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3.魔法学院3年生 前編
(53).皇后とソフィア
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その頃、離宮では皇后による王太子妃教育が始まろうとしていた。国王陛下の隣に二人三脚のように並び続けてきた皇后は、悪い噂が流れることもなく、周りの臣下からも信頼されている実力者である。
ソフィアは挨拶以外で面と向かって会話したことがないので、緊張度合いは相当高くなっている。指定された部屋につき、ノックするとすぐに入室の許可が出た。
「失礼します。」
中に入ると白い丸テーブルの上に茶器がならび、真向かいに優雅にソファに座る皇后がいた。
「本日より、よろしくお願いします。」
「はい。その場でカーテシー。…よろしい。着席まで丁寧に。」
そう促され、皇后の真向かいの椅子に座る。
彼女の合図でメイドがお茶の準備を進めてくれた。数秒後には部屋には2人を除くと誰もいない状態であった。緊張の中、お茶に口をつけ皇后からの視線に耐える。
「ふふっ。そんな緊張しなくても大丈夫よ。ちゃんとソフィアちゃん、基礎は出来てるわ。」
スイッチが切り替わったかのように、フワッと笑う皇后の表情は厳しいものから可愛らしいものへと変化した。
「ランから聞いた通りね。ホント可愛らしい。」
口元を扇で隠しながら笑みを溢す彼女は、息子が2人いるとは思えないほど若々しい。普段はキリッとした表情なのに笑うとキレイと言うより可愛いが似合うような女の子らしさがある。
「どうお聞きになってるのか、気になりますが…緊張しますよ。ちゃんと出来てるのか自信がないので。」
「ホント?それはハロルド君の褒め言葉が足りないのね。基礎的な所はもう既にどこにでも出せるくらいは完璧よ。マナーは大丈夫だから、明日からは政治的な事とか王宮内のことを詰めてくわ。」
そう語る皇后は柔らかく微笑んで、気安く話しかけてくれる。ふと、お母さんと話すってこんな感じなのかなと想像してしまった。
「貴方のお父様と陛下が学院でも仲良しだったのは知ってるでしょ?学年では1つ違いなんだけどね。貴方のお母様クロエは陛下と同じ学年だったのよ。私がハロルド君と同い年。よく4人で集まってお喋りしてたわ。」
突然の話にソフィアは戸惑う。母親のことは今まで触れずにきた。ハロルドにもアルフレッドにも尋ねたことがない。まさか、こんな所で話題に出るとは思わなかった。
「母は…どんな人だったんですか?」
「うぅん。ひと言で言うなら才色兼備ね。キレイな容姿で魔法の実力もすごくてね、人気者だったわ。思いついたら即行動ってタイプの人だから、すごく大胆でね。私と真逆だったから憧れてたの。陛下との仲をとりもってくれたのも、きっかけはクロエ様だったわ。もちろん、ハロルド君もね。」
「知りませんでした。物心ついた時にはいなかったので。」
「そうだったわね…貴方が生まれた時には幸せそうに抱いていたのよ?王宮にも家族で遊びに来てくれてね。小さな貴方が歩く様子を手を取りながら見守ってた。だからね、いつか戻ってきたらソフィアちゃんは思いっきり怒って良いのよ?貴方とアルフレッド君にはその権利があるわ。」
「怒りたいのかどうかも分かりません。母がいないのが当たり前だったので。父と兄がその分大切にしてくれてましたし。」
「…そうね。でも、母親が必要な時もある。これからは私を母親だと思って頼ってくれると嬉しいわ。ランには勿体無いくらいの良い子だから、逃げられたら困っちゃう。」
そう大袈裟に言って接している皇后は姉のような、母のような不思議な感覚だった。父や兄ともまた違う温かさを感じ、自然とソフィアも笑顔になるのだった。
「さ、もう少し時間があるわ。こんな感じで話しながらで良いからこの国の貴族年鑑をおさらいしましょうか?パーティーで会っても困らない程度には名前や家系、容姿や領地の特産なんか話題になるものをおさえておかなきゃね。」
その日は時間いっぱい、お茶をしながら雑談を交えたお勉強会だった。皇后のもつ貴族情報は独特で、覚え方も面白かった。
この人の名前長いのよねーと言いながら、名前の頭文字を思い出すのに若ハゲなのよ、とか短気でお馬鹿な息子、とか外では言えないような言葉で繋いでいく。
思い出しながら笑い、本人を見て笑えるので、実際の場で落ち着いて対応出来るのだと教わった。
今日1日でいろいろな表情が見れて、皇后はとても親しみやすくなった。ソフィアにとって皇太子妃教育は楽しみなものになった。もちろん、これがソフィア以外なら厳しい表情の皇后の出番なのだが。
ランベールが選んだ女性で、陛下も皇后もお気に入りなのである。多少甘くなるのも仕方ない。
(本当に聡明な子だわ。見た目はクロエ様なのに、中身はハロルド君に近い。親しくなるほど表情豊かになるのね。)
今日1日を振り返って皇后は思う。
彼女は理想の皇太子妃だ。
本人の努力もあり、ハロルドやアルフレッドの努力でもある。母クロエを覚えていないのに、限りなく彼女に近づいている。そこにはどれだけの苦労や努力、寂しさがあったのだろう。
(ソフィアちゃんが許しても、私は許せないわ。幼い2人をハロルド君に押し付けて欲望のままに動くなんて、母親のする事じゃない。)
仲が良かっただけに、何の相談もなく突然消えたクロエの行動は皇后にもショックな出来事だった。
子どもたちを心配していたが、ハロルドが仕事を終えるのを早めたり、陛下にお願いをすることが増え、子煩悩になる様子を聞き、安心したものだ。
王子2人を育てた母として、友人として、アルフレッドやソフィアをあそこまで育てたハロルドは凄いと思っている。
ランベールから話を聞き、王太子妃教育を任せると陛下から話を聞いた時は今日が楽しみで仕方なかった。
娘として、将来のお嫁さんとして関われることが嬉しい。皇后にとっても、皇太子妃教育は楽しみなものになっていたのである。
ソフィアは挨拶以外で面と向かって会話したことがないので、緊張度合いは相当高くなっている。指定された部屋につき、ノックするとすぐに入室の許可が出た。
「失礼します。」
中に入ると白い丸テーブルの上に茶器がならび、真向かいに優雅にソファに座る皇后がいた。
「本日より、よろしくお願いします。」
「はい。その場でカーテシー。…よろしい。着席まで丁寧に。」
そう促され、皇后の真向かいの椅子に座る。
彼女の合図でメイドがお茶の準備を進めてくれた。数秒後には部屋には2人を除くと誰もいない状態であった。緊張の中、お茶に口をつけ皇后からの視線に耐える。
「ふふっ。そんな緊張しなくても大丈夫よ。ちゃんとソフィアちゃん、基礎は出来てるわ。」
スイッチが切り替わったかのように、フワッと笑う皇后の表情は厳しいものから可愛らしいものへと変化した。
「ランから聞いた通りね。ホント可愛らしい。」
口元を扇で隠しながら笑みを溢す彼女は、息子が2人いるとは思えないほど若々しい。普段はキリッとした表情なのに笑うとキレイと言うより可愛いが似合うような女の子らしさがある。
「どうお聞きになってるのか、気になりますが…緊張しますよ。ちゃんと出来てるのか自信がないので。」
「ホント?それはハロルド君の褒め言葉が足りないのね。基礎的な所はもう既にどこにでも出せるくらいは完璧よ。マナーは大丈夫だから、明日からは政治的な事とか王宮内のことを詰めてくわ。」
そう語る皇后は柔らかく微笑んで、気安く話しかけてくれる。ふと、お母さんと話すってこんな感じなのかなと想像してしまった。
「貴方のお父様と陛下が学院でも仲良しだったのは知ってるでしょ?学年では1つ違いなんだけどね。貴方のお母様クロエは陛下と同じ学年だったのよ。私がハロルド君と同い年。よく4人で集まってお喋りしてたわ。」
突然の話にソフィアは戸惑う。母親のことは今まで触れずにきた。ハロルドにもアルフレッドにも尋ねたことがない。まさか、こんな所で話題に出るとは思わなかった。
「母は…どんな人だったんですか?」
「うぅん。ひと言で言うなら才色兼備ね。キレイな容姿で魔法の実力もすごくてね、人気者だったわ。思いついたら即行動ってタイプの人だから、すごく大胆でね。私と真逆だったから憧れてたの。陛下との仲をとりもってくれたのも、きっかけはクロエ様だったわ。もちろん、ハロルド君もね。」
「知りませんでした。物心ついた時にはいなかったので。」
「そうだったわね…貴方が生まれた時には幸せそうに抱いていたのよ?王宮にも家族で遊びに来てくれてね。小さな貴方が歩く様子を手を取りながら見守ってた。だからね、いつか戻ってきたらソフィアちゃんは思いっきり怒って良いのよ?貴方とアルフレッド君にはその権利があるわ。」
「怒りたいのかどうかも分かりません。母がいないのが当たり前だったので。父と兄がその分大切にしてくれてましたし。」
「…そうね。でも、母親が必要な時もある。これからは私を母親だと思って頼ってくれると嬉しいわ。ランには勿体無いくらいの良い子だから、逃げられたら困っちゃう。」
そう大袈裟に言って接している皇后は姉のような、母のような不思議な感覚だった。父や兄ともまた違う温かさを感じ、自然とソフィアも笑顔になるのだった。
「さ、もう少し時間があるわ。こんな感じで話しながらで良いからこの国の貴族年鑑をおさらいしましょうか?パーティーで会っても困らない程度には名前や家系、容姿や領地の特産なんか話題になるものをおさえておかなきゃね。」
その日は時間いっぱい、お茶をしながら雑談を交えたお勉強会だった。皇后のもつ貴族情報は独特で、覚え方も面白かった。
この人の名前長いのよねーと言いながら、名前の頭文字を思い出すのに若ハゲなのよ、とか短気でお馬鹿な息子、とか外では言えないような言葉で繋いでいく。
思い出しながら笑い、本人を見て笑えるので、実際の場で落ち着いて対応出来るのだと教わった。
今日1日でいろいろな表情が見れて、皇后はとても親しみやすくなった。ソフィアにとって皇太子妃教育は楽しみなものになった。もちろん、これがソフィア以外なら厳しい表情の皇后の出番なのだが。
ランベールが選んだ女性で、陛下も皇后もお気に入りなのである。多少甘くなるのも仕方ない。
(本当に聡明な子だわ。見た目はクロエ様なのに、中身はハロルド君に近い。親しくなるほど表情豊かになるのね。)
今日1日を振り返って皇后は思う。
彼女は理想の皇太子妃だ。
本人の努力もあり、ハロルドやアルフレッドの努力でもある。母クロエを覚えていないのに、限りなく彼女に近づいている。そこにはどれだけの苦労や努力、寂しさがあったのだろう。
(ソフィアちゃんが許しても、私は許せないわ。幼い2人をハロルド君に押し付けて欲望のままに動くなんて、母親のする事じゃない。)
仲が良かっただけに、何の相談もなく突然消えたクロエの行動は皇后にもショックな出来事だった。
子どもたちを心配していたが、ハロルドが仕事を終えるのを早めたり、陛下にお願いをすることが増え、子煩悩になる様子を聞き、安心したものだ。
王子2人を育てた母として、友人として、アルフレッドやソフィアをあそこまで育てたハロルドは凄いと思っている。
ランベールから話を聞き、王太子妃教育を任せると陛下から話を聞いた時は今日が楽しみで仕方なかった。
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