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第2章 領地編1~新たな出会い~

第23話 心は瀕死状態になりました

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 ただ可愛いものが大好きなだけなのに、ひどい言われようだ。
 オロチに心をバッキバキに折られた私は、もうやる気ゼロだ。心は瀕死状態である。

 私はふらふらとジンの正面に立つと、ジンの左肩におでこを乗せた。

「ジン。帰りはおんぶしてって……」

 無理なのは分かっているが、ジンにお願いしてみる。ちょっと無茶を言いたいくらいのダメージだったのだ。何度も言うが心は瀕死なのだよ。
 あぁ、つらい。言葉の暴力だ。よし、肩に頭をぐりぐりしちゃおう。うん。

「いてででででで……」

 ジンは私の両肩を押して、私の頭を離す。そして、何とも形容しがたい視線を向けながら、ぎゅっと抱きしめてくれた。まるで、あやすかのように背中を撫でられる。

「アリア、痛いからやめような」
「うん。でもね、私も心が痛い」

 そう答えれば、ジンは小さくため息をついた。

「領までは無理だぞ」

 とんとん、と背中を軽く叩いたあと、目の前でジンはしゃがんだ。これは、私をおんぶしてくれるということだろうか。

「いいの?」
「して欲しいんだろ?」

 当たり前のようにそう返されて、私は小さく頷いた。
 私の方が中身は圧倒的年上なのに、何でだろう……ジンにはすごく甘えたくなる。

「ありがとう」

 そう言いながらジンの背中に体を預ければ、「よいしょっ」と言いながらジンは立ち上がった。

「じじくさい」
「うるせー。そんなこと言ってると下ろすぞ」
「やだ。ごめん」

 ジンはくつくつと笑いながら「しょーがねーなー」と言う。あぁ、なんて甘い。どろりと溶けてしまいそうだ。
 ジンと付き合える子は幸せなんだろうな。うらやましい。オロチがジンに婚約者はいないって言ってたけど、付き合ってる子はいるのかな。好きな子とか……。

 まだ見ぬその子を想像して泣きたくなった。
 私じゃダメなんだろうか。あぁ、でも私は相応しくない。細やかな気遣いもできなくて、中身は年上なのに甘えてしまう。さっきだってジンを膝から落としちゃった。
 それに、好きな男の子をおんぶしてダッシュとか……。色気の『い』の字もなければ、良い雰囲気になるわけもない。


「オロチ、私の良いところってどこだと思う?」

 ジンに聞く勇気なんてなくて、隣を歩いていたオロチへと聞いてみる。

『魔力が多いところだな』
「魔力……」

 まさかの魔力の多さとか……。それは生まれつきのやつだ。褒めてくれてるのだろうけど、真っ先に出てくるのがそれとか微妙に……いや、そこそこ凹む。
 あぁ。むしろ魔力くらいしか取り柄がないのかもしれない。そんな思考に囚われた時──。

「アリアは無鉄砲だし危なっかしいけど、まっすぐで優しいところに皆が惹かれるんだと思う。まぁ、貴族らしくはないけどな」
「……それって、ジンも?」

 言うつもりなんてなかったのに溢れた言葉。答えを聞きたくないのに、聞きたいだなんてどうかしてる。

「いやっ。今のは……その…………」

 顔がカーッと熱くなって、心臓が今度こそ肋骨ろっこつを突き破って、こんにちはするんじゃないかってくらいにドキドキしてる。
 そんな私の気持ちなんて知らないのだろう。ジンはのどを振るわせて笑う。

「俺だってそのうちの一人だよ。当然だろ? アリアはフォクス領うちの領の英雄だ」
「あぁ、なんだ。そういうこと……」

 拍子抜けするような答えにがっかりしてしまう。だけど、これではっきり分かった。きっと私は恋愛対象として見られていないんだと。
 確かにジンの前では食い意地はってたし、軽々おんぶして馬よりも速く走ったし、その他もやらかした気がする……。

「どうせ私は女の子らしくないもん」

 拗ねたような声が出た。
 その言葉の身勝手さに、勝手に絶望する。折角、褒めてくれたのに最悪だ。時を戻す魔術があれば、今すぐ戻したい。


 
 
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