80 / 100
手出しさせません!
しおりを挟む
「さすがに疲れたか?」
フゥーとため息をついたところで、バルドに話しかけられる。
「王家主催だと規模が大きいですもの…挨拶だけで疲れます。」
「ははっ。そう言いながら顔には出てないところがシャルらしいよね。ちょっと休憩しようか。」
宴の開始とともに、バルドとシャルノアの周りにはたくさんの貴族が集ってきた。挨拶をしてアピールしたい気持ちは分からないでもないが、話の切れ間なく話を続けるのは辞めて欲しい。
バルドに連れられるまま、会場横のテラスへと移動する。
「バルはさすがね。全然疲れてなさそう。」
ベンチに腰掛け、ひと息ついたところで隣の人間は全く疲れを見せていないことに気づいたシャルノア。少し不貞腐れたように言うと、驚いた表情を見せたバルドは声を上げて笑い出した。
「な、なに?そんなに笑わなくても良いじゃない。」
恥ずかしくて顔が赤くなり出した所で、バルドが落ち着きこちらを向く。
「この日を待ち望んでいたのに、疲れる訳がないじゃないか。むしろ楽しくて仕方ないね。見たことないシャルの顔がどんどん出てくるし。」
そう話すバルドはとても柔らかい表情で、心から喜んでいるのがこちらにも伝わってくる。
「バルがこんなに意地悪だってこと、私も最近やっと気づいたわ。」
「ハハッ。いいじゃない、それだけ距離が近づいたってことで。嬉しいよ、私は。」
「……それは、私もです。」
同じ頃、テラス下の庭に佇む令嬢がいた…。
(なんなの、あの表情。あんな顔、私といる時に1度も見せたことなかったわ。)
寂しそうな切ない表情から、しばらくすると徐々に変化し出す。
(…あの娘が居るからダメなのよ。昔からこの王宮に出入りしてるのだもの、気に入られて当然だわ。完璧な令嬢がいたら比べられて当たり前じゃない。私だって彼に選ばれたのだから、まだなんとかなるわ。)
"あの娘さえいなければ…"
諦めの悪い心が、次第に醜い嫉妬となり、間違った方向へと導いていく。幸せいっぱいの2人を見て、素直に祝福できる心は霞んでいく。心の中は憎悪に蝕まれていくのだった…
(素直に敗北を認めないんだなあ…。)
そんなご令嬢を背後から観察していたリュカは呆れていた。この夜会の目的。バルドの立太子とシャルノアとの婚約発表を周知することで、反皇族派に影響を与えること。
陛下や宰相、父アルトは既に、見切りをつけた貴族や今まで動きを見せていた貴族たちの目星をつけている。今後の動きを加味して処分するつもりで動いているのでそちらは心配していない。
リュカが心配しているのは、その貴族たちの子息ご令嬢たちだ。現実を見ない大人たちの言葉を聞き続けて育った子どもは、同じく現状を把握出来ないであろう。
(そんなに諦めが悪いなら、死に物狂いで勉強してれば良かったんだ。自分の出来の悪さを見ないフリして、何考えてんだか…)
リュカの視線の先にいる令嬢。
オーロ男爵の娘、サラである。
シャルノアを袖にして選ばれたものの、王宮教育についていけず、王子に見切りをつけられたと聞いている。
チャンスがあったのにも関わらず、王宮から離れたのならそのまま諦めてもよいものを…
(男爵に唆されたか?貴族の対応としてはまともだったが…自暴自棄になったとか?やはり、女の考えることは分からんな。)
シャルノアと騎士団の仲間以外、女を寄せ付けないリュカとしては、考えが及ばない相手である。
(何をしでかすのか、一体。ある意味楽しみではあるな。)
ニヤリと笑うリュカは、令嬢の後を追い、庭から離れるのだった。
「この日の為に頑張ってきたのに。何も出来ずに終わるなんて悔しいわ…。」
「お嬢様、まだ分かりませんよ?あのお方の目に留まれば、チャンスはあります。まだ、婚約なんですから。シャルノア嬢は1度は退いた身。何かしらあのお方には合わない所があったハズです。」
「グスッ。…そうかしら?いえ、そうね。ここまできて諦めるなんて私じゃないわ。ねぇ、どうしたら良い?」
(いゃ、どうもならないから。あの侍女、目がおかしいんじゃないの?)
