65 / 99
第2章 領地編1~新たな出会い~
第23話 心は瀕死状態になりました
しおりを挟むただ可愛いものが大好きなだけなのに、ひどい言われようだ。
オロチに心をバッキバキに折られた私は、もうやる気ゼロだ。心は瀕死状態である。
私はふらふらとジンの正面に立つと、ジンの左肩におでこを乗せた。
「ジン。帰りはおんぶしてって……」
無理なのは分かっているが、ジンにお願いしてみる。ちょっと無茶を言いたいくらいのダメージだったのだ。何度も言うが心は瀕死なのだよ。
あぁ、つらい。言葉の暴力だ。よし、肩に頭をぐりぐりしちゃおう。うん。
「いてででででで……」
ジンは私の両肩を押して、私の頭を離す。そして、何とも形容しがたい視線を向けながら、ぎゅっと抱きしめてくれた。まるで、あやすかのように背中を撫でられる。
「アリア、痛いからやめような」
「うん。でもね、私も心が痛い」
そう答えれば、ジンは小さくため息をついた。
「領までは無理だぞ」
とんとん、と背中を軽く叩いたあと、目の前でジンはしゃがんだ。これは、私をおんぶしてくれるということだろうか。
「いいの?」
「して欲しいんだろ?」
当たり前のようにそう返されて、私は小さく頷いた。
私の方が中身は圧倒的年上なのに、何でだろう……ジンにはすごく甘えたくなる。
「ありがとう」
そう言いながらジンの背中に体を預ければ、「よいしょっ」と言いながらジンは立ち上がった。
「じじくさい」
「うるせー。そんなこと言ってると下ろすぞ」
「やだ。ごめん」
ジンはくつくつと笑いながら「しょーがねーなー」と言う。あぁ、なんて甘い。どろりと溶けてしまいそうだ。
ジンと付き合える子は幸せなんだろうな。うらやましい。オロチがジンに婚約者はいないって言ってたけど、付き合ってる子はいるのかな。好きな子とか……。
まだ見ぬその子を想像して泣きたくなった。
私じゃダメなんだろうか。あぁ、でも私は相応しくない。細やかな気遣いもできなくて、中身は年上なのに甘えてしまう。さっきだってジンを膝から落としちゃった。
それに、好きな男の子をおんぶしてダッシュとか……。色気の『い』の字もなければ、良い雰囲気になるわけもない。
「オロチ、私の良いところってどこだと思う?」
ジンに聞く勇気なんてなくて、隣を歩いていたオロチへと聞いてみる。
『魔力が多いところだな』
「魔力……」
まさかの魔力の多さとか……。それは生まれつきのやつだ。褒めてくれてるのだろうけど、真っ先に出てくるのがそれとか微妙に……いや、そこそこ凹む。
あぁ。むしろ魔力くらいしか取り柄がないのかもしれない。そんな思考に囚われた時──。
「アリアは無鉄砲だし危なっかしいけど、まっすぐで優しいところに皆が惹かれるんだと思う。まぁ、貴族らしくはないけどな」
「……それって、ジンも?」
言うつもりなんてなかったのに溢れた言葉。答えを聞きたくないのに、聞きたいだなんてどうかしてる。
「いやっ。今のは……その…………」
顔がカーッと熱くなって、心臓が今度こそ肋骨を突き破って、こんにちはするんじゃないかってくらいにドキドキしてる。
そんな私の気持ちなんて知らないのだろう。ジンはのどを振るわせて笑う。
「俺だってそのうちの一人だよ。当然だろ? アリアはフォクス領の英雄だ」
「あぁ、なんだ。そういうこと……」
拍子抜けするような答えにがっかりしてしまう。だけど、これではっきり分かった。きっと私は恋愛対象として見られていないんだと。
確かにジンの前では食い意地はってたし、軽々おんぶして馬よりも速く走ったし、その他もやらかした気がする……。
「どうせ私は女の子らしくないもん」
拗ねたような声が出た。
その言葉の身勝手さに、勝手に絶望する。折角、褒めてくれたのに最悪だ。時を戻す魔術があれば、今すぐ戻したい。
10
お気に入りに追加
1,160
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?
ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定
光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
侯爵令嬢の置き土産
ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。
「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。
【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう
蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。
王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。
味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。
しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。
「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」
あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。
ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。
だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!!
私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です!
さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ!
って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!?
※本作は小説家になろうにも掲載しています
二部更新開始しました。不定期更新です
婚約破棄をいたしましょう。
見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。
しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな
朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。
!逆転チートな婚約破棄劇場!
!王宮、そして誰も居なくなった!
!国が滅んだ?私のせい?しらんがな!
18話で完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる