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身についてしまった癖

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 その頃、ゲルド辺境伯領シラーの街では…

カンッ カッ カンッ

「お嬢、バテてきてますよ。」
「なっ、まだまだっ。」

屈強な辺境伯騎士団に混じって、華奢な身体の娘が木刀を降っていた。


「あと、5分ほどですかね…」

側で見守るのはメイドのナナ。きっかり5分を迎える頃、木刀が弾かれ、シャルノアは手を止めざるを得なかった。

「ありがと。」

タオルと飲み物をナナに渡され、休憩をとる。ここ数日シャルノアは稽古に混ざるようになったのだが、理想の動きまではほど遠く、思うようにできないことが悔しかった。ひとまず練習あるのみと、今日もがむしゃらに稽古に励んでいる。



「何あれ?あいつ騎士にでもなりたいの?」

見回りの仕事を終え、訓練場に様子を見に来たバズがナナに尋ねた。

「そうは考えてないと思います。集中してるんでしょう。」
「そうなの?えらく必死だけど…」

「お嬢様の悪い癖?王宮で身につけた技といいますか?常に上に、足元を見られないよう頑張り続けた弊害ですかね…手を抜くことが出来ないんですよ。強迫観念のようなものですね。」

ナナは、シャルノアを見ながら呆れたように話す。

「まるで失恋を振り切るかのような必死さで。」
「えっ、王子にそんな惚れてたの?」
「いえ全く。」

あまりの即答に苦笑いになるバズ。

「じゃあなんで?」
「不安なんじゃないですか?こうあるべきって決められた道を進んでたのに、途中で消えちゃって。きっと前には沢山の道があるんですけど、今まで他所見せずに進んできたせいで気づけなくて。少しでも前に進みたくて焦ってるんだと思います。」
「…なるほど。」

「お嬢様には早く自由になって欲しいと思ってましたけど、なかなか上手くいかないですね。昔みたいに好きに動くことが難しいみたいです。」

シャルノアを見つめながら、どこか寂しそうに話すナナ。
2人が幼い頃ケラケラ笑いながら走り回って、大人を困らせていた姿を思い出して、バズは言う。

「それだけ、大人になったってことだろ。立ち止まることも振り返ることも必要な時はあるさ。周りを見る余裕が出来たら、進む方向も不思議と見えてくる。今はナナが止めてやればいい。シャルの暴走には慣れっこだろ?」
「…慣れても厄介なのは変わらないですね。」


「まぁ、そろそろ止めないと怪我しそうだな…」

様子を見ていたバズは近くの木刀を手に取り、シャルノアの元へと向かう。相手をしていた騎士に目配せで避けてもらい、彼女の剣を受ける。

「バズ⁈えっ、ちょ、待っ。」

一気に重たくなった剣に必死に堪えるも、バズの剣は早くあっという間に追い込まれてしまう。

「だー。無理。バズの相手は今無理!。」
「ははははっ。俺がシャルに負ける訳がない。分かったら少し休め。そろそろ腕が限界だろ。」

確かに、気づくと自分の手は震えている。

(ありゃ?気づかなかった…)

不思議そうに手を見ているシャルノアの頭をポンっと叩き、

「ほどほどに。やり過ぎると握れなくなるぞ。」

仕方ないな。とでも言うかのような視線に、居た堪れなくなってしまった。

「ほら、着替えてこい。今日は終わり。ナナが暇そうにしてるから、相手してやんな。街に出るぞ。」
「お買い物!分かった。」


嬉しそうに目を輝かせて走り出すシャルノア。バズの視線の先には礼をするナナがいる。

(止めたことへのお礼かな?)

ふっ。と笑いながら、屋敷へ戻り出した2人を見つめる。

(ホントに…嫌な癖覚えさせてくれたよ、王家も。)

王宮に向かわせるんじゃなかったな、としみじみ感じるバズだったが、ふと、

(いゃ、親か俺は。)

と、気づき、苦笑いになるのであった。
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