パーティー会場横の休憩所。
あるご令嬢が侍女と共にお化粧直しに入るのを、ルジェリナは影から見張っていた。多くのご令嬢たちが、主役の2人を見て祝福を送っていたにも関わらず。このご令嬢はショックを隠さず、早々と侍女と共にその場を離れていた。
会場内にいたご令嬢たちの中にも、王太子妃の座を狙っていた者は多い。だが、2人並ぶ姿や仲睦まじい様子を見て現実を見ている。ここは問題ない、と巡回を始めた所に大きな泣き声が聞こえ、聞き耳を立てればこれだ。
(侍女なら自分のご令嬢のためになる言葉を言え!希望持たせるだけが励ましじゃないんだぞ…)
幼い令嬢の姿を見て、大きな脅威にはならないだろうが、側にいる侍女と絡んで何をするのか分からない。
(どう見ても勝ちっこないのに…。)
はぁ。。。
ため息をつきながら、引き続き様子を見る。
リュカやルジェリナの心は1つ。
そのために騎士団も一緒に動いている。
今日の夜会は、大事な2人の門出。
"幸せな2人に手出しはさせない。"
フゥーとため息をついたところで、バルドに話しかけられる。
「王家主催だと規模が大きいですもの…挨拶だけで疲れます。」
「ははっ。そう言いながら顔には出てないところがシャルらしいよね。ちょっと休憩しようか。」
宴の開始とともに、バルドとシャルノアの周りにはたくさんの貴族が集ってきた。挨拶をしてアピールしたい気持ちは分からないでもないが、話の切れ間なく話を続けるのは辞めて欲しい。
バルドに連れられるまま、会場横のテラスへと移動する。
「バルはさすがね。全然疲れてなさそう。」
ベンチに腰掛け、ひと息ついたところで隣の人間は全く疲れを見せていないことに気づいたシャルノア。少し不貞腐れたように言うと、驚いた表情を見せたバルドは声を上げて笑い出した。
「な、なに?そんなに笑わなくても良いじゃない。」
恥ずかしくて顔が赤くなり出した所で、バルドが落ち着きこちらを向く。
「この日を待ち望んでいたのに、疲れる訳がないじゃないか。むしろ楽しくて仕方ないね。見たことないシャルの顔がどんどん出てくるし。」
そう話すバルドはとても柔らかい表情で、心から喜んでいるのがこちらにも伝わってくる。
「バルがこんなに意地悪だってこと、私も最近やっと気づいたわ。」
「ハハッ。いいじゃない、それだけ距離が近づいたってことで。嬉しいよ、私は。」
「……それは、私もです。」
同じ頃、テラス下の庭に佇む令嬢がいた…。
(なんなの、あの表情。あんな顔、私といる時に1度も見せたことなかったわ。)
寂しそうな切ない表情から、しばらくすると徐々に変化し出す。
(…あの娘が居るからダメなのよ。昔からこの王宮に出入りしてるのだもの、気に入られて当然だわ。完璧な令嬢がいたら比べられて当たり前じゃない。私だって彼に選ばれたのだから、まだなんとかなるわ。)
"あの娘さえいなければ…"
諦めの悪い心が、次第に醜い嫉妬となり、間違った方向へと導いていく。幸せいっぱいの2人を見て、素直に祝福できる心は霞んでいく。心の中は憎悪に蝕まれていくのだった…
(素直に敗北を認めないんだなあ…。)
そんなご令嬢を背後から観察していたリュカは呆れていた。この夜会の目的。バルドの立太子とシャルノアとの婚約発表を周知することで、反皇族派に影響を与えること。
陛下や宰相、父アルトは既に、見切りをつけた貴族や今まで動きを見せていた貴族たちの目星をつけている。今後の動きを加味して処分するつもりで動いているのでそちらは心配していない。
リュカが心配しているのは、その貴族たちの子息ご令嬢たちだ。現実を見ない大人たちの言葉を聞き続けて育った子どもは、同じく現状を把握出来ないであろう。
(そんなに諦めが悪いなら、死に物狂いで勉強してれば良かったんだ。自分の出来の悪さを見ないフリして、何考えてんだか…)
リュカの視線の先にいる令嬢。
オーロ男爵の娘、サラである。
シャルノアを袖にして選ばれたものの、王宮教育についていけず、王子に見切りをつけられたと聞いている。
チャンスがあったのにも関わらず、王宮から離れたのならそのまま諦めてもよいものを…
(男爵に唆されたか?貴族の対応としてはまともだったが…自暴自棄になったとか?やはり、女の考えることは分からんな。)
シャルノアと騎士団の仲間以外、女を寄せ付けないリュカとしては、考えが及ばない相手である。
(何をしでかすのか、一体。ある意味楽しみではあるな。)
ニヤリと笑うリュカは、令嬢の後を追い、庭から離れるのだった。
「この日の為に頑張ってきたのに。何も出来ずに終わるなんて悔しいわ…。」
「お嬢様、まだ分かりませんよ?あのお方の目に留まれば、チャンスはあります。まだ、婚約なんですから。シャルノア嬢は1度は退いた身。何かしらあのお方には合わない所があったハズです。」
「グスッ。…そうかしら?いえ、そうね。ここまできて諦めるなんて私じゃないわ。ねぇ、どうしたら良い?」
(いゃ、どうもならないから。あの侍女、目がおかしいんじゃないの?)
パーティー会場横の休憩所。
あるご令嬢が侍女と共にお化粧直しに入るのを、ルジェリナは影から見張っていた。多くのご令嬢たちが、主役の2人を見て祝福を送っていたにも関わらず。このご令嬢はショックを隠さず、早々と侍女と共にその場を離れていた。
会場内にいたご令嬢たちの中にも、王太子妃の座を狙っていた者は多い。だが、2人並ぶ姿や仲睦まじい様子を見て現実を見ている。ここは問題ない、と巡回を始めた所に大きな泣き声が聞こえ、聞き耳を立てればこれだ。
(侍女なら自分のご令嬢のためになる言葉を言え!希望持たせるだけが励ましじゃないんだぞ…)
幼い令嬢の姿を見て、大きな脅威にはならないだろうが、側にいる侍女と絡んで何をするのか分からない。
(どう見ても勝ちっこないのに…。)
はぁ。。。
ため息をつきながら、引き続き様子を見る。
リュカやルジェリナの心は1つ。
そのために騎士団も一緒に動いている。
今日の夜会は、大事な2人の門出。
"幸せな2人に手出しはさせない。"
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます
神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。
【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。
だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。
「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」
マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。
(そう。そんなに彼女が良かったの)
長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。
何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。
(私は都合のいい道具なの?)
絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。
侍女達が話していたのはここだろうか?
店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。
コッペリアが正直に全て話すと、
「今のあんたにぴったりの物がある」
渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。
「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」
そこで老婆は言葉を切った。
「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」
コッペリアは深く頷いた。
薬を飲んだコッペリアは眠りについた。
そして――。
アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。
「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」
※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)
(2023.2.3)
ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000
※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる