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穏やかな毎日
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「「ありがとうございましたー。」」
丁寧にお辞儀をしてお客さんを送り出す。
「よし、今日も終了。閉めるぞー。」
夜9時、ブランシュの閉店時間である。ランチタイムが人気のカフェだが、仕事終わりや夕飯時もそれなりに混み合う。これ以降の時間のお客さんは居酒屋へと向かうハズなので、最後のお客さんを送り出したら少し早くても閉店作業に移る。
「シャルはフロアが片付いたら上がっていーぞ。賄い食べてくか?」
「はい!お願いします。」
「オッケー。相方ちゃんの分はタッパー弁当にしてあるから。」
「わぁーい。ありがとうございます!」
始めの頃は緊張して断っていた賄いも、朝のお買い物で慣れてきた最近は甘えてしまっている。フィアーノとの会話が増えたこともあるが、女の子2人でシェアハウスをしているというシャルノアたちの事情を聞いて、心配されるようになった。若い女の子たちが荒れた食生活してたらすぐに倒れちゃうから、というのがフィアーノの見解らしい。店のランチの残りで余っても困るから…と言われ、押し付けられるようになった弁当もナナはとても楽しみにしている。
(ほんと、ここで働けて良かった。)
店舗マネージャーのヴァンは口数は少ないが、人間観察が趣味で、状況把握が的確である。始めの頃、慣れない仕事でアタフタしていたシャルノアをさりげなくフォローしてくれていた。置き忘れていたボールペンがさりげなく手元にあったり、通りがかりでシャルノアが持っていたお皿を一緒に下げてくれたりと、彼女自身気づいていない所までよく見ている。ヴァンに言わせると、表情に出ていたり、視線が訴えていたりするそうだが、彼でなければスルーされる所だと思う。
シャルノアが賄いを食べている間も、フィアーノは次の日の仕込みをしたり、在庫確認をしたりとずっと仕事をしている。
(疲れたり、仕事嫌になったりしないのかな?)
朝早く、夜遅くとこの仕事は拘束時間が長い。容姿が優れている彼が独り身なのも仕事が忙しいからなのではないだろうか?
カラン、カラン。
入口の音が聞こえ、視線を向けるとナナが来た。
「ん、どうしたの?」
「仕事終わりだけど、まだいそうな気がして寄ってみたの。お礼直接言いたかったし。」
慣れた様子で厨房に向かい、フィアーノさんにお礼を伝えている。
シャルノアが働き出してすぐ、ナナは心配だからと何度かお客さんとして来てくれていた。カウンター越しに話をしていた事で、シャルノアの友人ということを理解してくれ、フィアーノもヴァンもナナが来たら快く迎え入れてくれる。
「シャル、お土産にイチゴ貰っちゃった。」
戻ってきたナナの手には、不揃いの形のイチゴが入った紙袋がある。
「それ、今日の頂き物。半分は店でソースとして使ったから、あとは食べな。形は悪いけど甘くて美味しいぞ。」
(私たち、完全に胃袋捕まえられてる気がする…。)
笑顔でお礼を言い、ナナと一緒に帰宅する。
「今日はどうでした?」
「ランチのピークがすごかったよ。ギルドで対応してくれた職員さんも食べに来てた。たまに外で食べるのが忙しいギルドの仕事のご褒美なんだって。」
「私は毎日でも食べたいですけどね。ブランシュのご飯はほんと美味しいですから。」
ナナも大絶賛のカフェ.ブランシュの味。何より、フィアーノもヴァンも私たちにとってはお兄さん的存在である。ナナは仕事先では良いご縁がないようで、たまに見るヴァンの流し目に癒されているらしい。
「ナナはお仕事どうだった?」
「覚える事がたくさんあって頭がパンクしそうです…。」
ナナの働いている救護院では年に1回昇格試験がある。救護院での仕事がきっかけで医療の道に進む人は多くいる。職場の環境改善の為でもあり、働き手を増やす目的も兼ねているらしく、下働きのナナにも丁寧に技術授与が行われる。資格を取る為、本格的に勉強しだしたナナは泣き言を言いながらも知識を蓄えていく。
こんな毎日が今の私たちの日常である。煩わしい事から逃れて、日々忙しく過ごしている。
丁寧にお辞儀をしてお客さんを送り出す。
「よし、今日も終了。閉めるぞー。」
夜9時、ブランシュの閉店時間である。ランチタイムが人気のカフェだが、仕事終わりや夕飯時もそれなりに混み合う。これ以降の時間のお客さんは居酒屋へと向かうハズなので、最後のお客さんを送り出したら少し早くても閉店作業に移る。
「シャルはフロアが片付いたら上がっていーぞ。賄い食べてくか?」
「はい!お願いします。」
「オッケー。相方ちゃんの分はタッパー弁当にしてあるから。」
「わぁーい。ありがとうございます!」
始めの頃は緊張して断っていた賄いも、朝のお買い物で慣れてきた最近は甘えてしまっている。フィアーノとの会話が増えたこともあるが、女の子2人でシェアハウスをしているというシャルノアたちの事情を聞いて、心配されるようになった。若い女の子たちが荒れた食生活してたらすぐに倒れちゃうから、というのがフィアーノの見解らしい。店のランチの残りで余っても困るから…と言われ、押し付けられるようになった弁当もナナはとても楽しみにしている。
(ほんと、ここで働けて良かった。)
店舗マネージャーのヴァンは口数は少ないが、人間観察が趣味で、状況把握が的確である。始めの頃、慣れない仕事でアタフタしていたシャルノアをさりげなくフォローしてくれていた。置き忘れていたボールペンがさりげなく手元にあったり、通りがかりでシャルノアが持っていたお皿を一緒に下げてくれたりと、彼女自身気づいていない所までよく見ている。ヴァンに言わせると、表情に出ていたり、視線が訴えていたりするそうだが、彼でなければスルーされる所だと思う。
シャルノアが賄いを食べている間も、フィアーノは次の日の仕込みをしたり、在庫確認をしたりとずっと仕事をしている。
(疲れたり、仕事嫌になったりしないのかな?)
朝早く、夜遅くとこの仕事は拘束時間が長い。容姿が優れている彼が独り身なのも仕事が忙しいからなのではないだろうか?
カラン、カラン。
入口の音が聞こえ、視線を向けるとナナが来た。
「ん、どうしたの?」
「仕事終わりだけど、まだいそうな気がして寄ってみたの。お礼直接言いたかったし。」
慣れた様子で厨房に向かい、フィアーノさんにお礼を伝えている。
シャルノアが働き出してすぐ、ナナは心配だからと何度かお客さんとして来てくれていた。カウンター越しに話をしていた事で、シャルノアの友人ということを理解してくれ、フィアーノもヴァンもナナが来たら快く迎え入れてくれる。
「シャル、お土産にイチゴ貰っちゃった。」
戻ってきたナナの手には、不揃いの形のイチゴが入った紙袋がある。
「それ、今日の頂き物。半分は店でソースとして使ったから、あとは食べな。形は悪いけど甘くて美味しいぞ。」
(私たち、完全に胃袋捕まえられてる気がする…。)
笑顔でお礼を言い、ナナと一緒に帰宅する。
「今日はどうでした?」
「ランチのピークがすごかったよ。ギルドで対応してくれた職員さんも食べに来てた。たまに外で食べるのが忙しいギルドの仕事のご褒美なんだって。」
「私は毎日でも食べたいですけどね。ブランシュのご飯はほんと美味しいですから。」
ナナも大絶賛のカフェ.ブランシュの味。何より、フィアーノもヴァンも私たちにとってはお兄さん的存在である。ナナは仕事先では良いご縁がないようで、たまに見るヴァンの流し目に癒されているらしい。
「ナナはお仕事どうだった?」
「覚える事がたくさんあって頭がパンクしそうです…。」
ナナの働いている救護院では年に1回昇格試験がある。救護院での仕事がきっかけで医療の道に進む人は多くいる。職場の環境改善の為でもあり、働き手を増やす目的も兼ねているらしく、下働きのナナにも丁寧に技術授与が行われる。資格を取る為、本格的に勉強しだしたナナは泣き言を言いながらも知識を蓄えていく。
こんな毎日が今の私たちの日常である。煩わしい事から逃れて、日々忙しく過ごしている。
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