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曇りなき眼で見えたもの

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 この日、モルトは熟考していた。エクスホード国の国王になってから、ここまで心身共に疲れ切っているのは初めてかもしれない。そう思いたくなるほど、頭を抱えていた。
 先日の夜会で息子がやらかした騒動。貴族から次々に上がってくる諫言や進言、批判に対して、宰相と協力して対応していた。それこそ、休む間もなく。

 だからこそ、思う。強く疑問に思う。

(何故彼女なんだ?シャルノアの何が問題だ?)と…。


 王妃ロアーナとは政略結婚だったが、理知的で夫に献身的な彼女とは馬が合い、子宝にも恵まれた。どの子にも同じように愛情を注ぎ、王族として恥ずかしくないように育ててきたつもりだった。そう、つもり、だったのだ。



 夜会後すぐに王子バルドを呼び、王妃と共に話を聞いた。どんな理由でどんな意図があって今回の件に至ったのか。しっかりとした意見があれば、モルトは彼を支持するつもりだった。例え次期王太子として相応しくない態度でも、間違った思考を持っていても、確固たる意思で貫き通すのが王族で、優秀と言われ続けた唯一の王子なのだ。少しの助力で次世代の道がしっかりと定まるのであれば、その道を伸ばすくらいはしてやろうと思っていた。

 だが、蓋を開けてみれば…

(いつからあんな考えナシに…)

モルトは愚息が起こしたあの騒動の夜を思い出していた。



「バルド、今回の件どう説明する?」
「……。」

「今日、婚約者の決定を発表するつもりだったのよ?貴族院との話し合いでは満場一致でシャルノア嬢だったの。それを覆すだけの理由があるのよね?」
「……。」

 あの発表の場で、国王よりも先に発言した王子。本来の発表もままならず、違うという訳にもいかず、王族はみな王子の発言に驚き固まってしまった。今となれば、その場でならまだ違う対処も出来たのだ、と後悔すらしている。

「バルド!!」
「はい⁈」

「お前には説明責任がある。王族として、あの発言をしたのだ。何を考えて、どんな理由があるのか、私たちには知る権利がある。聞かなければ今後の対応にも活かせない。…聞かせてくれ。」

黙っていてもダメだと分かったのだろう。国王に名を呼ばれ目の覚めたバルドは、しっかりと前を見据え、目を合わせ言う。

「直感的に彼女が良いと思ったんです。一生を共にするなら、他の誰でもなく彼女だと。足りない所は私が補います。基礎教育を受けて、彼女と仲良くなれば母上たちにも分かって頂けると思います。」

「…シャルノア嬢や他の候補者が王宮に通って基礎教育を受けてきたことは知ってるわよね?ただでさえ遅れているものを…令嬢たちの努力を苦労を、貴方は否定するつもり?」

王妃の表情が少しずつ曇っていく。

「彼女は素直で純粋で、汚れを知りません。柔らかいスポンジのように、これから沢山吸収してくれるはずです。」

(汚れを知らないことが良しとされる世界ではないわ。貴方にも見せるべきだった。)

王妃の不安は当たってしまったのだ。唯一の王子、その事実が彼の甘さと無意味な自信を生み出してしまっている。

「そう…王女たちには伝えたの?」
「これからです。彼女に会えば、仲良くなれば、受け入れてくれるはずです。」

(あの子たちが受け入れる要素がないのだけれど?この顔そんなこと気づいてないわよね。)

王妃は側で見守る国王へと視線をうつす。彼の目からは自分と同じ呆れを感じる。

「バルド、ならばサラ嬢のことはお前が責任をもてるのだな?」
「はい。私の唯一無二の相手ですので。」
「…承知した。下がると良い。」

王子の退出と共に、国王と王妃は揃ってため息をついた。



「ロアーナ、サラ嬢が基礎教育を終えるにはどれくらいだ?」
「シャルノア嬢で5年です。他の候補者はあと2、3年後ですね。それでも到底並ぶには至りませんでしたが。」
「順調にいったとして7年後、22歳か。立太子としては遅いが出来ないことはないか…」
「本気でおっしゃってます?それよりもアメリアが良い婿を迎える方が早いですわよ?シャルロッテでも彼女よりは早いですわ。」
「ふむ。まぁ、現実を知るには実体験しかなかろう。サラ嬢がもつかどうか、試すしかあるまい。」
「バルドの意思を尊重すると?」
「…対応するのは我々だ。後々のためにも。バルドの隣はシャルノア嬢しかあるまい?」
「何とかなると?」
「何とかしたいとは思っているが…厳しいだろうな。まずは動いてみよう。」

 そう話し合ってから2週間。モルトの心は既に折れかけている。シャルノア嬢を迎えていれば、こんな苦労せずとも新しい家族を迎え、早々と引き継ぎを済ませていたはずだ。

(どうして、こうなってしまった?)
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