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手出しさせません!

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 「さすがに疲れたか?」


フゥーとため息をついたところで、バルドに話しかけられる。


「王家主催だと規模が大きいですもの…挨拶だけで疲れます。」

「ははっ。そう言いながら顔には出てないところがシャルらしいよね。ちょっと休憩しようか。」



 宴の開始とともに、バルドとシャルノアの周りにはたくさんの貴族が集ってきた。挨拶をしてアピールしたい気持ちは分からないでもないが、話の切れ間なく話を続けるのは辞めて欲しい。

 バルドに連れられるまま、会場横のテラスへと移動する。


「バルはさすがね。全然疲れてなさそう。」

 ベンチに腰掛け、ひと息ついたところで隣の人間は全く疲れを見せていないことに気づいたシャルノア。少し不貞腐れたように言うと、驚いた表情を見せたバルドは声を上げて笑い出した。

「な、なに?そんなに笑わなくても良いじゃない。」

恥ずかしくて顔が赤くなり出した所で、バルドが落ち着きこちらを向く。

「この日を待ち望んでいたのに、疲れる訳がないじゃないか。むしろ楽しくて仕方ないね。見たことないシャルの顔がどんどん出てくるし。」

そう話すバルドはとても柔らかい表情で、心から喜んでいるのがこちらにも伝わってくる。

「バルがこんなに意地悪だってこと、私も最近やっと気づいたわ。」

「ハハッ。いいじゃない、それだけ距離が近づいたってことで。嬉しいよ、私は。」

「……それは、私もです。」





 同じ頃、テラス下の庭に佇む令嬢がいた…。


(なんなの、あの表情。あんな顔、私といる時に1度も見せたことなかったわ。)


 寂しそうな切ない表情から、しばらくすると徐々に変化し出す。

(…あの娘が居るからダメなのよ。昔からこの王宮に出入りしてるのだもの、気に入られて当然だわ。完璧な令嬢がいたら比べられて当たり前じゃない。私だって彼に選ばれたのだから、まだなんとかなるわ。)


"あの娘さえいなければ…"


 諦めの悪い心が、次第に醜い嫉妬となり、間違った方向へと導いていく。幸せいっぱいの2人を見て、素直に祝福できる心は霞んでいく。心の中は憎悪に蝕まれていくのだった…



(素直に敗北を認めないんだなあ…。)

そんなご令嬢を背後から観察していたリュカは呆れていた。この夜会の目的。バルドの立太子とシャルノアとの婚約発表を周知することで、反皇族派に影響を与えること。
 陛下や宰相、父アルトは既に、見切りをつけた貴族や今まで動きを見せていた貴族たちの目星をつけている。今後の動きを加味して処分するつもりで動いているのでそちらは心配していない。
 リュカが心配しているのは、その貴族たちの子息ご令嬢たちだ。現実を見ない大人たちの言葉を聞き続けて育った子どもは、同じく現状を把握出来ないであろう。

(そんなに諦めが悪いなら、死に物狂いで勉強してれば良かったんだ。自分の出来の悪さを見ないフリして、何考えてんだか…)


 リュカの視線の先にいる令嬢。
オーロ男爵の娘、サラである。

 シャルノアを袖にして選ばれたものの、王宮教育についていけず、王子に見切りをつけられたと聞いている。
 チャンスがあったのにも関わらず、王宮から離れたのならそのまま諦めてもよいものを…

(男爵に唆されたか?貴族の対応としてはまともだったが…自暴自棄になったとか?やはり、女の考えることは分からんな。)


シャルノアと騎士団の仲間以外、女を寄せ付けないリュカとしては、考えが及ばない相手である。

(何をしでかすのか、一体。ある意味楽しみではあるな。)

 ニヤリと笑うリュカは、令嬢の後を追い、庭から離れるのだった。





「この日の為に頑張ってきたのに。何も出来ずに終わるなんて悔しいわ…。」

「お嬢様、まだ分かりませんよ?あのお方の目に留まれば、チャンスはあります。まだ、婚約なんですから。シャルノア嬢は1度は退いた身。何かしらあのお方には合わない所があったハズです。」

「グスッ。…そうかしら?いえ、そうね。ここまできて諦めるなんて私じゃないわ。ねぇ、どうしたら良い?」


(いゃ、どうもならないから。あの侍女、目がおかしいんじゃないの?)


 パーティー会場横の休憩所。
あるご令嬢が侍女と共にお化粧直しに入るのを、ルジェリナは影から見張っていた。多くのご令嬢たちが、主役の2人を見て祝福を送っていたにも関わらず。このご令嬢はショックを隠さず、早々と侍女と共にその場を離れていた。
 会場内にいたご令嬢たちの中にも、王太子妃の座を狙っていた者は多い。だが、2人並ぶ姿や仲睦まじい様子を見て現実を見ている。ここは問題ない、と巡回を始めた所に大きな泣き声が聞こえ、聞き耳を立てればこれだ。

(侍女なら自分のご令嬢のためになる言葉を言え!希望持たせるだけが励ましじゃないんだぞ…)


  幼い令嬢の姿を見て、大きな脅威にはならないだろうが、側にいる侍女と絡んで何をするのか分からない。

(どう見ても勝ちっこないのに…。)


 はぁ。。。
ため息をつきながら、引き続き様子を見る。


 リュカやルジェリナの心は1つ。
 そのために騎士団も一緒に動いている。
 今日の夜会は、大事な2人の門出。


"幸せな2人に手出しはさせない。"
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