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3.魔法学院3年生 前編

(69).交流会パーティー

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 夕暮れ時が過ぎ、王宮に少しずつ人が集まり始めている。今回の夜会の目的はガンダルグ、ヴィレス両国との交流である。
 セウブ国の高貴族は自国以外での販路、有力者との繋がりなどを狙って我先にと駆けつける。両陛下はその貴族たちが悪さをしないように見張ること、さらには今後を期待している人物同士繋がりを広げること、王太子の婚約者披露を目的としている。


「楽しみだわ。やっとソフィアちゃんを私たちの家族として紹介できるんだもの。この日をどれだけ待ち望んできたことか。」

「そうだな。ハロルドが寂しがらないように、からかってやらないと。」


 会場には既に貴族たちが集まっており、両陛下は上座に着席している。
 主賓である客人たちは陛下の紹介と共に入場となる。
王太子の入場はお披露目のため、最後である。


「皆のもの、よく集まってくれた。こたびの交換留学を機に、3カ国の交流が叶うこととなった。思い思いに交流を深めてくれ。このような機会は早々ないだろう。まずは新王が立ち、新たな国の歩みを進めておるガンダルグ国じゃ。国王エドガー殿、筆頭魔法使いクロエ殿を始め、国の有力者数名が参加しておる。魔法がない分、技術の発展は凄まじい。是非ともこの国にも取り入れて欲しい。」


紹介と共にガンダルグ国ご一行がまとまって入場してくる。国王を始め有力者として、外交官や騎士団長、宰相などが参加しているため、国の要が集まっているといっても過言ではない。留学生のリュディガーとイアンも最後尾に並ぶ。


「そして、ヴィレス国の方々じゃ。今回は少数での参加ではあるが、全員魔法のスペシャリストだ。我が国とは一風違う魔法であるのでな。話を聞くだけでも楽しめるであろう。魔法研究の進捗を期待しておるぞ。」


ヴィレス国ご一行は正装の上に全員同じローブを羽織っている。自国の紋章入りで光沢のあるローブがこの国のまとまりを示しているようだ。若者が多いのも特徴かもしれない。列の中央にダレンがいるが馴染んで見える。



 客人たちも入場を済ませた所で、料理や飲み物が並び音楽も鳴り始める。穏やかな雰囲気になった所で、再び陛下が声をあげた。


「最後に、我が息子ランベールの婚約者が決まり、式の日取りも決まった。改めて、皆に我が王族の仲間入りをした令嬢を紹介しよう。精霊に愛され、学院でも類の見ない実力を示しておる。ホスウェイト家の1人娘ソフィア嬢が王太子妃として、初のお披露目じゃ。」


陛下の声と共に姿を見せる。
王太子ランベールと共にソフィアは仲睦まじく足並みを揃えて入場してきた。
 艶のあるアメジストのドレスには胸元と足元の広範囲に渡って繊細な刺繍が施されている。複雑な模様は金色の糸で刺されているため、ソフィアの歩みに伴い光を反射してキラキラと光る。
 デビュタントの時と打って変わり、落ち着いた色合いのドレスに、丁寧に編み込まれたアップスタイルの髪型は、大人の雰囲気をだしており、ソフィアの新たな一面を表現してくれている。
 王太子のシルバースーツと共に、お互いの耳に光るピアスまで、婚約者としての装いは完璧だと言える。
 会場には感嘆の声が広がり、未来明るい2人の門出を皆が拍手で祝っていた。
 陛下の護衛についていたハロルドが密かに目元を拭った所は、誰にも見られていない。


「さぁ、皆揃った所で宴の始まりじゃ。グラスを持て。3カ国の発展と我が後継の輝かしい未来に。乾杯。」


陛下の声と共に、会場全体でグラスの心地よい音が鳴る。パーティーの開始と共に、人々の交流が始まった。各々が名乗り合い、会話を共にし、交流の輪が広がっていく。

 学生だけのパーティーの成果だろうか、リュディガーたち留学生たちは率先して自国の人間、他国の人間それぞれの仲介役をかって出ている。学生同士の交流が、親の世代へ広がり、会話の内容も濃密になっている。


「今の所、順調じゃな。わしらも話しに回るか。」


陛下は皇后と共に、会場内を回る。
自身が興味のあったガンダルグ新国の誕生秘話を聞くためにも、嬉々として歩みを進めるのだった。
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