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思考の蟻地獄

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 彼女は思う。
この世は不公平だと。

 荒んだ心をなんとか立て直しつつ、馬車の中で自問自答していた。

何がダメだったのか?…そもそも審査の基準なんてあったかしら??

あの子にあって私にないもの?…逆なら思いつくけど??

私が悪いの?…いやいやいゃ、何しでかしたって??何もしとらんわ!


 しばらくして、気づいた。
考えても無駄だ。現実を見なければ。


モンティ伯爵家の1人娘、モンティ・シャルノア。
婚約者候補から晴れて婚約者へと、
祝福を受けるものだと思って向かった先で、
見事に不要の烙印を押されました。

理由も言い訳もなく、ただひと言、
「彼女が良いんだ。」 と。


エクスホード国、第1王子バルド。
王家唯一の王子であり、王位継承権第1位、
容姿才能共に優れた、名声高い美男子。

王家には他に王女が2人いたが、男性が優位な風潮は刷新されておらず、後継者として王太子教育は王子のみとされていた。そのため、王太子妃には王女と協力できる優秀な人物が求められていた。
 
 
 この国の公爵家は2つ。どちらも王子と歳の近いご令嬢はおらず、王子を支えるよう育てられた歳上の男児のみだった。そのため、早くから高位貴族の伯爵家へは召集の手紙が届けられた。あるものは目を輝かせて喜び、あるものは怯え嘆き辞退するなど反応はさまざま。


《伯爵家に連なる5歳以上10歳未満の女児は王子の婚約者候補として、王宮にて教育を受ける権利を有する。ただちに参上すべし。》


この召集によって、王宮へと来た令嬢は数十名。彼女たちはあらゆる基礎教育を受けながら、大人たちの視線に耐え続けた。涙を流し親元へ戻る者、問題を起こし強制退去させられる者。日に日に人数は絞られ、基礎教育が終わる頃には片手で数えられるほどになっていた。
 当時、シャルノアは王子より唯一幼い5歳。歳上のご令嬢に混ざり、教師たちに齧り付き、勉強熱心で大人たちにも認められていた。誰よりも努力し、常にトップを守ってきた彼女は、その容姿や性格も相まって一部では高嶺の花と呼ばれていた。
 
 王太子妃教育は王太子の婚約者となって初めて進められる。その為、早い段階で王家は貴族院と共に話し合い、あらゆる審査を設けて、候補者を絞っていた。そして、この日の夜会で3人のうちから婚約者を正式発表する予定だった。

 しかし、現実は異なる。

第1に、王子はしばしば街へとお忍び探索を繰り返していたこと。
第2に、ある令嬢と出会い何度か探索を続けるうちに恋に落ちてしまったこと。
第3に、そのことを知る者が王子の側近内に限られ、かつ隠されてきたこと。
最後に、王子自身の直筆で、この令嬢の下に夜会への招待状が届けられたこと。

これが、王家主体の夜会で、王家の皆が度肝を抜かれた騒動の原因である。
…つまりは、恋に落ちて正確な判断が出来ないまま、突っ走った王子が元凶なのである。

ただ、問題は
王家のメンツを保つ為、貴族からの不信を防ぐ為、
情報操作が行われたこと。
限られた情報に絞られ、王子の失態を隠蔽するために王家が尽力した結果。

【高嶺の花の伯爵令嬢、冴えない男爵令嬢に敗北した。】


今、シャルノアはこの事実に、
考えても考えても答えが出ず、
思考の蟻地獄から抜け出せずにいる。
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