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動き出す未来
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「くそっ。もう終わりだ…。」
物がなくなり、殺風景な部屋で頭を抱えているのはオーロ男爵。王家主催のパーティーで第1王子の新しい婚約者が伝えられて既に1週間となる。会場で婚約者の名前と顔を確認して、彼の表情は蒼白になった。
娘サラさえいなければ…1年前の出来事が鮮明に思い出され、同時に王宮から帰ってきた時の娘の姿が蘇る。
(あの時辞めていれば…いゃ、既に手遅れだったか。)
欲を出さずにいれば、誠実に堅実に生きていれば…
後悔しても、失ったものは決して戻らない。落ち込む男の後ろ姿を、冷たい瞳がとらえていた。
(失うものなど、もう何もない…彼女さえいなければ)
彼女は恨み嫉みを募らせ、既にまともな思考回路ではなくなっていた。
「第1騎士団所属、ルジェリナです!本日よりシャルノア様付きの護衛となりましたので、よろしくお願い致します!」
満面の笑みを浮かべ、ピシッと敬礼をしながら挨拶をする彼女を見て、シャルノアも微笑む。
「兄の部下の方よね?こちらこそ、よろしくお願いします。」
婚約者としての紹介が済み、王宮では皇太子の即位式の準備が進められていた。これが終われば、あとは2人の結婚式のみ。通い慣れた王宮ではあるものの、既に周りからは未来の皇太子妃として丁重に扱われるようになった。
それに伴い、王宮では彼女の部屋が設けられ、バルドの指示で専属の護衛が決められることになった。皇女アメリアや騎士団長リュカの推薦により、ルジェリナが選ばれたのである。
(顔見知りだし、女同士で安心だわ。)
シャルノアの周りに自身以外の異性を置きたくないというバルドの意思が多いに反映した結果であった。
「本日より、よろしくお願い致します。」
住み慣れたモンティ家を離れ、王宮へと移る。結婚式までは通うものだと思っていたのだが、王太子妃教育を順調に済ませたシャルノアは、アメリアやシャルロッテの補佐を頼まれ即戦力として見込まれていた。
皇女たちも皇后も口を揃えれば、陛下が父アルトへ声をかけるのは目に見えたもので、事が運ぶのはあっという間であった。
(まあ、王宮で会えるから変わらないのだけど。)
陛下や宰相に頼まれ、パーティー後の父アルトは王宮での仕事が増えている。兄リュカも騎士団にいるので、会おうと思えばいつでも会えるのである。
「この日を待ってたのよ。」
ウキウキという表現が似合いそうな皇后、皇女たちに迎えられたシャルノアは、バルドの部屋の隣へと案内された。今までの客室とは違い、皇太子妃が使う部屋である。
「シャル、よろしくね。」
執務の途中で出てきたのだろうか、側近を連れたバルドが部屋の前で迎えてくれた。
着実にバルドの婚約者、未来の皇太子妃としての準備が進められている。
(不安はないわ。むしろ楽しみでワクワクしてる。)
嫌々通っていた以前とは違い、自らの意思で歩んできた。シャルノアの心は成長し、バルドとの絆を育む中で自分の気持ちもしっかりと見つめ直してきた。
「シャル自身が選んだ道だ。父としてしっかり応援するよ。厳しいこともこの先出てくるかもしれないが、いつでも頼ってくれ。我が家はいつでも大歓迎だから。」
前日、父アルトは本音を隠すような苦い表情でシャルノアを激励した。親として心配半分、寂しさ半分といった所だろうか…送り出すというのに、しきりにいつでも帰ってこいと言う父に笑みが溢れた。
この家に生まれて良かった。父アルトに対しての感謝の気持ちが溢れ、シャルノアは幸せいっぱいで馬車に乗り込んだのである。
王宮での初日は、王家の皆勢揃いでの食事となり、歓迎会のような豪華な料理が多数並んだ。普段は忙しく、それぞれで食事を済ませることもあると聞いていたが、離宮での食事会に合わせて皆集まり、温かく笑顔で迎えてくれた。その場で即位式の日程も伝えられ、今後の予定を立て、王家全員で足並みを揃える形となった。
(ここからまた、新しく始まるのね…楽しまなきゃ。)
