12 / 100
曇りなき眼で見えたもの
しおりを挟む
この日、モルトは熟考していた。エクスホード国の国王になってから、ここまで心身共に疲れ切っているのは初めてかもしれない。そう思いたくなるほど、頭を抱えていた。
先日の夜会で息子がやらかした騒動。貴族から次々に上がってくる諫言や進言、批判に対して、宰相と協力して対応していた。それこそ、休む間もなく。
だからこそ、思う。強く疑問に思う。
(何故彼女なんだ?シャルノアの何が問題だ?)と…。
王妃ロアーナとは政略結婚だったが、理知的で夫に献身的な彼女とは馬が合い、子宝にも恵まれた。どの子にも同じように愛情を注ぎ、王族として恥ずかしくないように育ててきたつもりだった。そう、つもり、だったのだ。
夜会後すぐに王子バルドを呼び、王妃と共に話を聞いた。どんな理由でどんな意図があって今回の件に至ったのか。しっかりとした意見があれば、モルトは彼を支持するつもりだった。例え次期王太子として相応しくない態度でも、間違った思考を持っていても、確固たる意思で貫き通すのが王族で、優秀と言われ続けた唯一の王子なのだ。少しの助力で次世代の道がしっかりと定まるのであれば、その道を伸ばすくらいはしてやろうと思っていた。
だが、蓋を開けてみれば…
(いつからあんな考えナシに…)
モルトは愚息が起こしたあの騒動の夜を思い出していた。
「バルド、今回の件どう説明する?」
「……。」
「今日、婚約者の決定を発表するつもりだったのよ?貴族院との話し合いでは満場一致でシャルノア嬢だったの。それを覆すだけの理由があるのよね?」
「……。」
あの発表の場で、国王よりも先に発言した王子。本来の発表もままならず、違うという訳にもいかず、王族はみな王子の発言に驚き固まってしまった。今となれば、その場でならまだ違う対処も出来たのだ、と後悔すらしている。
「バルド!!」
「はい⁈」
「お前には説明責任がある。王族として、あの発言をしたのだ。何を考えて、どんな理由があるのか、私たちには知る権利がある。聞かなければ今後の対応にも活かせない。…聞かせてくれ。」
黙っていてもダメだと分かったのだろう。国王に名を呼ばれ目の覚めたバルドは、しっかりと前を見据え、目を合わせ言う。
「直感的に彼女が良いと思ったんです。一生を共にするなら、他の誰でもなく彼女だと。足りない所は私が補います。基礎教育を受けて、彼女と仲良くなれば母上たちにも分かって頂けると思います。」
「…シャルノア嬢や他の候補者が王宮に通って基礎教育を受けてきたことは知ってるわよね?ただでさえ遅れているものを…令嬢たちの努力を苦労を、貴方は否定するつもり?」
王妃の表情が少しずつ曇っていく。
「彼女は素直で純粋で、汚れを知りません。柔らかいスポンジのように、これから沢山吸収してくれるはずです。」
(汚れを知らないことが良しとされる世界ではないわ。貴方にも見せるべきだった。)
王妃の不安は当たってしまったのだ。唯一の王子、その事実が彼の甘さと無意味な自信を生み出してしまっている。
「そう…王女たちには伝えたの?」
「これからです。彼女に会えば、仲良くなれば、受け入れてくれるはずです。」
(あの子たちが受け入れる要素がないのだけれど?この顔そんなこと気づいてないわよね。)
王妃は側で見守る国王へと視線をうつす。彼の目からは自分と同じ呆れを感じる。
「バルド、ならばサラ嬢のことはお前が責任をもてるのだな?」
「はい。私の唯一無二の相手ですので。」
「…承知した。下がると良い。」
王子の退出と共に、国王と王妃は揃ってため息をついた。
「ロアーナ、サラ嬢が基礎教育を終えるにはどれくらいだ?」
「シャルノア嬢で5年です。他の候補者はあと2、3年後ですね。それでも到底並ぶには至りませんでしたが。」
「順調にいったとして7年後、22歳か。立太子としては遅いが出来ないことはないか…」
「本気でおっしゃってます?それよりもアメリアが良い婿を迎える方が早いですわよ?シャルロッテでも彼女よりは早いですわ。」
「ふむ。まぁ、現実を知るには実体験しかなかろう。サラ嬢がもつかどうか、試すしかあるまい。」
「バルドの意思を尊重すると?」
「…対応するのは我々だ。後々のためにも。バルドの隣はシャルノア嬢しかあるまい?」
「何とかなると?」
「何とかしたいとは思っているが…厳しいだろうな。まずは動いてみよう。」
そう話し合ってから2週間。モルトの心は既に折れかけている。シャルノア嬢を迎えていれば、こんな苦労せずとも新しい家族を迎え、早々と引き継ぎを済ませていたはずだ。
(どうして、こうなってしまった?)
