46 / 50
45話 武器が欲しい
しおりを挟む「穢れが大量に向かってきている。だが、寄生はしていない。恋、善、悪は、下がっていろ」
白樹が指示を出す。それは、すごく有難い。有難いのだが──。
「何で、白樹も見えてるの?」
「花の目のおかげだな」
「え? どういうこと?」
「説明は後だ。来るぞ!」
穢れへと視線を戻す。っていうか、多過ぎない? 清さん家の規模を遥かに越えている。目の前真っ暗事変、再びになるのだろうか。
……というか、この穢れを相手にどう戦えばいいの? 白樹は当然、刀だよね。みんなは見えないから、そもそも戦えない。
私の武器は? えっ? やっぱり素手なの? 私もやっぱり、武器が欲しいよー。
『弓矢がいいんじゃないかしら? 風で飛ばしてあげるわよ?』
『それがいいな。では、我が弓を作ろう』
『俺は……雹で矢じり代わりにするか』
風、木、空が、私の嘆きを拾って武器を作ってくれるらしい。
話しかけてなくても、心の声が聞こえていたみたい。恥ずかしすぎる。
『気にするな。契約とは、そんなもんだ!!』
『そんなもんって、アバウト過ぎません!?』
私の抗議など、何のその。契約してくれたみんなで力を合わせて、ものの数十秒で弓矢が完成した。
『ありがとう。ところで、弓矢で浄化ってできるの?』
『さぁ? 真理花が武器を欲しがってたから、作っただけよ』
『組紐をくくりつけるのは、どうだろうか?』
『やってみれば、分かることだ』
まぁ、確かにやってみれば分かることか。
「白、契約した子たちが弓を作ってくれたの。使ってみてもいい?」
「あぁ。良い契約をしたな」
良い契約か……。お願いをする前から動いたりと自由な感じだけど、白樹の言う通りだ。
「よし。風よ、お願いね!!」
へろりと放たれた矢は、風の力を借りてぐんぐん加速していく。
「わー! すごいっ!!」
『このくらい、当然よ!!』
どこか自慢げな声が微笑ましい。まぁ、今はそんなことを言っている場合ではないのだけど。
飛んだ矢は、穢れの中に入っていった。けれど、何も変わらない。
「だめだったかぁ……」
残念だけれど、仕方がない。武器については、どうやったら自分が使えるのか、お屋敷に帰ってからゆっくりと検証することにしよう。
「花、駄目じゃない」
「えっ!?」
白樹に言われ、目を凝らす。矢が淡く光っている。黒の中に埋もれた、白い光り。それは間違いなく、みんなの力で作ってもらった矢だ。
どうやら、少しは浄化してくれたらしい。そう思ったのも束の間……。
どごんっ!! という低い音が響いた。
「……今、変な音がしたよね?」
「殴り付けるみたいな音だったな」
どういうこと? そう思って穢れが飛んでくる空を見上げていれば、穢れが米粒のように小さくなって散り散りに飛んでいく。そして、その粒はまるで蒸発するかのように消えた。
『おぉっ! 派手でいいな』
『流石、真理花。これならば、すぐに浄化できるのではないか?』
『覚醒したからかしらね。浄化の威力が増し増しだわ』
ウキウキしている声がする。けれど、私は乾いた笑いしか出なかった。
「可能な限り、矢を放てるか? 近くに来なければ、俺は戦えない」
「えっ? あ、うん……」
弓は遠距離だけど、刀は至近距離だもんね。私たちが浄化しきれなかった穢れを、白樹が消してくれるのだろう。
一心不乱に、弓で矢を射る。木々と空は、ひたすら矢の生成をしてくれた。
どごんっ!! どがっ、どごどごどごっっ!!
音が変なのは、気にしない。気にしないったら、気にしない。
「花、おしまいだ」
そう声が掛かったのは、何本の矢を放ってからだろうか。へろへろとした矢しか放てなかったが、腕が重い。絶対に筋肉痛になるやつだ。
『みんな、ありがとう。弓の練習もしとくね』
『お安いご用よ。練習なんか、私たちがいるもの。しなくていいわよ』
『うむ。良い心掛けだな』
『お疲れ様。浄化できて良かったではないか』
本当に三者三様の返事。風、木、空は、個性に溢れている。何でも契約ができると白樹は言った。きっと、全てのものに性格があるのだろう。声が聞こえてなかっただけで。
「やっぱり、ファンタジーだわ」
「何がだ?」
「ん? 契約したみんながね、色んな性格をしているなって。話してみるまで、こんなにも聞こえない声が溢れてるなんて、知らなかったから」
そう言うと、白樹は納得したような顔をした。
「花には、聞こえるのだな。それだけ、契約したものに好かれているのだろう」
「契約すれば、誰でも聞こえるんじゃないの?」
「残念だが、違うな」
これも花嫁の力なのかな。思った以上にチートだわ。
「声が聞こえるのは、どれだけ好かれているかだ。花嫁だからではない」
「何で分かったの?」
「顔に書いてある」
くすりと笑った後、白樹は表情を曇らせ私の頬を撫でた。撫でた先にピリッとした痛みが走る。
「すまなかった」
「ううん。勝手についてきたからだよ」
白樹が撫でたのは、無為に爪を立てられた箇所だった。
「そもそも、ついてきたがる花を頑なに認めなかった。それが原因だ。一緒に来ていれば、今よりもつらい思いはしなかったかもしれない」
『たられば論など無意味だ』
バッサリと木が切り捨てる。その声は白樹には聞こえていない。
確かに木の言う通りだ。だけどね、そんな簡単に心は割りきれないから悩むんだよ。次は……って、未来をより良いものにしようとできるんだよ。
「そうだね。もしかしたら、つらい思いはしなかったかもしれない。でもね、もっとつらくて苦しかったかもしれない」
そんなこと、白樹だって分かっている。それでも私は伝える。
「現実は変えられない。どんなにつらくても」
そう。どんなにつらくても、変えられないのだ。償いたくても、その相手がこの世にいなければ、それもできない。
「でもね、白が私を守ろうとしてくれるから、私は強くなりたいと願うんだよ。それはずっと、変わらない。白が私を強くしてくれる」
支え合いたい。後ろではなく、隣を歩いていきたい。そう願うんだよ。
0
お気に入りに追加
373
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる