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第3章 贈ったオカメのその先に
第38話 お腹の音は修行でどうにかなるとか
しおりを挟む昼休憩が半分終わるくらいには、クラスメイト達は順々に食事へと行き、戻ってきてもまだイザベルが語っていたことに驚いた。
オカメ無双、恐るべしである。
授業が始まるまで続くのか、まさか授業中も止まらないのでは……なんて空気になるなか──。
ぐきゅるるるるる、ぐぅぅぅぅぅ。
盛大なお腹の音が鳴った。
その音でイザベルはピタリと止まる。そして、自身の後ろを振り向いた。
彼女の視線の先にいる、イザベルの暴走を止めたローゼン・カフスは盛大なお腹の音を鳴らしたにも関わらず、いつもと変わらぬ無表情を貫いている。
騎士団長の子息でルイスからの信頼も厚いローゼンは、イザベルへと深々と頭を下げた。
「修行が足りず、申し訳ない。続けてください」
何の修行だよ! とリリアンヌは心の中で突っ込んだが、これ幸いと努めて明るい声を出した。
「ふふっ、実は私もお腹が空いてしまったの。たくさんサンドイッチを作ってきてるから、イザベル様達も一緒にどうですか?
イザベル様が良ければ、先程おっしゃってた違いを見るために、私とイザベル様のオカメを並べてみたいです!」
(料理ができるアピール&イザベルの顔さらしチャンスよ! ルイスじゃなくイザベルを誘うのがポイントよね)
先程まで、遠い目で「すごーい」などと言っていたリリアンヌは、瞬時に計算してイザベルに親しみのある笑顔を向ける。
その笑顔にルイスと元取り巻きのシュナイは全く反応がなかったが、僅かにローゼンの耳が赤くなったのをリリアンヌは見逃さなかった。
(何で私の笑顔が通じないかな……。まぁ、あんまり好みじゃないけど、ローゼンの好感度が上がったから良しとするか)
黒の短髪にグレーの瞳を持つローゼンは、あまり口数が多い方ではない。男らしさを持つキャラクターとしてゲーム内では描かれていた。
リリアンヌとしては愛を囁く回数が少なめなローゼンよりも、甘い言葉をたくさん言ってくれる他キャラの方が魅力的なのである。
だが、それはそれ、これはこれ。
「ローゼン様も是非召し上がってくださいね! お口に合うといいんですけど」
「……どうも」
(これこれこれ!! ヒロインはこうでなくっちゃ!!)
耳どころか少し目尻が赤くなったローゼンにリリアンヌは心の中でガッツポーズをした。
(さて、イザベルは私の提案を受けてくれるのかしら。悩んでるみたいだけど、もうひと押しする? いや、押したら逃げるかも。引くのが正解かな。
……ってか、後ろのルイスが怖いんだけど。睨まないでよ。これでも私、ヒロインなんだけど)
「やっぱり、ご迷惑でしたよね。私が言ったことは気にしないでください」
「あっ……、お待ちになって。サンドイッチをご馳走になってもよろしいかしら?」
「嬉しい!! もちろんです!! イザベル様はどんなサンドイッチがお好きですか?
今日のおすすめはBLTサンドイッチなんですよ!!」
「びーえるてぃー?」
「ベーコンとレタスとトマトのサンドイッチです。カリッと焼いたベーコンにオーロラソースと野菜を挟んだのが簡単なのに美味しいんですよ」
ニコニコとしながら、リリアンヌは教室のテーブルにクロスを引いて準備を始める。
「食堂まで行く時間がないので、ここでいいですよね?」
取り巻きーズはリリアンヌの脇で不満そうな顔をしてはいるものの、側近候補を危うく外されそうになったことが効いたのか、最近は口を挟むことはない。
リリアンヌ主導のもと、あっという間に食べる準備が完成し、皆で席についた。
そして、食事をとるということは、遂にイザベルがオカメを取るときが来たのだと、クラス中の皆がイザベルに注目したのであった。
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