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乙女ゲームスタートしたら、ドMも改善……

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 入学してみれば、そこには私の知らないシュナイパーがいた。爽やかなのだ。ドM野郎なんてどこにもいなかった。

「エリザベート、入学おめでとう」
「あ、ありがとうございます」

 私の好きなネモフィラが入った花束に、思わず口角が上がってしまいそうなのをこらえ、無表情で礼を口にする。

「あなたに学園内を案内するという栄誉を与えてくれないだろうか」

 ひざまずいて、私の手を取る王子風なこの男は誰だ? いや、シュナイパーは元々王子なんだけども別人過ぎやしないか?
 などと混乱をしている間に、気がつけば学園内をエスコートされていた。

「シュナイパー様の皮を被った別人ですの?」

 こう聞いてしまったのも仕方のないことだろう。私の知っているシュナイパーは、常にハァハァして私に蔑まれたがっていた。
 なのに、目の前の彼は紳士的なのだ。

 まさか、これがゲーム補正というやつなのだろうか。
 良かった! これで解放される!! 死亡ENDが嫌だから断罪されないようにしようと思ったけど、このまま悪役令嬢になろう。
 そして、断罪される前に逃亡しよう。私ならできる。……でも、毒を盛るのはまずいよね。となると、睡眠薬か下剤? 下剤の方が危機感でそう? でも、粗相してしまったら可哀想か。睡眠薬で半日くらい眠ってもらおう。
 量の調整は、私で試せばいいかな。


「エリザベート、少し会わない間に一段とキレイになったね」
「……は?」
「あなたに釣り合う男になれるまで会わないと決めて、学園に入ってからの二年間、我慢していたんだ」
「……え? 何を言って……」
「エリザベートが卒業したら、すぐにでも結婚しよう」

 ど、どういうこと? もしかして、ヒロインちゃんはシュナイパールートを選ばなかったの? 例えそうだとしても、ゲーム補正で私のことを嫌ってくれてもいいんじゃないかな!?

「……婚約破棄をしてもらえたりとかは?」

 私の言葉にシュナイパーは、にこりと笑みを浮かべるが、答えはない。

「昔、エリザベートの大切な黒豆を的にして本当に申し訳なかった。あなたの気を引きたかったんだ」
「そのことは怒ってますけど、婚約破棄をしたい理由はそれだけではなくて……」
「一緒に住んだら猫をたくさん飼おう。実は、私も猫を飼い始めたんだ」

 な、なんですと? 猫ちゃんをたくさん!? シュナイパーが猫を!?

「シュナイパー様の猫ちゃんって、どんな猫ちゃんなんですか?」
「私の猫は真っ白な猫だ。瞳は青色をしている」

 真っ白な、青の瞳の猫ちゃんですと!! み、見たい!! 匂いを……顔を埋めて嗅ぎたい!!

「今度、遊びにくるかい?」
「いいんですか!!」

 しまった……、と思う頃には約束をしてしまっていた。
 それにしたって、おかしい。こんな知略を繰り広げてくるとは。しかも、ドMを出してこない。

「シュナイパー様、頭のうじを一掃なさるために脳ミソ全てを入れ替えられたんですの?」

 シュナイパーを試すためにわざと蔑めば、瞬時に彼は破願した。これは、もうひと押し……かな。

「あら、お答えになりませんの? やはり蛆がわきっぱなしなのかしら?」
「あぁ、エリザベート……」

 うっとりとした視線に、鳥肌が立った。ゲーム補正が入ったかと思ったが、どうやら本質は何も変わっていないらしい。
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