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2.魔法学院2年生

(45).社交の場

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 会場内は社交の場が広がっていた。婚約者の決まっていない者にとって、夜会の場は異性との距離を詰めることのできる交流の場である。
 アルフレッドのように令嬢たちに群がられるのも、彼が特定の相手を作らないからなのだが、女性にとっての有力物件として高い位置にいるためでもある。


「カルディナ、気にいる子いた?」

「全く。ソフィー以外は皆同じに見えるわ。」


「俺もそろそろ落ち着きたいんだけどなあ。」

「あれだけいろんな娘と踊ってるのに、誰もピンとこないのー?贅沢ねえ。」


カルディナの揶揄うような態度に笑みで応える。
決して嫌悪している訳ではないのだが、信頼できる相手にはまだ出会えていない。

 彼の母親は幼い自分たちを置いて、自由奔放に振る舞ってきた。妹が切ない思いを抱えていたことも、父親が文句ひとつ言わず苦労して仕事をしながら子育てをしてくれていたことも知っている。
 果たして自分は大切な相手に出会えるのだろうか?未だに想像出来ずにいる。


 ふと視線をずらすと、会場へと戻ってくる親友と妹の姿が見えた。妹に本気になっているランベールを羨ましく思うこともある。大切な妹を任せてる相手として不足はない。
 歳の差も考えて、彼女のペースに合わせている様子を見ると申し訳なく思うこともあるが、それだけ好きになれる相手がいる、ということが彼を強く、逞しく成長させているようにも思う。


「なんかあの2人、いつもと違わない?」


違和感を感じて、今日の相棒カルディナに聞く。
うーん、と考えながらカルディナは言う。


「なんか違うけど、なんなんだろ?ソフィーが甘えてる感じ?」


じっと見つめると、お互いの相手を見る目が柔らかい。


(きっと何か進展したんだな…ランのやつ。あとで問い詰めてやる。)




同じ頃、会場にいたジルベールも2人の様子に気づく。


(フィアの表情が柔らかい。いつの間にあんな距離詰めたんだ?)


ジルベールはシンシアのエスコートから逃れるためもあるが、久しぶりに令嬢たちのダンスの申し込みを受け入れていた。
 そのせいもあってか、順番待ちする令嬢たちから離れられず、ソフィアの側に戻ることが出来ずにいた。


(危険はないからと思って油断しすぎたな。学院にいる分大丈夫だと思ってた。)


ランベールの横にいるソフィアは安心しているような、朗らかな笑顔に見える。焦る気持ちを表情には出さないように気をつけながら、令嬢たちの相手をしていた。


 
 その頃のシンシアは…

 しばらくはセウブ国の男性たちのダンスの相手をしていたが、途切れた所で壁の花となり、情報を集めていた。
 彼女は未だ、王太子妃を諦めていない。カルレイ国という小さな国の1皇女で終わる気はさらさらなかった。
 両親に蝶よ花よと可愛がられた彼女は、自分のことを限りなく高く見積もっている。本気を出せば大国の王太子妃なんてすぐになれると考えていた。

 だが、いざこの国に来てみれば、王太子は1人の女の子しか見ておらず、しかも周りのご令嬢たちも邪魔することなく応援しているとまでいう。
 羨ましがられている相手や、ひ弱な小娘ならば蹴落とす気でいたが、王子本人が守っているとなると迂闊に手を出せない。


「見て、あの2人の様子。とてもお似合いだわ。」

「仲良しよね。お互いに思い合っているのが伝わってくるわ。」

「ランベール様直々にお願いされたらお邪魔なんて出来ないわよね。歳が離れてる分、可愛くて仕方ないみたいよ。」


周りから聞こえてくる声は彼らを肯定するものばかりである。このままでは自分が突き入る隙がないではないか、と焦るシンシアであった。
 弟、ジルベール。彼はきっとあの2人の仲を快く思っていない。自分に協力してもらわなければ、と思っているが、印象が悪いのか仲良くなれずにいる。
 今も自国の付き合いも大事なので、とエスコートを離れ令嬢たちとダンスを踊っている。彼を上手く味方に付ければ…と策を練っていた。


「ご令嬢、祭りを楽しめているかい?」


ふと、話しかけられた相手は小太りの叔父様。身なりからして、この国の貴族、それも身分が高そうである。


「はい。初めてのセウブ国で不安でしたが、楽しませて頂いております。」


振り返り、礼を尽くす。


「カルレイ国の皇女様で合っておりましたかの?初めまして。クレバリー伯爵と申します。この国の官僚をまとめております。」


自己紹介してくる相手は自分のことを知っているらしい。改めて名乗るとふくみをもたせたような笑みを浮かべた。


「留学も考えておられるとか?私の娘も学院に通っておりますので仲良くされてはと思いまして。どうでしょう?まだしばらくこちらにおられるのなら、我が家にご招待させて頂いても?」


「お願いしたいわ。こちらの試験のこともお聞きしたいですし。」


「なるほど。すぐに情報を集めましょう。是非ともご贔屓に。」


怪しい繋がりが広がり始めた瞬間だった……。
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