この日のシャルノアの表情は、期待と喜びに溢れ、一段と輝いていた。
物がなくなり、殺風景な部屋で頭を抱えているのはオーロ男爵。王家主催のパーティーで第1王子の新しい婚約者が伝えられて既に1週間となる。会場で婚約者の名前と顔を確認して、彼の表情は蒼白になった。
娘サラさえいなければ…1年前の出来事が鮮明に思い出され、同時に王宮から帰ってきた時の娘の姿が蘇る。
(あの時辞めていれば…いゃ、既に手遅れだったか。)
欲を出さずにいれば、誠実に堅実に生きていれば…
後悔しても、失ったものは決して戻らない。落ち込む男の後ろ姿を、冷たい瞳がとらえていた。
(失うものなど、もう何もない…彼女さえいなければ)
彼女は恨み嫉みを募らせ、既にまともな思考回路ではなくなっていた。
「第1騎士団所属、ルジェリナです!本日よりシャルノア様付きの護衛となりましたので、よろしくお願い致します!」
満面の笑みを浮かべ、ピシッと敬礼をしながら挨拶をする彼女を見て、シャルノアも微笑む。
「兄の部下の方よね?こちらこそ、よろしくお願いします。」
婚約者としての紹介が済み、王宮では皇太子の即位式の準備が進められていた。これが終われば、あとは2人の結婚式のみ。通い慣れた王宮ではあるものの、既に周りからは未来の皇太子妃として丁重に扱われるようになった。
それに伴い、王宮では彼女の部屋が設けられ、バルドの指示で専属の護衛が決められることになった。皇女アメリアや騎士団長リュカの推薦により、ルジェリナが選ばれたのである。
(顔見知りだし、女同士で安心だわ。)
シャルノアの周りに自身以外の異性を置きたくないというバルドの意思が多いに反映した結果であった。
「本日より、よろしくお願い致します。」
住み慣れたモンティ家を離れ、王宮へと移る。結婚式までは通うものだと思っていたのだが、王太子妃教育を順調に済ませたシャルノアは、アメリアやシャルロッテの補佐を頼まれ即戦力として見込まれていた。
皇女たちも皇后も口を揃えれば、陛下が父アルトへ声をかけるのは目に見えたもので、事が運ぶのはあっという間であった。
(まあ、王宮で会えるから変わらないのだけど。)
陛下や宰相に頼まれ、パーティー後の父アルトは王宮での仕事が増えている。兄リュカも騎士団にいるので、会おうと思えばいつでも会えるのである。
「この日を待ってたのよ。」
ウキウキという表現が似合いそうな皇后、皇女たちに迎えられたシャルノアは、バルドの部屋の隣へと案内された。今までの客室とは違い、皇太子妃が使う部屋である。
「シャル、よろしくね。」
執務の途中で出てきたのだろうか、側近を連れたバルドが部屋の前で迎えてくれた。
着実にバルドの婚約者、未来の皇太子妃としての準備が進められている。
(不安はないわ。むしろ楽しみでワクワクしてる。)
嫌々通っていた以前とは違い、自らの意思で歩んできた。シャルノアの心は成長し、バルドとの絆を育む中で自分の気持ちもしっかりと見つめ直してきた。
「シャル自身が選んだ道だ。父としてしっかり応援するよ。厳しいこともこの先出てくるかもしれないが、いつでも頼ってくれ。我が家はいつでも大歓迎だから。」
前日、父アルトは本音を隠すような苦い表情でシャルノアを激励した。親として心配半分、寂しさ半分といった所だろうか…送り出すというのに、しきりにいつでも帰ってこいと言う父に笑みが溢れた。
この家に生まれて良かった。父アルトに対しての感謝の気持ちが溢れ、シャルノアは幸せいっぱいで馬車に乗り込んだのである。
王宮での初日は、王家の皆勢揃いでの食事となり、歓迎会のような豪華な料理が多数並んだ。普段は忙しく、それぞれで食事を済ませることもあると聞いていたが、離宮での食事会に合わせて皆集まり、温かく笑顔で迎えてくれた。その場で即位式の日程も伝えられ、今後の予定を立て、王家全員で足並みを揃える形となった。
(ここからまた、新しく始まるのね…楽しまなきゃ。)
この日のシャルノアの表情は、期待と喜びに溢れ、一段と輝いていた。
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