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3.魔法学院3年生 前編

(59).みんなの悩み

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「エドガー、イアンから報告が届いたわよ?」

「ホントか?リュディガーはなんだって??」


「落ち着きなさいよ、また。国王らしく。」

「おう…すまん。」


(素直な所は良いんだけど…いつまでたっても国王らしくないのよね。)


 エドガーは騎士団長時代に幼い頃から仲良しだった子爵令嬢と結婚し、リュディガーが生まれた。
 だが、戦が始まった頃、流行り病で奥さんを亡くしてからは男手1つで息子を育ててきた。
 愛する彼女の忘れ形見を誰よりも大事にしているので、離れている今は気になって仕方がないのだろう。


(普通の親はこうなのよね。つくづく自分が嫌になるわ。)


 そんな彼女の表情はいつもと変わらず、心中は誰にも知られていない。




「リュディガーは火の精霊、イアンは風の精霊と契約したそうよ。会話もできて仲良くなっているなら、これからどんどん力がついてくるわ。楽しみね。」

「すごいことなのか?」


 魔法の浸透していないガンダルグでは、セウブ国での常識はあまり知られていない。


「魔法を学ぶ第1段階で精霊との契約があるの。本人の魔力や質と相性の良い属性の精霊が呼ばれるんだけど、その精霊の姿形、能力で本人の魔力も更に伸びるのよ。光の精霊を呼んだ子は教会で神官として訓練するわ。セウブ国で有名な聖女は上級神官のことよ。怪我の治療や汚染地域の浄化も出来るからどの国からも欲しがられるの。」

「あぁ、聖女は有名だな。うちの国でも欲しいって声がよく上がる。」


「まぁ、滅多に現れないわ。基本属性風火水土の精霊と契約するのが普通よ。精霊と仲良くなっていけば本人の魔力は伸びるわ。リュディガーもイアンも精霊とおしゃべりしてるから、まだまだ魔力は伸びるってこと。」

「2人とも伸びしろいっぱいってことだな。」

「簡単にまとめたわね。ま、そうゆうことよ。」


 自分の息子が他国で実力を伸ばしている。
 親としては心配であるがそれ以上に喜ばしい。
自分の知らない世界、教えてやれないのは寂しいがいろいろなモノを見て、経験して、成長して欲しい。
 そう、エドガーは思う。


「学院では長期休暇があるから、そこで1度帰国出来るはずよ。楽しみね。」

「おう。いっぱい話聞いてやらないとな。」


 会話をしながら思う。
 クロエは子どもたちが恋しくないのだろうか、と。

 ジルベールが言っていた、彼女には息子と娘がいる、と。旦那と不仲と言う訳ではないのは会話の中で感じる。良き理解者、良き相棒、いつもそんな表現をしていた。
 けれど、彼女から子どもたちのことについて聞いたことは今まで1度もない。イアンと接する様子を見ても愛情が乏しい訳ではないように思う。



「なぁ、国に帰りたいとは思わないのか?」

「何急に?もう、お役御免って?」


「いゃ、それはない。むしろずっといてくれて構わないんだが…子どもに会いたくないのか?」

「…王子に聞いたのね?私が覚えているのはよちよち歩いてた頃よ…今更だわ。会っても他人よ。」


 クロエの話を聞きながら、母親としての気持ちはあるんだな、と感じた。



「王子は君の子どもたちと友達らしいぞ?話聞くくらいいいんじゃないか?」

「……気が向いたらね。」


話は終わり、とでも言うかのように足早に立ち去る様子を見てエドガーはなんとも言えない気持ちになった。



 ディール騎士学校にて。
 初日に力を見せてからというもの、子犬が主人にくっつくように、学生たちはジルベールに群がるようになった。 
 騎士同士、訓練を共にしたり教えを請われるのは構わないのだが、元々1匹狼のジルベールにとって四六時中側に居られるのは煩わしい。
 1人になりたくなり、この土地でも逃げられる場所を探していた。騎士学校の屋上は、扉の部分が少し盛り上がっており、階段で登れるようになっている。
 誰か来たらすぐに分かり、かつ下からも見られない1番高い場所。目眩しをすれば逃げるにはちょうどよい場所だった。
 何よりここから見れる景色は良い。
 学院の中庭ほどではないがジルベールのお気に入りの場所になりつつある。


(みんな元気にしてんのかなあ。)


 相棒レオは、ここぞとばかりに空を楽しんでいる。
魔法に詳しくないガンダルグの人間は精霊に対する意識がないので、レオが自由にしててもジルベールの場所はバレない。レオが降りて来たところでエサをやりながら頭を撫でてやる。


(お前も会いたいよな、みんなに。)


中庭でノアや精霊たちと戯れていた頃を思い出す。
ソフィアに対する気持ちは少しずつ変化してきてはいるが、留学を選んだのは気持ちを切り替えるためでもあった。
 仲の良い2人を見ても辛くならないように、ジルベール自身の思いを断ち切るために国を離れた。
 彼女が幸せであれば良い。そう感じれるようになるまではなってきていた。ただ、クロエの存在である。
 実の母親の居場所が分かったら彼女は会いたいと思うだろうか。兄ならば彼女に伝えて判断させるのだろうか。
 最近の彼はこの悩みで気持ちが晴れずにいる。

(子どもに会いたくない親なんて、いるのか?)


この後、同期の騎士が探しにくるまで彼は悩み続けるのであった。
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