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第1章 王都編

第12話 お手紙のお返事は

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 お茶会に参加することが決まれば、早く招待状の返事を書かなければならない。
 お父様とセバスが何かを話し合っている脇で、お母様とミーアに相談しながら返事を書いていく。

 因みにノアはメモルにお菓子をもらって休憩中。クッキーにかじりつくノアはスペシャルに可愛い。何でこの世界には写真がないのか……。悔やまれる。
 
 
「これじゃあ、素っ気なさ過ぎませんか?」
 
 完成した手紙を見て、私は首をひねる。
 
 
『レオナルド・シュテルンビルトさま
 
 おてがみありがとうございました。
 おへんじがおそくなってごめんなさい。
 
 たいちょうもすっかりよくなりました。
 
 おちゃかいには、さんかさせていただきます。よろしくおねがいします。
 
 アリア・スコルピウス』
 
 
 私のために開いてくれるらしいお茶会への参加にしては、愛想のかけらも感じられない。気に入られないようにする、という意味では正しいのだろう。だけど、相手の良心を踏みにじるようで気が重いのも事実だ。
 
「アリアちゃんの気持ちも分かるけれど、親しくならないためには仕方がないわよ」
 
 そう言ってくれるお母様にも申し訳なさがつのる。
 
 
 そう、今回のお茶会は私が誕生日会ができなくて落ち込んでいるだろう、と王妃様が計画してくれたものだ。
 
 なぜこうなったかというと、私が熱を出していた日にさかのぼる。 
 
 前世を思い出した私はあまりの衝撃で寝込んでしまっていて、その日もお父様がお城で仕事があったのだ。だが、「アリアが寝込んでるのに城なんか行ってられるか!!」と仕事を休んでしまったらしい。
 
  お母様や使用人たちがいるのだから、熱のある娘を一人置いて仕事に行くわけじゃない。私の面倒を見てくれる人はたくさんいた。それなのに、いい年した大人が娘の熱を理由に仕事を休んだと聞いたとき、それはもう何とも言えない脱力感に見舞われた。
 嬉しいけれど、駄目な大人だと思ったものだ。
 
  公爵として大丈夫なのかとも心配したが、我が家の優秀な執事セバスが見事にお父様の代わりを勤めて来たそうだ。それでいいのか……とは思うが、そこは私の口出しするところではないだろう。 
 
 その際に私が寝込んでいると知った王妃様。 すぐにお母様へ私の体調を気遣った手紙をくださった。
  もともと王妃様はお母様と学生時代からのご友人で、結婚してからはなかなか会えないものの手紙のやり取りをしていたそう。
 
  私とノアの人生、詰んだ……とも思ったが、仲が良いからこそ身分の垣根を越えて断れるかもしれない! と気持ちを切り替えた。現にお母様は婚約者候補の辞退に動こうとしてくれているし。
 
  それで、もともと仲良しの王妃様が友人の娘がお誕生日会が延期になって可哀想だから、と私を励ますためにお茶会を開いて下さる運びとなったのだ。フットワークが軽すぎるとは思うが、レオナルドの婚約者候補である私を直接見てみたかったのではないかとも思っている。
 
  レオナルドが私に招待状を書いたのも、王妃様に憧れている私が(未来の婚約者になるかもしれない)王太子様から手紙が来たら喜ぶだろうという優しさと、良い関係が築けるようにという王妃様の提案なんじゃないかな。
 
 ただ、私はもう王妃様に憧れてはいないし、レオナルドの婚約者候補は願い下げだから困っているのだ。 優しさとちょっとの打算と好奇心によって開催が決まったと思われるお茶会。 
 問題を起こすのは本当に申し訳ないけれど、手紙くらい……と甘い考えがのぞいてしまう。
  
「アリアちゃん、私のことを心配してくれているのなら、気にしなくて大丈夫よ。こんなことで壊れるような安っぽい関係じゃないもの」
 
 そう言ったお母様は自信に溢れていた。今までの信頼関係が、自信に繋がっているのだろう。
 
 例えお茶会を欠席しても、私が婚約者候補を辞退しても、お母様と王妃様の関係は変わらないんだろうな。そんな関係が、うらやましいと思った。 
 
 
 
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