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心に壁あり、口に棘あり

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 翌日、自室のベットで目覚めたシャルノアは最悪な気分だった。なかなか寝付けなかったため頭は重く、叩かれた頬は少し腫れぼったい。

(このまま消えてしまえれば良いのに…)

現実逃避真っ最中。
コンコン、

「失礼します、お嬢様。」

メイドたちが身支度をしに入室して来る。有無を言わさず作業を進める辺り、母の指示だろう。

「ナナはいないの?」
「別件で呼ばれておりますので、私たちだけです。」
「…そう。自分でするわ。貴方たちは出て行きなさい。」

(わざわざ監視されてあげる必要なんてないわ。好き勝手させるもんですか。)

「ですが、ユリーナ様のご指示で来ておりますので。」
「だからに決まってるじゃない。必要ないわ。」

メイドたちに罪はないが、今はとにかく1人でいたい。余計なことに心を煩わされたくはない。サッと身支度を済まし、朝食を取りに向かう。既に私以外の家族は集まっていたようで、着席と共に食事が運ばれた。

「シャル、調子はどうだ?」
「心配ありませんわ。」

父の心配そうな言葉に反応しながらも、食欲のなさから思うように食事は進まない。

「ならば、私と共に王宮へ参りましょう。何かの手違いでしょうから、抗議しなくては。」

(いやいやいゃ、貴方じゃ無理でしょう。この人たちの前でよく発言したな。)

 昨日の帰宅時、兄も父も飛び出して行きたい所を我慢したハズだ。陛下と謁見できるものならこんなにのんびりしていない。

「ユリーナ、シャルの気持ちも少しは考えてくれないか?昨日の今日でまた苦痛を与えるつもりかい?」
「ですが、このままではモンティ家の面目は丸潰れです。得体の知れない男爵家に席を譲るなどっ。」

(また興奮してるわ。譲ったんじゃなく、奪われたのよ。バカルド王子のせいでね。)

父と母の会話に心の中で悪態をつきながら無表情を貫く。
ここで何か発言しようものなら、母からの攻撃は鋭利を増すのだ。

「シャルが婚約者じゃないと困るのは貴方だけでしょう?父上も私も、シャルに王子は相応しくないと既に結論づいてます。王家と繋がりがなくては、社交界に顔が広げれないからでしょう?」

笑顔で毒を吐く、魔王リュカ兄到来。
毒を持って毒を制す。鬼婆はダメージを受けたようだ。

「そんな、私はこの家のために…」
「本当にそうでしょうか?実家の兄弟たちの就職斡旋でもしたいのでしょう?」
「リュカ、その辺にしなさい。」
「…はい。母上がこれ以上シャルに構わないのであれば。」


リュカ兄は相当気が立っているらしい。父にも牙を向けそうな勢いである。ため息をついた父はシャルノアに向かって告げた。

「後で書斎へ来なさい。お前に話がある。」

食事を終え、席を立つタイミングで
リュカ兄と足並みを揃える。
同じ方向の自室への道だ。

「兄様、魔王並みの不穏なオーラが背後に。」
「まさか。仏のような神秘的なオーラだろう?」
「毒蛇を浄化されますか?」
「メデューサは強敵だ。私には無理だな。」
「…ありがとうございます。味方になってくれて。」
「勇者と聖女は助け合わなくてはな。」

自室へと着いた所で解散となる。
昔からお転婆なシャルノアにリュカ兄は合わせてくれる。
王宮での教育で口調を直していたシャルノアに、昔憧れていた冒険者の勇者のように振る舞い、冗談や軽口を叩くようになった。どんなに取り繕っていても、昔一緒に夢中になっていた冒険者ごっこは忘れられない。魔物の特徴や攻撃の仕方になぞらえて、敵を倒そうとする姿にシャルノアの心は救われた。辛い時心の中で勇者として戦うことで、嫌なことに立ち向かう勇気が湧いた。

(実際には悪態をついてるだけなのだが。)

勇者リュカ、聖女シャルノア、魔法使いナナは
このモンティ家で暗躍するパーティーである。

(ここに最強の剣士がいて、魔王アルトをやっつけに行く。)

 幼い頃、よく遊んでいた遊びである。
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