らせて会場へと戻ったのだった。
 


 それから、二年が経った。リリスは国外追放され、二度と会うことはないだろう。

「ねぇ、シュナイパー。あの時はよくもハメてくれたわね」
「エリザベートを囲うのに必死だったんだ。悪かったよ」 
 
 そう言いながら、シュナイパーは私の瞼に口づけを落とす。今ではこの距離感が平常運転だ。
 
「あんなことしなくたって、ちゃんとシュナイパーのこと好きになってたわよ」
「えっ……」
「あら、聞いてらっしゃらなかったの? どんくさいわね」
 
 恥ずかしくって、つい罵れば、シュナイパーはハァハァしている。やはりMっ気はあるんじゃないか……その疑いは最近深まるばかりだ。
 それでも私をギューギューと抱き締めてくるシュナイパーをかわいいと思えるのだから、私もずいぶんとシュナイパーを好きになってしまったらしい。
 抱き締め返すと、ピクリと反応して未だに赤くなる耳が愛しい。
 
「シュナイパー、ずっと一緒に生きていこうね」
 
 やっと二年前の返事をすれば、私を囲む手が震えた。

「泣かないでよ」
「それは無理。そういうエリザベートだって泣いてるだろ」
「幸せで泣いてるんだからいいのよ」
「それなら私も同じだ」

 互いの涙を指で拭い、笑いあう。

 悪役令嬢だから、幸せになれるなんて思ってなかった。けれど、今の私は幸せで隣には絶対に好きにならないと思っていたシュナイパーがいる。

 もしかしたら、シュナイパーに出会うために転生したのかな? なんて、柄にもないことを思いながら、愛しい人の頬に唇を落とした。



 後日、「また以前のように罵ってくれないか」とハァハァしながら懇願され、思わず平手打ちをしたら興奮されることになるとは、この時の私は思ってもいないのだった。



──end──
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