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アルトの目論見
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ムートン伯爵家主催の夜会には、幅広い貴族が招待された。当主カルロは招待状の送り先と参加の有無全てを把握していた。全ては長年の付き合いであるアルトの依頼のため。リスト化されたその情報は夜会当日に本人に渡すことになっている。
(やはり子爵家以下の動きが目立つな…。)
社交界に出てはいなくとも、独自のやり方で社会情勢は掴んでいるアルト。今回の夜会には王家の人間が参加していないため、比較的動きやすくなるだろうと見ていた。
案の定、会場の出入りや貴族同士の会話の様子から、今までとは違う動きが見られた。
バルドが男爵令嬢サラを選んだことで、騒動当時オーロ男爵と繋がりを持とうとする貴族は圧倒的に多かった。シャルノアの実家であるモンティ家を始め、伯爵家の者は婚約者候補となっていた令嬢も多く、あえて男爵との繋がりを目論むまでもないのだが、子爵家以下となると変わってくる。自分の家の子どもを、王太子妃の侍女や側近にと考える者は元々多い。それが身上の伯爵家であれば難しいとされるが、男爵家であれば。少し強気に出れば…金銭にものを言わせれば…と、良からぬ考えで欲を出すものが出てくるのである。
だが、実際には、サラは見限られ、王子は再び婚約者候補を募ることになる。現時点ではまだ詳細が伝わっておらず、噂の範囲内でしかない。だが、近く王家主催の夜会も開かれることだろう。王子が次の動きを明確にすれば、また貴族内の繋がりは変わってくるだろう。その前にアルトは現状を把握したかった。
「どうだ?楽しめているか?」
人間観察をしていたアルトの側に、そっと近づいてきたムートン家当主カルロ。
「あぁ。無理を言ってすまなかったな。準備期間が短くて大変だっただろう?」
「まあな。戦場に出るよりはマシだ。やっとお前の顔が見れて安心したよ。コレ、約束のもの。」
サッと渡された紙を、アルトはすぐさま胸の内にしまう。
「助かったよ。これからまた忙しくなりそうだ。」
「ハハッ。お前は得意だろ?貴族の心理戦は俺にはサッパリだが、何度も助けてもらったからな。」
学生時代から、カルロは気さくな話し方を続けている。国王であるモルトや宰相リディスと同じく同期の彼は、誰にでも打ち解け、男女問わず顔が広い。騎士団で皆に慕われているのにも納得なのだが、そんなカルロがよく対戦していた相手、それがアルトなのである。実力があるのだから、と騎士団に勧誘され続けたものの、最後まで首を縦に振る事はなかった。しばらく疎遠になってはいたが、今では同じ伯爵家当主、話が通じることも多く、連絡を取り合っている。
「それにしても、シャルちゃんは相変わらずキレイだね。うちの奴にも見習わせたいくらいだ。」
「意外とやんちゃな所は話が合うかもしれないぞ?社交界デビューはもうすぐか?」
「来年だな。お転婆過ぎてまだ礼儀作法が心配なんだがな。」
ムートン家にも娘が1人いる。騎士団長の娘ということで、運動神経は抜群なのだが、お淑やかさという部分では頭を抱える程らしい。
(案外シャルノアは気が合うかもしれないな。)
そのうち会わせてみるか、と話しながらアルトたちの目は会場内を行き交う。
「やはり中心はオーロ男爵か?」
「…今の所は、だな。彼だけで対応できる量じゃないハズだ。そんな器用でもなかったしな。後ろに誰かいる気がしてならない。」
「モンティ家を敵に回すヤツがいるか?王家ならまだしも、お前の家最恐だろ。リュカも強いし、シャルちゃんが本気出したら社交界なんて怖いものナシだろ?」
「んー、どうかな?本人がやる気になればだね。まだ気楽にさせてるから。」
そう言いながら見る視線の先には令嬢たちと笑い合うシャルノアがいる。
騒動後は目も当てられないくらいだったが、今は前よりも自然体で表情豊かになっている。
(ますますメアリーに似てきたな…。)
今のシャルノアならば惹かれる者も多く、慕う者も男女問わず増えてくるだろう。そんな彼女が今の笑顔を失わないよう、環境を整えていくのがアルトの仕事である。
