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バルドの即位式
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「準備はできた?」
「あぁ。行こうか。」
慌ただしい日々はあっという間に過ぎ、いよいよ即位式当日を迎えた。
ここまで来るのに、カイの存在は大きかった。護衛のルジェリナとはすぐに打ち解け、お互いを補うような連携で刺客たちの足を止めていく。徐々に落ち着きを取り戻したおかげで、準備は滞りなく進められた。
「緊張してる?」
「いや、あんまり。やっとここまで来たか…って、安心感?達成感かな。まぁ、これからも大事なんだけど。」
1年前、バルドの皇太子としての立場はガタガタと揺れていた。大事な婚約者候補を足蹴にし、新たな婚約者もままならない。唯一の王子としての特異性は既に葬られていた。
(そう思うと感慨深いな…)
サラとの別れ。
シャルノアを見つける旅。
謝罪からのブランシェでの日々。
2人で過ごしたカリニャン。
そして王都での日々。
振り返れば、あっという間で。でも今までのどの時期よりもギュッと凝縮された1年だった。
シャルノアに付き添われ、王宮内を進む。
謁見の間の扉の前で立ち止まる。
「じゃ、また後で。じっくり見てるゎ。」
先に扉をくぐるシャルノアに笑顔で応え、バルドは案内人の指示の下、出番を待つ。
謁見の間には、バルド以外の王族。
エクスホード国内の貴族代表。
各国の代表者、重鎮たち、と多くの人で賑わっていた。
陛下が壇上に立ち、式典の始まりが告げられる。
開けられた扉から入ってきたバルドは、前を見据え、キリッとした表情で歩みを進める。
バルドが陛下の前で跪くと、会場内全ての視線は彼に集まっていた。
「……面を上げよ。ここに新たな皇太子として、唯一の王子バルドを認める。」
低く、伸びのある声で告げられると、会場内は大きな拍手が鳴り響いた。陛下の手から皇太子を示す冠がバルドへと渡された。
(やっぱりバルドは正装が1番似合う!)
皇后や皇女たちと目を合わせながら拍手を送っていたシャルノアは、満面の笑みでバルドを見つめていた。
(ここからは、段取りしっかりしなくちゃっ。)
感動も束の間。シャルノアはこの後の夜会の準備と招待客への誘導と慌ただしく動いていた。
国民への挨拶として、陛下と皇太子バルドは王宮のテラスから手を振っている。彼らが戻り次第、皇太子即位を祝う夜会の始まりである。
今日のシャルノアは、次期皇太子妃として、皇后や皇女たちと共に社交に励まねばならない。同じく、バルドも陛下と共に各国の代表者たちへの挨拶、お礼、交流と息をつく暇もないのである。
「乾杯‼︎」
陛下の声で、各々グラスが交わされ、音楽も鳴り賑やかになり始める。
この日の為に、王宮内は使用人によって煌びやかに彩られ、料理長の気合いの入り様は十分だった。一度は失いつつあった王家の威信を再び取り戻すのだと、皆目の色を変えて準備したのである。
(問題なく進んでるわね。)
そっとひと息ついていたシャルノアの目に、懐かしい顔ぶれが見えた。
「叔父様!バズ!」
裾が翻らないように、気を配りながら近づいたシャルノアは2人の姿に驚いていた。
「シャル、久しぶりだな。…あまりにもキレイで見違えたぞ。」
「フフッ。叔父様は相変わらずお上手ね。」
「聞いたぞ。どんな心境の変化なんだか。驚いたわ。」
そう言いながらシャルノアの頭をポンっとしてきたバズ。
バルドの婚約者として再び王宮にいることに対してだろう。どこにいてもどんな立場でも、変わらず接してくれる2人には感謝である。
「いろいろあったのよ。ホント、自分でも驚いてるわ。」
「…今の表情見れば、文句はないよ。笑ってるならそれでいい。」
詳しく聞きたい気持ちはあれど、持って行き場のない隠れた思いがあるのもまた事実で…複雑な心境のまま、父と話すシャルノアを見ていたバズ。思い描いてた未来は、このまま夢のまま終わるようである。
同じ頃、バルドは他国のお客様へと挨拶回りを終え、グラスを片手にひと息ついていた。これから皇太子としての道が始まる訳で、不安こそないものの、自分の治世を盤石な形にしたいと焦る気持ちも少なからず出てきていた。
あの国には今ある技術で、あの国とは貿易も始めたいな。あっちはこうで…あっちは…
物思いに耽っていたバルドの視線の片隅に、サッと素早く横切る人影があった。
(?あんな木陰に入っていったのか?何故??)
