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シャルノアとバルド

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「いらっしゃいませ!2名様ですね、こちらへどうぞ。」


 カリニャンの街中、カフェ・ブランシェでは今日も元気なシャルノアの声が響く。伯爵家に戻る予定が増え、ブランシェで働くのは限られた時間となっているのだが、彼女にとってこの時間は至福の時だった。

 「お姉ちゃん、どれが美味しいー?」

 「僕にオススメは、店長特製お子様プレートだね。きっと好きなものがたくさん入ってるよーデザートまであるし。」

   「ほんと⁈ママ、僕コレ!」


 お子様連れのお客様に対応していると、自然と笑顔になれる。若い母親から感謝の言葉を受け、ほっこりした気持ちで席を離れた。違う席では女子トークを楽しむ女子会ランチの輪があるし、カウンターでは常連のおじさまがいつものメニューをゆっくり堪能している。

(やっぱりこの空気感落ち着くなぁ…貴族社会疲れるもの。私には向いてないのかも。)


 

 彼女は既に何度か夜会に参加して、貴族との繋がりを深めている。顔見知りの令嬢たちとのパイプも元通りになり、最近の情報も少しずつ入手できた。
 もうすぐ控えている王家主催の夜会。王子バルドの誕生日祝いのパーティーである。未だ曖昧なままの婚約者が顔を出すのでは、と話題になっているらしい。世の中、噂というのが真実かどうかは関係ないらしい。中には男爵令嬢サラが婚約者として社交界の派閥を率いている、とまで言われているそうだ。

(実際には婚約者の席は空白のままなのよね…。)

 王家に連なる者として、男爵令嬢が並ぶ姿は決して見たくないのだが、適齢を過ぎた王子バルドがいつまでもフリーでいるのはそれはそれで危ない。第2、第3の令嬢がサラのように成り上がりを期待して王子に近づく可能性もあれば、王家の権力を削ぎたい勢力が娘を差し出し、バルドを傀儡の王として操ろうと企む者も出てくるだろう。
 何より、バルドは立太子するまでに婚約者を決めねばならない。彼自身にも焦りはあるだろう。王家の者もヤキモキしているはずだ。

(そう、バルド様は婚約者の方を迎えねばならないのよ…)

 現実的な考えを頭の中で繰り広げていたシャルノアは、ズキッとした痛みを自分の中に感じた。お店で会う彼は、この国の唯一の王子なのである。今は楽しくても、いつかお店に来れなくなる日がきっとくるハズだ。

(その日が来るのが寂しい…。なんて、私の我儘よね。)


 ランチ終了間際の落ち着いた時間、お客さんが少ないことを理由に物思いに耽りすぎたとシャルノアは自覚した。
気合いを入れ直して片付けに向かおうとすると、

カランッ。

扉を開ける音に振り向くと、そこにはフードを被ってお忍びスタイルのバルドが立っていた。

「バルド様、いらっしゃいませ。今日は遅かったのですね?ランチタイムは終わってしまったのですが、フィアーノさんにお願いしてきましょうか?」

「いゃ、今日は食事はいいんだ。話がしたくて…シャルノア嬢、少し時間を貰えないかな?」

 フロアの様子と、キッチン、時計やヴァンの様子を確認し、

「ランチの片付けが終われば休憩になると思いますので、少しお待ち頂けますか?」


 カウンターで待ってもらい、素早く片付けを済ませたシャルノアはキッチンにいるフィアーノに声をかけ、ヴァンの許可を得てから戻ってきた。
 制服姿を誤魔化すためにカーディガンを羽織り、バルドの元を訪れると、歩きながら話そう、と、散歩に誘われた。
 
 なんとなく口数の少ない彼の様子に、今日は重たい話?大事な話なのか…相談事?と理由を考えながら、1歩後ろをついて歩く。
 
 しばらく歩いたところで、近くの噴水横のベンチに座った2人。沈黙が続くことに気まずさを感じていたシャルノアはそっとバルドの様子を伺う。
 どこか緊張したような、ソワソワした様子を不思議に思いながら、彼が口を開くのを待つことにする。

 噴水の流れる水の音、近くの子どもたちの声、お店の人たちの声など、カリニャンの街らしい喧騒さが感じられ、目を閉じ、美味しい空気を吸って、ついのほほんとしてしまった。

「…すまない。お店の中ででも良かったんだが、どうしてもこの話は2人だけで話したくて。」

 凛とした声で話し出したバルド。
 顔を向けると、シャルノアの目をじっと見つめ、
 言葉1つ1つを確かめるように、慎重に語り出した。
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