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第5章 お茶会への招待状
第58話 その冗談は笑えない
しおりを挟むリリアンヌへの嫌がらせも落ち着きを見せ、学園で過ごす最終学年を向かえた。そんなイザベルにはある悩みがある。
「婚約解消ってどうやったらできるのかしら……」
恒例になったオカメお茶会でイザベルが呟いた言葉にリリアンヌは固まった。
(えっ? 本当に婚約解消するつもりだったの? もう外堀埋まってるじゃん。……冗談だよね? ネタだよね?)
「ベルリン、その冗談は笑えないよ?」
「本気よ。何回言ってもルイス様ったら婚約解消をして下さらないの。困ったわ。リリー、一緒にどうしたら解消してもらえるのかを考えてくれないかしら……」
真剣な雰囲気のイザベルとリリアンヌだが、二人の顔には口元から下がないオカメの半仮面が着いている。
目元が見えないのをいいことに、リリアンヌはイザベルから視線を逸らした。
「ベルリン。残念だけど、殿下から逃げるには国外逃亡くらいしかないと思う」
(それでも逃げられない気がするけど……。そもそも、国外逃亡なんて非現実的だし、逃げられたとしても、お嬢様育ちのベルリンに庶民生活は無理。悪い人に売られそう)
リリアンヌは、国外逃亡なんてできないだろうと思って話す。だが、イザベルはそれを本気で受け取った。
(国外逃亡か……。ありかもしれぬ。そうなれば、権力による危険もないしのう)
イザベルは国外逃亡を一つの案として、考え始める。
もう、前世のように呪われたり、暗殺者を送り込まれたくない。苦しい思いをしたくない、そのためならばイザベルは今の生活を捨てる覚悟があった。あったはずだった。
(リリーと、ミーアと離れたくないのぅ。ミーアは頼めば一緒に来てくれるやも知れぬ。じゃが、リリーにはローゼン様がおる。
一緒に来てほしいとは言えぬ)
ルイスの策略通り、イザベルはリリアンヌと離れたくない、共にいたいと願ってしまった。
だが、そうすると国外逃亡はできない。
(じゃが、どうにもならぬなら──)
イザベルは静かに決意をする。いつまでもだらだらと婚約者でいる訳にはいかない。
きっと多くの人に迷惑をかける。それでもイザベルは命の危険を感じずに生きたかった。
今世では一度も命の危険などなかったはずなのに、それでもイザベルの先入観は消えない。権力の集まるところでは命が脅かされるのだと。
イザベルが静かに決意を固めている頃、ミルミッド侯爵家でもお茶会が開かれていた。
それは、イザベルとリリアンヌのような二人だけのお茶会とは違い、大勢の令嬢達が集められている。
イザベルが取り巻きを引き連れなくなったことで、徐々に権力にあやかりたい者はアザレアにすり寄ったのだ。
「ねぇ、皆さん。今度、イザベル様もお茶会に招待しようと思うのだけど、どうかしら?」
扇子で口元を隠したアザレアは、取り巻き達が自分をどれだけ支持しているのかをチェックする。
次々と賛同していくなか、アザレアは二人の令嬢に目をつけた。
「マリンさんとジュリアさんはどうお思い?」
名指しされた二人はただでさえ悪かった顔色を更に悪くさせ、互いに視線で押し付け合う。
「えっと……、それはオカメのイザベル様ですか?」
おどおどとしながら聞いたマリン・メイルードにアザレアは苛立たしげに扇子を閉じると、近付いていく。
そして、一番近くにあったケーキを素手で掴むとメイルードの口に押し込んだ。
「私に口答えをする、悪いお口はこれかしら?」
口に入りきらずに溢れたケーキを踏み潰しながら、アザレアは追加のケーキをメイルードの口元にケーキを押し付ける。
口答えなどしていない、ただ質問をしただけのメイルードは、驚きと恐怖で動けない。
そんなメイルードを見て、ジュリアは目を見開いたままボロボロと涙を溢した。
(嫌だ。もうあんな思いはしたくない)
イザベルに成敗され、口にクッキーを詰め込まれたジュリアは魔のクッキーを思い出し、体が震える。
ミーアの用意したクッキーは砂糖とバターをたっぷりと使ったものだった。口に入れられるのが終われば、食べる必要などなかった。
それなのに、味を知ってしまったが最後、その美味しさに、どんどん食べたくなる。太りたくないのに、ニキビなんて作りたくないのに、黒般若であるミーアが何故か土産として渡したそのクッキーを食べ続け、パッケージのロゴのお店まで探しだし、買い漁ってしまったのだ。
その結果、一月で20キロも増え、激太りのニキビまみれになったジュリアは、危うく婚約解消されそうになり、必死でダイエットを成功させた。
何が一番辛かったかというと、それは当然クッキー絶ちである。
それからというもの、甘いものを口にするとあの魔のクッキーを食べたくなる症状が出るため、ジュリアは甘いもの絶ちは続いている。
※クッキーは究極に美味しい普通のクッキーです。薬等は使用されておりません。
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