目線だけ追ってはみたものの、離れ過ぎて状況が掴めない。護衛を連れていない今、自分が勝手に動く訳にもいかない。
(…はぁ。今は仕方ないか…)
思考に沈んでいた頭を切り替え、バルドは新たな話し合い手を求めて歩き出すのだった。
「あぁ。行こうか。」
慌ただしい日々はあっという間に過ぎ、いよいよ即位式当日を迎えた。
ここまで来るのに、カイの存在は大きかった。護衛のルジェリナとはすぐに打ち解け、お互いを補うような連携で刺客たちの足を止めていく。徐々に落ち着きを取り戻したおかげで、準備は滞りなく進められた。
「緊張してる?」
「いや、あんまり。やっとここまで来たか…って、安心感?達成感かな。まぁ、これからも大事なんだけど。」
1年前、バルドの皇太子としての立場はガタガタと揺れていた。大事な婚約者候補を足蹴にし、新たな婚約者もままならない。唯一の王子としての特異性は既に葬られていた。
(そう思うと感慨深いな…)
サラとの別れ。
シャルノアを見つける旅。
謝罪からのブランシェでの日々。
2人で過ごしたカリニャン。
そして王都での日々。
振り返れば、あっという間で。でも今までのどの時期よりもギュッと凝縮された1年だった。
シャルノアに付き添われ、王宮内を進む。
謁見の間の扉の前で立ち止まる。
「じゃ、また後で。じっくり見てるゎ。」
先に扉をくぐるシャルノアに笑顔で応え、バルドは案内人の指示の下、出番を待つ。
謁見の間には、バルド以外の王族。
エクスホード国内の貴族代表。
各国の代表者、重鎮たち、と多くの人で賑わっていた。
陛下が壇上に立ち、式典の始まりが告げられる。
開けられた扉から入ってきたバルドは、前を見据え、キリッとした表情で歩みを進める。
バルドが陛下の前で跪くと、会場内全ての視線は彼に集まっていた。
「……面を上げよ。ここに新たな皇太子として、唯一の王子バルドを認める。」
低く、伸びのある声で告げられると、会場内は大きな拍手が鳴り響いた。陛下の手から皇太子を示す冠がバルドへと渡された。
(やっぱりバルドは正装が1番似合う!)
皇后や皇女たちと目を合わせながら拍手を送っていたシャルノアは、満面の笑みでバルドを見つめていた。
(ここからは、段取りしっかりしなくちゃっ。)
感動も束の間。シャルノアはこの後の夜会の準備と招待客への誘導と慌ただしく動いていた。
国民への挨拶として、陛下と皇太子バルドは王宮のテラスから手を振っている。彼らが戻り次第、皇太子即位を祝う夜会の始まりである。
今日のシャルノアは、次期皇太子妃として、皇后や皇女たちと共に社交に励まねばならない。同じく、バルドも陛下と共に各国の代表者たちへの挨拶、お礼、交流と息をつく暇もないのである。
「乾杯‼︎」
陛下の声で、各々グラスが交わされ、音楽も鳴り賑やかになり始める。
この日の為に、王宮内は使用人によって煌びやかに彩られ、料理長の気合いの入り様は十分だった。一度は失いつつあった王家の威信を再び取り戻すのだと、皆目の色を変えて準備したのである。
(問題なく進んでるわね。)
そっとひと息ついていたシャルノアの目に、懐かしい顔ぶれが見えた。
「叔父様!バズ!」
裾が翻らないように、気を配りながら近づいたシャルノアは2人の姿に驚いていた。
「シャル、久しぶりだな。…あまりにもキレイで見違えたぞ。」
「フフッ。叔父様は相変わらずお上手ね。」
「聞いたぞ。どんな心境の変化なんだか。驚いたわ。」
そう言いながらシャルノアの頭をポンっとしてきたバズ。
バルドの婚約者として再び王宮にいることに対してだろう。どこにいてもどんな立場でも、変わらず接してくれる2人には感謝である。
「いろいろあったのよ。ホント、自分でも驚いてるわ。」
「…今の表情見れば、文句はないよ。笑ってるならそれでいい。」
詳しく聞きたい気持ちはあれど、持って行き場のない隠れた思いがあるのもまた事実で…複雑な心境のまま、父と話すシャルノアを見ていたバズ。思い描いてた未来は、このまま夢のまま終わるようである。
同じ頃、バルドは他国のお客様へと挨拶回りを終え、グラスを片手にひと息ついていた。これから皇太子としての道が始まる訳で、不安こそないものの、自分の治世を盤石な形にしたいと焦る気持ちも少なからず出てきていた。
あの国には今ある技術で、あの国とは貿易も始めたいな。あっちはこうで…あっちは…
物思いに耽っていたバルドの視線の片隅に、サッと素早く横切る人影があった。
(?あんな木陰に入っていったのか?何故??)
目線だけ追ってはみたものの、離れ過ぎて状況が掴めない。護衛を連れていない今、自分が勝手に動く訳にもいかない。
(…はぁ。今は仕方ないか…)
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