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今したいことは?

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 父の書斎に入ると、落ち着いたゼラニウムの香りがした。安心する、家族の香り。

「父様、お話とはなんでしょう?」
「ん?まぁ、座ってお茶でもしながらな。」

メイドに淹れて貰ったお茶を飲みながら、ひと息つく。思い返せば、こんなゆったりした時間も久しぶりである。腹立たしい騒動ではあったが、気落ちするばかりではないのかもしれない。

「今回の件、シャルが謝る必要はない。王家の失態、バカ王子のしでかしたことだ。世間体を守ったものの、どこかでボロが出るものさ。長年我慢させて、すまなかった。」

父の謝罪の言葉に、シャルノアはびっくりしていた。母親同様、王家に嫁ぐことを望んでいるものだと思っていた。父の決めた道を進めば間違いはない、と、どこかそう思っていた自分がいた。

「そんな…確かに我慢はしましたが、得られたものも沢山あります。私なりに楽しんでましたので。」
「そうならいいが。シャル、今したいことはあるかい?」

(したいこと…何かしら。思いつかないわね。)

「昔ならナナと買い物に行きたいとかリュカ兄と遠駆けしたいとか、いろいろ出てきたものだよ?我慢し続けてきた弊害なんだろう。欲を出さず、望まれたものを享受する。王家には美徳とされたのだろうが、これもきっかけだ。
シャルがやりたいこと、進みたい道、自分で決めて良いんだ。勿論、道を外しそうな時は叱るし、反対もするが。」

(自分で決めて良い…やりたいこと?進みたい道?)

「今はまだ戸惑いが多いだろう。しばらく辺境に行ってみないか?煩わしい噂話も、王家からの横やりも、あの場所なら避けられる。幸いシャルはまだ14歳だ。急いで何かを決める必要はない。バズには伝えて、許可は貰った。
こちらが片付いたらリュカを連れて私たちも向かうよ。」
 
 辺境の地。幼い頃夢中になって走り回っていた懐かしい街。

「…行きたいです。」
「決まりだな。」

嬉しそうに笑う父の顔は、どこかホッとしたような安堵の表情だった。

「片付いたら、と言うのは?騒動の件ですか?」
「それもあるが…そっちはすぐには終わらないだろう。王家も粘るだろうからな。それよりも、ユリーナの件だ。」
「母様?」
「昔は断りきれなかったが、リュカもシャルもよい年齢だ。母親は必要ないだろう?昨日シャルに手を挙げたのもそうだが、このまま関係を続けても伯爵家の得にはならない。2人にとっての母がメアリーなら、彼女を縛りつけるのは可哀想だと思ってな。離縁の手続きを進めている。」

想像出来なかった話に、驚きで言葉が出ない。

「勿論、ユリーナは反対するだろうが、白い結婚、子どもへの体罰。言い逃れできない事実だ。おそらく数日で受理されるだろう。その間、リュカは騎士団の方で暴れてくると言ってたが。期限があれば被害も少ないだろう?」

(それは、思う存分暴れて良いと許可したようなものでは?まぁ、王宮じゃなくて騎士団なら酷くはならない?)

「なるほど。では、父様たちが来るまで自由にしてて良いのですね?」
「ああ。ナナも連れて行くと良い。」
「ありがとうございます。」


部屋へと戻る間、シャルノアの表情は緩んでいた。久しぶりにバズに会える。辺境の街で自由に出来る。ご褒美を与えられた気分だ。



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