先日の夜会で息子がやらかした騒動。貴族から次々に上がってくる諫言や進言、批判に対して、宰相と協力して対応していた。それこそ、休む間もなく。
だからこそ、思う。強く疑問に思う。
(何故彼女なんだ?シャルノアの何が問題だ?)と…。
王妃ロアーナとは政略結婚だったが、理知的で夫に献身的な彼女とは馬が合い、子宝にも恵まれた。どの子にも同じように愛情を注ぎ、王族として恥ずかしくないように育ててきたつもりだった。そう、つもり、だったのだ。
夜会後すぐに王子バルドを呼び、王妃と共に話を聞いた。どんな理由でどんな意図があって今回の件に至ったのか。しっかりとした意見があれば、モルトは彼を支持するつもりだった。例え次期王太子として相応しくない態度でも、間違った思考を持っていても、確固たる意思で貫き通すのが王族で、優秀と言われ続けた唯一の王子なのだ。少しの助力で次世代の道がしっかりと定まるのであれば、その道を伸ばすくらいはしてやろうと思っていた。
だが、蓋を開けてみれば…
(いつからあんな考えナシに…)
モルトは愚息が起こしたあの騒動の夜を思い出していた。
「バルド、今回の件どう説明する?」
「……。」
「今日、婚約者の決定を発表するつもりだったのよ?貴族院との話し合いでは満場一致でシャルノア嬢だったの。それを覆すだけの理由があるのよね?」
「……。」
あの発表の場で、国王よりも先に発言した王子。本来の発表もままならず、違うという訳にもいかず、王族はみな王子の発言に驚き固まってしまった。今となれば、その場でならまだ違う対処も出来たのだ、と後悔すらしている。
「バルド!!」
「はい⁈」
「お前には説明責任がある。王族として、あの発言をしたのだ。何を考えて、どんな理由があるのか、私たちには知る権利がある。聞かなければ今後の対応にも活かせない。…聞かせてくれ。」
黙っていてもダメだと分かったのだろう。国王に名を呼ばれ目の覚めたバルドは、しっかりと前を見据え、目を合わせ言う。
「直感的に彼女が良いと思ったんです。一生を共にするなら、他の誰でもなく彼女だと。足りない所は私が補います。基礎教育を受けて、彼女と仲良くなれば母上たちにも分かって頂けると思います。」
「…シャルノア嬢や他の候補者が王宮に通って基礎教育を受けてきたことは知ってるわよね?ただでさえ遅れているものを…令嬢たちの努力を苦労を、貴方は否定するつもり?」
王妃の表情が少しずつ曇っていく。
「彼女は素直で純粋で、汚れを知りません。柔らかいスポンジのように、これから沢山吸収してくれるはずです。」
(汚れを知らないことが良しとされる世界ではないわ。貴方にも見せるべきだった。)
王妃の不安は当たってしまったのだ。唯一の王子、その事実が彼の甘さと無意味な自信を生み出してしまっている。
「そう…王女たちには伝えたの?」
「これからです。彼女に会えば、仲良くなれば、受け入れてくれるはずです。」
(あの子たちが受け入れる要素がないのだけれど?この顔そんなこと気づいてないわよね。)
王妃は側で見守る国王へと視線をうつす。彼の目からは自分と同じ呆れを感じる。
「バルド、ならばサラ嬢のことはお前が責任をもてるのだな?」
「はい。私の唯一無二の相手ですので。」
「…承知した。下がると良い。」
王子の退出と共に、国王と王妃は揃ってため息をついた。
「ロアーナ、サラ嬢が基礎教育を終えるにはどれくらいだ?」
「シャルノア嬢で5年です。他の候補者はあと2、3年後ですね。それでも到底並ぶには至りませんでしたが。」
「順調にいったとして7年後、22歳か。立太子としては遅いが出来ないことはないか…」
「本気でおっしゃってます?それよりもアメリアが良い婿を迎える方が早いですわよ?シャルロッテでも彼女よりは早いですわ。」
「ふむ。まぁ、現実を知るには実体験しかなかろう。サラ嬢がもつかどうか、試すしかあるまい。」
「バルドの意思を尊重すると?」
「…対応するのは我々だ。後々のためにも。バルドの隣はシャルノア嬢しかあるまい?」
「何とかなると?」
「何とかしたいとは思っているが…厳しいだろうな。まずは動いてみよう。」
そう話し合ってから2週間。モルトの心は既に折れかけている。シャルノア嬢を迎えていれば、こんな苦労せずとも新しい家族を迎え、早々と引き継ぎを済ませていたはずだ。
(どうして、こうなってしまった?)
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。
宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。
だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!?
※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる