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王宮へ参ります
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ガタッゴトッ。
馬車に揺られながら、シャルノアは王宮へと続く道を見つめていた。
(数ヶ月前まではここに戻るなんて考えられなかったのに。)
キレイなドレスに身を包み、ナナによってまとめ上げられた今日のシャルノア。父アルトと共に王宮へと向かっている。
本人たちの意思が大事ではあるものの、王子の婚約者という立場になるのだ。陛下の許可や伯爵家としての身の振り方など確認事項は多々ある。
王宮に着くと宰相リディスに迎えられた。旧友である父と軽く抱擁を交わすと、柔らかい微笑みでシャルノアを迎えてくれた。
「こんにちは、シャルノア嬢。決断してくれてありがとう。本当に感謝の言葉しかないよ…。」
彼の苦労が分かるだけに、アルトはリディスの肩を叩いて微笑んだ。
「娘のためにも、力になるよ。」
彼の言葉に、リディスが涙目になったのは見間違いではないだろう。
リディスに連れられ入った謁見の間には、上座に陛下と皇后、その横にバルドと王女2人と勢揃いだった。内密な話のため、この場に関係のない人間は入れないよう、既に通達してある。
「陛下、娘の意思を確認致しました。遅くはなりましたが、殿下の婚約者にというお話、お受けしたいと思います。」
「シャルノア嬢。」
「はい、陛下。」
「辛い思いをさせてしまい、申し訳なかった。それにも関わらず、此奴の願いを叶えてくれてありがとう。」
国王陛下自らの、謝罪とお礼に、シャルノアは一瞬固まる。
「この場に戻ってきてくれたこと、嬉しく思うぞ。」
ふと気づくと、国王だけでなく皇后もバルドも王女たちも、皆シャルノアの方を見て微笑んでいる。
「私たちは貴女以外は選ばないわ。」
皇后の言葉に、深い信頼を感じる。
「それでは話を進めようか。」
陛下の言葉に、父アルトも頷く。
「君から直接返事が聞けて嬉しかったよ。ありがと。」
バルドの素直な言葉に、シャルノアは照れる。
あの後、王家と伯爵家の繋がりが分かるように夜会当日の席や配置、動きを伝えられた。
その後、バルド様とドレスについて話すように言われ、2人の時間を貰った。何やら父様は陛下や宰相と詳しく話を詰めたいそうで、若者は席を外すように言われてしまったのである。
バルド様のお部屋に入り、メイドが入れてくれたお茶を飲む。まだ気持ちに気づいたばかりのシャルノア。2人になると、恥ずかしさが勝るようである。
「ドレスだけど、任せて貰っていい?実はもう頼んであるんだ。希望の形とかあればまだ修正できるけど。」
「いえ、大丈夫です。」
「……どうしたの?王宮だから緊張してる?」
(いえ、貴方の側だから緊張してます。)
そんな本音が吐ける訳もなく…どきまぎした心で必死に自分を落ち着かせようとする。
「ねえ?聞いてる?」
いつの間にやらすぐ側で顔を覗き込んできたバルドに、彼女は驚く。
「聞いてます。驚いてます。緊張してます!」
後ろに後退りながら答えるシャルノアに、バルドは目を見開く。
「なるほど。こんな姿が見られるとは…この部屋だからかな?それだけ意識して貰えるようになったってこと?」
ちょっと笑いながら話しかけてくる彼は少し意地悪である。
「私にとっては初めての場所ですし、ここはバルド様のテリトリーなので、勝手が違います!」
ニコニコしている彼は、絶対に今の状況を楽しんでいる。焦りから、さっきまでの自分の発言が墓穴を掘っているようでシャルノアは恥ずかしくなっていた。
「君は婚約者なんだもの。慣れなきゃね。」
余裕の笑みのバルド様が憎たらしい。
「バルって呼んで。私もシャルって呼ぶから。話し方も崩してくといいよ。ほら、フィアーノさんが話すみたいに。気楽に話せるようになんないと。」
(バル?王子をそう呼んで平気なの?敬語は??)
きっと戸惑っているのだろう。言葉に出さず百面相している彼女が可愛くて仕方ない。ブランシェで見ていた姿は少女のように可憐だったが、やはり伯爵令嬢。着飾っている彼女は凛として美しい。
(手に入ったからには愛しまないとね…私の婚約者さん。)
「シャル?ほら、言ってみて。バルって。」
「バル、様?」
「やり直し。もっと気楽に。」
「…バル。」
言った瞬間に赤面していく彼女。どうしよう。可愛くて仕方ない。
甘々になったバルドの攻撃は、メイドが迎えの連絡を伝えにくるまで続けられた。
馬車に揺られながら、シャルノアは王宮へと続く道を見つめていた。
(数ヶ月前まではここに戻るなんて考えられなかったのに。)
キレイなドレスに身を包み、ナナによってまとめ上げられた今日のシャルノア。父アルトと共に王宮へと向かっている。
本人たちの意思が大事ではあるものの、王子の婚約者という立場になるのだ。陛下の許可や伯爵家としての身の振り方など確認事項は多々ある。
王宮に着くと宰相リディスに迎えられた。旧友である父と軽く抱擁を交わすと、柔らかい微笑みでシャルノアを迎えてくれた。
「こんにちは、シャルノア嬢。決断してくれてありがとう。本当に感謝の言葉しかないよ…。」
彼の苦労が分かるだけに、アルトはリディスの肩を叩いて微笑んだ。
「娘のためにも、力になるよ。」
彼の言葉に、リディスが涙目になったのは見間違いではないだろう。
リディスに連れられ入った謁見の間には、上座に陛下と皇后、その横にバルドと王女2人と勢揃いだった。内密な話のため、この場に関係のない人間は入れないよう、既に通達してある。
「陛下、娘の意思を確認致しました。遅くはなりましたが、殿下の婚約者にというお話、お受けしたいと思います。」
「シャルノア嬢。」
「はい、陛下。」
「辛い思いをさせてしまい、申し訳なかった。それにも関わらず、此奴の願いを叶えてくれてありがとう。」
国王陛下自らの、謝罪とお礼に、シャルノアは一瞬固まる。
「この場に戻ってきてくれたこと、嬉しく思うぞ。」
ふと気づくと、国王だけでなく皇后もバルドも王女たちも、皆シャルノアの方を見て微笑んでいる。
「私たちは貴女以外は選ばないわ。」
皇后の言葉に、深い信頼を感じる。
「それでは話を進めようか。」
陛下の言葉に、父アルトも頷く。
「君から直接返事が聞けて嬉しかったよ。ありがと。」
バルドの素直な言葉に、シャルノアは照れる。
あの後、王家と伯爵家の繋がりが分かるように夜会当日の席や配置、動きを伝えられた。
その後、バルド様とドレスについて話すように言われ、2人の時間を貰った。何やら父様は陛下や宰相と詳しく話を詰めたいそうで、若者は席を外すように言われてしまったのである。
バルド様のお部屋に入り、メイドが入れてくれたお茶を飲む。まだ気持ちに気づいたばかりのシャルノア。2人になると、恥ずかしさが勝るようである。
「ドレスだけど、任せて貰っていい?実はもう頼んであるんだ。希望の形とかあればまだ修正できるけど。」
「いえ、大丈夫です。」
「……どうしたの?王宮だから緊張してる?」
(いえ、貴方の側だから緊張してます。)
そんな本音が吐ける訳もなく…どきまぎした心で必死に自分を落ち着かせようとする。
「ねえ?聞いてる?」
いつの間にやらすぐ側で顔を覗き込んできたバルドに、彼女は驚く。
「聞いてます。驚いてます。緊張してます!」
後ろに後退りながら答えるシャルノアに、バルドは目を見開く。
「なるほど。こんな姿が見られるとは…この部屋だからかな?それだけ意識して貰えるようになったってこと?」
ちょっと笑いながら話しかけてくる彼は少し意地悪である。
「私にとっては初めての場所ですし、ここはバルド様のテリトリーなので、勝手が違います!」
ニコニコしている彼は、絶対に今の状況を楽しんでいる。焦りから、さっきまでの自分の発言が墓穴を掘っているようでシャルノアは恥ずかしくなっていた。
「君は婚約者なんだもの。慣れなきゃね。」
余裕の笑みのバルド様が憎たらしい。
「バルって呼んで。私もシャルって呼ぶから。話し方も崩してくといいよ。ほら、フィアーノさんが話すみたいに。気楽に話せるようになんないと。」
(バル?王子をそう呼んで平気なの?敬語は??)
きっと戸惑っているのだろう。言葉に出さず百面相している彼女が可愛くて仕方ない。ブランシェで見ていた姿は少女のように可憐だったが、やはり伯爵令嬢。着飾っている彼女は凛として美しい。
(手に入ったからには愛しまないとね…私の婚約者さん。)
「シャル?ほら、言ってみて。バルって。」
「バル、様?」
「やり直し。もっと気楽に。」
「…バル。」
言った瞬間に赤面していく彼女。どうしよう。可愛くて仕方ない。
甘々になったバルドの攻撃は、メイドが迎えの連絡を伝えにくるまで続けられた。
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