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第2章 オカメな元悪役令嬢
第32話 イザベル、射止める
しおりを挟む(そこは、即答せねばいかんじゃろ……)
だが、庇われた3人はリリアンヌをキラキラとした目で見詰めている。
(まぁ、あの阿呆どもは気付いておらぬか。ただ、シュナイ様は気が付かれてしまわれた。
さて、これからどうなることやら)
シュナイは取り巻きーズから一歩後退し悲しそうにリリアンヌを見詰めてから、ルイスへと膝をついた。
「殿下、今までの非礼をお詫びいたします。
今回のこと、止められなかった私に非があります。どうか、処罰を」
「お前は、この馬鹿共の罰も受けると?」
「甘んじてお受けいたします」
「なんだ、足りないか?」
「私の役目は私心に囚われることなく平等にみること。この一月あまり、明らかに役目を全うできませんでした。
殿下の側近になる資格は私にはありません」
「そうか? 俺はそうは思わないが……。
イザベルはどう思う? 当事者は貴女だ」
ルイスの言葉にイザベルは困惑した。今まで関与してこなかった側近候補について聞かれたことにも、ルイスが何も変わっていないことにも。
(記憶が戻ってから、われの性格が変わったのは明らかじゃろうに、何故このお方は何一つとして変わられないのか……)
自身が変われば疑問に思われたり、相手の態度が変わっても何もおかしいことなどないが、どの記憶でもルイスは一貫としていた。
そのことに違和感を覚えながらも、イザベルはシュナイを見た。
「シュナイ様の理想は素晴らしいですが、平等など不可能ですわ。人に心がある限りは……。
それでも、貴方は平等でありたいと願うのですか?」
「はい。それが私の存在理由ですので」
その言葉にイザベルは目を見開いた後、静かに伏せた。
だが、それはオカメに阻まれてシュナイからは見えない。
(シュナイ様も自身の役割に縛られるのか……。前世のわれのように)
「そうですの。シュナイ様にとって、自身よりも大切なことなのですね。
ならば、今回は良い経験になりましたわね」
責めるでもなく、擁護するでもない。そんなイザベルの言葉にシュナイは静かに耳を傾ける。
「これから先、また今回のように自身の感情に振り回されることもあるでしょう。その時に今回の経験を活かせば良いかと。
自身のことも、人の感情についても、これからもっと学べば良いのです。今から完璧になる必要などありませんわ。
どうかこれから先、貴方にとっての平等を見極めてください。そして、ルイス様を支えてくださいませ。それは、きっとこの国のためになりますわ。
まぁ、私が言ったところで説得力はないでしょうけれど……」
最後は自嘲ぎみに言ったイザベルの言葉を聞き、シュナイは深々と頭を下げた。目には涙が浮かんでいる。
「イザベル様、変わられたのですね。私もきっと、イザベル様のように変わり、期待に応えてみせます」
(リリアンヌさんは、ありのままの自身を出してもいいのだと言ってくれた。それも嬉しかったけれど……。
イザベル様は私のことを丸ごと受け入れてくださった。誰にも理解されることはないと思っていたのに)
こうしてイザベル信者へとシュナイはなった。
平等であるには誰かの信者になってはならない。だが、シュナイにとってイザベルの考え方こそが自身にとっての理想だと気が付いたのだ。
(私もイザベル様のように、丸ごと相手を受け止められるような人間になりたい)
側近候補のシュナイの心を射止めたイザベルは、婚約解消がまた一歩遠ざかったことに気がついていない。二人のやり取りを見て、ルイスが仄暗い笑みをこぼしたことにも。
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