(今はまだ、な。そのうち譲る相手が出てくるだろうが…)
未来の娘婿に対して楽しみにしながらも、まだ早いか、と口元を緩めるアルトだった。
(やはり子爵家以下の動きが目立つな…。)
社交界に出てはいなくとも、独自のやり方で社会情勢は掴んでいるアルト。今回の夜会には王家の人間が参加していないため、比較的動きやすくなるだろうと見ていた。
案の定、会場の出入りや貴族同士の会話の様子から、今までとは違う動きが見られた。
バルドが男爵令嬢サラを選んだことで、騒動当時オーロ男爵と繋がりを持とうとする貴族は圧倒的に多かった。シャルノアの実家であるモンティ家を始め、伯爵家の者は婚約者候補となっていた令嬢も多く、あえて男爵との繋がりを目論むまでもないのだが、子爵家以下となると変わってくる。自分の家の子どもを、王太子妃の侍女や側近にと考える者は元々多い。それが身上の伯爵家であれば難しいとされるが、男爵家であれば。少し強気に出れば…金銭にものを言わせれば…と、良からぬ考えで欲を出すものが出てくるのである。
だが、実際には、サラは見限られ、王子は再び婚約者候補を募ることになる。現時点ではまだ詳細が伝わっておらず、噂の範囲内でしかない。だが、近く王家主催の夜会も開かれることだろう。王子が次の動きを明確にすれば、また貴族内の繋がりは変わってくるだろう。その前にアルトは現状を把握したかった。
「どうだ?楽しめているか?」
人間観察をしていたアルトの側に、そっと近づいてきたムートン家当主カルロ。
「あぁ。無理を言ってすまなかったな。準備期間が短くて大変だっただろう?」
「まあな。戦場に出るよりはマシだ。やっとお前の顔が見れて安心したよ。コレ、約束のもの。」
サッと渡された紙を、アルトはすぐさま胸の内にしまう。
「助かったよ。これからまた忙しくなりそうだ。」
「ハハッ。お前は得意だろ?貴族の心理戦は俺にはサッパリだが、何度も助けてもらったからな。」
学生時代から、カルロは気さくな話し方を続けている。国王であるモルトや宰相リディスと同じく同期の彼は、誰にでも打ち解け、男女問わず顔が広い。騎士団で皆に慕われているのにも納得なのだが、そんなカルロがよく対戦していた相手、それがアルトなのである。実力があるのだから、と騎士団に勧誘され続けたものの、最後まで首を縦に振る事はなかった。しばらく疎遠になってはいたが、今では同じ伯爵家当主、話が通じることも多く、連絡を取り合っている。
「それにしても、シャルちゃんは相変わらずキレイだね。うちの奴にも見習わせたいくらいだ。」
「意外とやんちゃな所は話が合うかもしれないぞ?社交界デビューはもうすぐか?」
「来年だな。お転婆過ぎてまだ礼儀作法が心配なんだがな。」
ムートン家にも娘が1人いる。騎士団長の娘ということで、運動神経は抜群なのだが、お淑やかさという部分では頭を抱える程らしい。
(案外シャルノアは気が合うかもしれないな。)
そのうち会わせてみるか、と話しながらアルトたちの目は会場内を行き交う。
「やはり中心はオーロ男爵か?」
「…今の所は、だな。彼だけで対応できる量じゃないハズだ。そんな器用でもなかったしな。後ろに誰かいる気がしてならない。」
「モンティ家を敵に回すヤツがいるか?王家ならまだしも、お前の家最恐だろ。リュカも強いし、シャルちゃんが本気出したら社交界なんて怖いものナシだろ?」
「んー、どうかな?本人がやる気になればだね。まだ気楽にさせてるから。」
そう言いながら見る視線の先には令嬢たちと笑い合うシャルノアがいる。
騒動後は目も当てられないくらいだったが、今は前よりも自然体で表情豊かになっている。
(ますますメアリーに似てきたな…。)
今のシャルノアならば惹かれる者も多く、慕う者も男女問わず増えてくるだろう。そんな彼女が今の笑顔を失わないよう、環境を整えていくのがアルトの仕事である。
(今はまだ、な。そのうち譲る相手が出てくるだろうが…)
未来の娘婿に対して楽しみにしながらも、まだ早いか、と口元を緩めるアルトだった。
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