64 / 99
第2章 領地編1~新たな出会い~
第22話 肋骨から飛び出そうだよ
しおりを挟む結界から出たので足を止め、ジンを降ろす。すると、ジンは地面に倒れこんだ。
「大丈夫?」
そう聞いても、手をパタパタと振るだけで言葉はない。これは、乗り物酔いみたいなものだろか。
とりあえず、地面に倒れてるのは良くない……と思うんだよね。
よいしょ、とジンの横に膝をつき、頭を私の太ももに乗せた。世にいう膝枕というやつだ。
「大丈夫? お水とか持ってこようか?」
ここまで手ぶらで来ちゃったし、戻って取ってこようかな。片道15分。往復30分かかるけど、一人にしても大丈夫かな……。
そっとジンの前髪をあげ、おでこを触る。ジンは気持ち良さそうに少しだけ表情をゆるめた。
「ごめん。少し休めば平気だから」
いつもより少し掠れた声でジンは言う。
なんだろう。こんなことを思ってる場合じゃないのは分かってるんだけど、ドキドキする。
あぁ、膝枕したのは間違いだった。心臓が出そう。肋骨を突き破って飛び出そうだよ。
「アリアの手、気持ちいいな……」
ジンのおでこに乗せっぱなしだった私の手に、ジンの手が重なる。それを脳が理解した瞬間、多分心臓は肋骨を突き抜けたと思う。
「ふめあぁぁぁぁぁぁぁ!」
ゴッッッ!!
私の叫びと鈍い音が重なった。ハッとして見れば、私が急に立ち上がったことでジンが再び地面へと転がっている。
「ジンっっっ!!」
殺ってしまった……。じゃなくて、やってしまった。追い討ちをかけるとは正にこのこと。
「どうしたら……。あっ! 回復!! 回復だ!! その手があったじゃん。ジン、すぐに治すからね。ごめんね」
慌てて、ジンに治癒力爆上げの魔術をかける。すると、ジンはゆっくりと体を起こした。
「ジン、ごめんね。大丈夫……じゃないよね。私が急に立つから……」
「いや、俺が悪い。急に手を触ってごめんな。驚かせたよな」
「ううん。違うよ。ただ私が──」
『悪いが、われを先に戻してくれないか』
私の右肩に乗ったオロチがどこか申し訳なさそうに私へと声をかけた。そのことで、にょろりとミミズのように小さくなってしまったオロチのことを思い出す。
そういえば、オロチを元に戻すために結界の外まで来たんだった。
「ごっごめん。忘れてた。すぐに魔力を補充しよう」
私がそう言うや否やオロチは地面へと降りていき、体をくねくねとさせた。まるで準備万端だと言わんばかりに。
「よしっ! 行くよー」
少しずつオロチに魔力を流すと、オロチは徐々に大きく黒くなっていく。
だが、ふとあることが気になり魔力を流すのを中断した。
「ねぇ、今のまま人の姿になるとどうなるの?」
その質問に答えるようにオロチは人の姿へと変わる。もちろんラッキースケベ的展開もない。だが、そこにはラッキースケベよりも悩殺的な褐色の男の子がいた。
「ぎゃんわいぃぃぃぃぃぃ!!」
黒い長髪を低く後ろで結び、赤い瞳は爬虫類のためか瞳孔が縦に細長いのは変わらない。けれど幼さ特有の肉付きのよくなった頬に、丸くなった瞳、ぷにぷにそうな手。4~5歳くらいの見た目の男の子になったオロチに鼻血が出そうだ。出なかったことを褒めて欲しいくらいだ。
「ねぇ、その姿のままでいない? いいよね? いいでしょ?」
鼻息が荒い? 仕方ないと思って欲しい。最凶に可愛いんだもん。もう、この可愛さは凶器だよ。それなのに──。
『アリアが気持ち悪いから嫌だ。幼児サイズのままならずっと魔物の見た目から変わらぬ』
なんてオロチが言うものだから泣く泣くイケメンサイズまで魔力を注ぎましたとも。オロチにショタと罵られながら。
くそぅ。ショタなんて言葉をオロチの前で使わなきゃ良かった。心的ダメージが大き過ぎる……。
0
お気に入りに追加
1,164
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
婚約破棄は踊り続ける
お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。
「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
悪役令嬢の居場所。
葉叶
恋愛
私だけの居場所。
他の誰かの代わりとかじゃなく
私だけの場所
私はそんな居場所が欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。
※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。
※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。
※完結しました!番外編執筆中です。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる