上 下
77 / 100

王宮へ参ります

しおりを挟む
ガタッゴトッ。

馬車に揺られながら、シャルノアは王宮へと続く道を見つめていた。

(数ヶ月前まではここに戻るなんて考えられなかったのに。)

キレイなドレスに身を包み、ナナによってまとめ上げられた今日のシャルノア。父アルトと共に王宮へと向かっている。

 本人たちの意思が大事ではあるものの、王子の婚約者という立場になるのだ。陛下の許可や伯爵家としての身の振り方など確認事項は多々ある。

 王宮に着くと宰相リディスに迎えられた。旧友である父と軽く抱擁を交わすと、柔らかい微笑みでシャルノアを迎えてくれた。

「こんにちは、シャルノア嬢。決断してくれてありがとう。本当に感謝の言葉しかないよ…。」

彼の苦労が分かるだけに、アルトはリディスの肩を叩いて微笑んだ。

「娘のためにも、力になるよ。」

彼の言葉に、リディスが涙目になったのは見間違いではないだろう。




 リディスに連れられ入った謁見の間には、上座に陛下と皇后、その横にバルドと王女2人と勢揃いだった。内密な話のため、この場に関係のない人間は入れないよう、既に通達してある。


「陛下、娘の意思を確認致しました。遅くはなりましたが、殿下の婚約者にというお話、お受けしたいと思います。」

「シャルノア嬢。」

「はい、陛下。」

「辛い思いをさせてしまい、申し訳なかった。それにも関わらず、此奴の願いを叶えてくれてありがとう。」


 国王陛下自らの、謝罪とお礼に、シャルノアは一瞬固まる。

「この場に戻ってきてくれたこと、嬉しく思うぞ。」

 ふと気づくと、国王だけでなく皇后もバルドも王女たちも、皆シャルノアの方を見て微笑んでいる。

「私たちは貴女以外は選ばないわ。」

皇后の言葉に、深い信頼を感じる。

「それでは話を進めようか。」

陛下の言葉に、父アルトも頷く。





「君から直接返事が聞けて嬉しかったよ。ありがと。」

バルドの素直な言葉に、シャルノアは照れる。

 あの後、王家と伯爵家の繋がりが分かるように夜会当日の席や配置、動きを伝えられた。
 その後、バルド様とドレスについて話すように言われ、2人の時間を貰った。何やら父様は陛下や宰相と詳しく話を詰めたいそうで、若者は席を外すように言われてしまったのである。

 バルド様のお部屋に入り、メイドが入れてくれたお茶を飲む。まだ気持ちに気づいたばかりのシャルノア。2人になると、恥ずかしさが勝るようである。

 「ドレスだけど、任せて貰っていい?実はもう頼んであるんだ。希望の形とかあればまだ修正できるけど。」

「いえ、大丈夫です。」

「……どうしたの?王宮だから緊張してる?」

(いえ、貴方の側だから緊張してます。)

 そんな本音が吐ける訳もなく…どきまぎした心で必死に自分を落ち着かせようとする。

「ねえ?聞いてる?」

 いつの間にやらすぐ側で顔を覗き込んできたバルドに、彼女は驚く。

「聞いてます。驚いてます。緊張してます!」

 後ろに後退りながら答えるシャルノアに、バルドは目を見開く。


「なるほど。こんな姿が見られるとは…この部屋だからかな?それだけ意識して貰えるようになったってこと?」

 ちょっと笑いながら話しかけてくる彼は少し意地悪である。

「私にとっては初めての場所ですし、ここはバルド様のテリトリーなので、勝手が違います!」

 ニコニコしている彼は、絶対に今の状況を楽しんでいる。焦りから、さっきまでの自分の発言が墓穴を掘っているようでシャルノアは恥ずかしくなっていた。

「君は婚約者なんだもの。慣れなきゃね。」

 余裕の笑みのバルド様が憎たらしい。

「バルって呼んで。私もシャルって呼ぶから。話し方も崩してくといいよ。ほら、フィアーノさんが話すみたいに。気楽に話せるようになんないと。」

(バル?王子をそう呼んで平気なの?敬語は??)

 きっと戸惑っているのだろう。言葉に出さず百面相している彼女が可愛くて仕方ない。ブランシェで見ていた姿は少女のように可憐だったが、やはり伯爵令嬢。着飾っている彼女は凛として美しい。

(手に入ったからには愛しまないとね…私の婚約者さん。)


「シャル?ほら、言ってみて。バルって。」

「バル、様?」

「やり直し。もっと気楽に。」

「…バル。」


 言った瞬間に赤面していく彼女。どうしよう。可愛くて仕方ない。

 甘々になったバルドの攻撃は、メイドが迎えの連絡を伝えにくるまで続けられた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

琴姫の奏では紫雲を呼ぶ

山下真響
恋愛
仮想敵国の王子に恋する王女コトリは、望まぬ縁談を避けるために、身分を隠して楽師団へ入団。楽器演奏の力を武器に周囲を巻き込みながら、王の悪政でボロボロになった自国を一度潰してから立て直し、一途で両片思いな恋も実らせるお話です。 王家、社の神官、貴族、蜂起する村人、職人、楽師、隣国、様々な人物の思惑が絡み合う和風ファンタジー。 ★作中の楽器シェンシャンは架空のものです。 ★婚約破棄ものではありません。 ★日本の奈良時代的な文化です。 ★様々な立場や身分の人物達の思惑が交錯し、複雑な人間関係や、主人公カップル以外の恋愛もお楽しみいただけます。 ★二つの国の革命にまつわるお話で、娘から父親への復讐も含まれる予定です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...